第21回:Hong Kong (10)更新日2006/05/18
香港島でまだやり残していることといえば、ビクトリア・ピークへ登ってそこからの夜景を眺めることだ。行きはポストカードなどに必ず登場する、急勾配をのろのろと登っていくピークトラムを使って中腹にある展望台へ向かい、日が暮れる前に山の頂上まで歩いて登った。
そこにはかつて英国総統府の熱帯病患者の為の病院があったらしいのだが、現在では特に何ということもないベンチが置いてあるだけの展望台があり、人影もまばらだった。その地に立っている観光客向けのボードには、香港近海で活躍した英国海兵隊達の中には、この地特有の熱帯性の奇病にかかる者が多く、このビクトリアピークにある避暑地は彼らの休息に必須の施設であったとあった。
しかしどちらにせよここは亜熱帯の地、たとえ少しくらい標高の高い所へ避難したからといって、彼らの多くは完治することはなかったのだ。そして台風でこの施設の大半が吹き飛ばされて以降は、期待したほどの効果も得られなかったために放棄されることになった。日の沈むことのないとまで喩えられた大英帝国も、この地の暑さには相当梃子摺ったようだ。
頂上へは車道を利用して、自家用車やタクシーで来る人も少しはいたのだが、途中の歩行者用の山道では西欧人男性と一度すれ違っただけで他には誰もいないという寂しさに、まだまだアメリカ生活で身についた、周りに人影がないことに対する恐怖をひしひしと感じた。
こういう感覚は日本にいた時にはそれほど意識したことのないものだ。山道を下った山の中腹には、もう少し整備された遊歩道があり、のんびりと散歩する地元民や、ここから眺められる夜景を求める観光客の姿が多く見られた。
たしかに多くの観光客が来るだけの事はあり、摩天楼と遠くに煌くネオンの明かり、湾を忙しく行き来するフェリーの影は、どれだけ眺めても見飽きるものではなかった。
帰りはローカルバスに乗って山を下り、街中から住宅地がある山の中腹までを繋ぐ通勤用の世界一長いエスカレーターに乗って、香港島側の夜の街ランカイホンへ向かった。
ここはカオルーンの夜の街のように庶民的な顔ではなく、洗練されたカフェやクラブが軒を並べ、客層もその多くが香港島で働く西洋人ビジネスマンが中心だ。こういう風に、いろんな顔を一度に楽しめるのが、香港らしいところであり、楽しみであるといえる。
-…つづく
第22回:Shanghai
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