第451回:全米忍者選手権
全米忍者選手権? そんな競技会があるのをご存知でしたか?
もともと忍者というのは忍びの者、人目にさらされることなく、いつも陰になりヒッソリとことをなすのを信条としている、栄光を求めることもなく浮世を渡り歩くものだと思っているのは日本人だけのようなのです。
かれこれ3、40年前に、スペイン領の小さな島、イビサで暮らしていたことがあります。私たちが住んでいた海岸ふちのアパートから200メートルほど町寄りのマンションの一階に道場があり、そこで本来のマジメなマーシャルアーツ、柔道、空手、合気道などを教えていました。
ある日、買い物から帰る途中、子供たちが木登りをして遊んでいる光景が目に入りました。 私も子供の頃、木登りの達人でしたから、乗っていたモペット(49ccの原付)を止め、スペインの子供たちの木登りブリを眺めていたところ、その子供たち、20人はいたでしょうか、皆奇妙な服を着ていることに気がつきました。
それが忍者(西洋がイメージする忍者ですが)のユニホームだと後で教えられましたが、お揃いの忍者衣装に身を固め、先生らしき大人忍者のインストラクターが大声で叫びながら指導しているのです。静かに忍ぶ精神は微塵もなく、大声で騒ぎまくるなんとも賑やかなスペイン的忍者(のヒヨコですが)集団でした。 その日は素早く木に登り、そして飛び降り、転がり、岩陰に身を隠すトレーニングのようでした。
その時、隣に住んでいた合気道に凝っているペペに訊いたところ、苦々しい表情で、忍者グループはとても人気で、子供たちの受講生も多く、道場の経営には良いけど、きちんと組織された協会がなく、自称忍者道の達人が勝手に生徒を集めているだけで、色々な小道具を売るは、怪我人が出るはで、道場の使用を禁止しようかと…考えていると言っていました。
ところが、何でもショー化した競技に変えてしまうアメリカでは、4大TVチャンネルのNBCがスポンサーになり『』アメリカ忍者戦士選手権』なるものが開催されているのを知りました。人口の沼地や燃えている原野を走り抜け、高い鉄棒に飛びつき、乗り越え、忍者の身を隠す術は忘れられ、派手に動き回ることに終始する競技です。
日本人なら、これが忍者と一体どう関係あるの…と思わずにはいられないでしょう。ともかく、順位が決まり、優勝者が出るしかけになっているのです。昨年の忍者チャンピオンは、アイザック・カルディエロ君で、賞金1ミリオン(1億2千万円相当)を獲得しました。
インターネットでその決勝戦なるものを見て、またまた驚きました。なんと日本人チームが決勝戦に残って、アメリカチームと対戦しているではありませんか。参加選手?忍者はなんだか落ちこぼれの体操の選手と三流のフリークライマーの掛け合わせのように見えました。決勝はラスベガスで行われた…と言えば、後は推して知るべしでしょう。
鉄人レースで一番人気は、スパルタンレースです。自転車、水泳、マラソンのトライアスロンはスポーツとして定着しましたが、こちらスパルタンレースの参加者、観衆も大変なもので、世界一過酷とも言われています。このレースはクロスカントリーにアメリカの軍隊トレーニング(シール)のようなロープで登ったり、槍を投げたり、トラクター用の大きなタイヤを腰に巻いたロープで引きずりながら走ったり、火をくぐったりで、混ぜ合わせたもので、昨年の選手権には20ヵ国からの参加者があり、優勝者のアメリア・ブーンさんは弁護士です。
このスパルタンレースは随分、あきれるくらい良く組織されていて(これもアメリカ人の得意とするところですが)、昨年全米で120もの大会が開催されています。なんせこの競技の理事長は元ニューヨーク株式取引所で働いていたというジョー・デ・セナさんで、もっともっと観衆を集め、テレビで放映し、アメリカンフットボールに追いつけ追い越せ…と語っているのです。
世界中に重く掴みにくい丸い石を持ち上げて運んだり、投げたり、長大な丸太を運んだりの競技がたくさんあります。それはその土地の生活、仕事に根ざしたお祭り行事の一つで、きわめてローカルなものでした。ところが、そのような極地方的な競技の面白いところ、見せ場を取り入れた競技会がアメリカで盛んに行われるようになりました。
本来、フィットネスというのは自分の身体のために行うはずのものですが、クロスフィットネスという他の人に見せるためにショー化したスーパーフィットネスが急成長しています。昨年の参加者は27万3,000人もあり、スポンサーのテレビ局から総額ですが2ミリヨンドル(2億4,000万円相当の)の賞金が出ています。
テレビ局が取り仕切るショー化した、見世物のようなスポーツに人気が集まるのは、奇妙であり、悲しい現象です。そんなショー化されたスポーツとも言えないようなゲームに参加する人にとっては、自分がテレビに出て、もし優勝でもしたら、バスケットやアメフトのスーパースターの仲間入りができるかも…というのが大きな要因なのでしょうね。
私たちが観衆のいないスポーツ、クルージングや山登りが好きなのとは正反対の集団がいて悪いとはいいませんが…。
近いうちに、忍者がオリンピックの正式種目になるかもしれませんよ。
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