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■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から

第421回:雪不足と庭の緑の芝生の関係

更新日2015/07/09



コロラド州の積雪量は例年の60%程度で、これからたくさん雨が降ってくれない限り、今年の夏の水不足、水枯れは約束されたようなものです。

雪不足はスキー場に大きな影響を与えます。いくら人口的に雪を作るマシン(スノーメイカーと呼んでいます)をフル稼動させても、とても天然の雪には及ばず、昨シーズンは早々と閉鎖したスキー場がたくさん出てきました。カルフォルニアやオレゴン州では、まったくオープンできなかったスキー場さえ数多くあります。

アメリカ全体が雪不足で旱魃かといえばそうでもなく、東海岸や北東部の州では記録破りの降雪量にとても苦しめられました。そして、これから雪解け水と小さな地域でちょっとした集中豪雨でもあると、すぐにも大洪水になると警報を鳴らしています。世界の富と同じで、極端に偏る傾向があり、自然も平均して全土に優しい水をもたらしてはくれません。

先日、フランス語の先生(彼女は高校生の息子と二人暮らしです)が芝生に撒く水の自動スプリンクラーシステムが動かないとこぼしていました。そこで私は、「ウチのダンナさんなら、なんでも治せるよ」と彼の許可なしに私が勝手に安請け合いしてしまいました。三流の便利屋を自認するダンナさん、頼んだのがファッショナブルで魅力的なフランス語の先生だったことも大いに関係があるでしょう、本職風の工具バッグにずっしりと道具、パーツなどを詰め込み勇んで出かけていきました。

オートマティック・スプリンクラーシステムというのは、庭に水をやるゾーンをいくつかに分け、時間を設定しておくと順に水が吹き出てくるもので、いちいち水道栓をひねったりしなくてもいいし、小旅行などで家を空けるときなどにはとても便利です。しかし、天候に関係なく、雨が降っているときにも、庭に水を撒くことにもなります。偶然、マグレだ、と謙遜しながら、ダンナさん簡単に修理しました。

その時、町や団地の家、100%といってよいでしょう、庭の芝生に水道水を撒いていることにショックを受けました。アメリカの普通の家では、道路に面した方をフロントヤードと言い、ミドリ、ミドリした芝生をきれいに刈り込み、手入れをして、ほとんどマニュキアのように仕上げます。それが市民の義務、隣家へのマナーにさえなっています。多少は隣人に対するミエもあるでしょう。昔から"隣の家の芝生はきれいな緑"と他の家のものが良く見える引き合いに出されるくらいですから。個人の住宅で消費される水、しかも飲料水を芝生に撒く量は膨大なものになるでしょう。

もともと、砂漠に近いところに、天気が良い、晴天日が多いという理由で人々が押し寄せてきたのですから、その人たちが消費する水が不足するのは、異常気象でなくても当たり前です。カルフォルニア州は、ニューヨーク州を抜いて人口の一番多い州になってから久しいですが、水源は極めて限られたシエラネバダ山脈の雪、水系に限られています。太平洋にそのまま流れ込む大きな川はありません。そこへカリフォルニア的な広々とした団地をどんどん造成し、"芝生は緑"をやれば、水不足になるのは目に見えていたことでしょう。おまけに郊外の家には"プール"もありますから、とんでもない量の水が必要になります。

コロラド川の下流にある二つの大きな人造湖、パウエル湖、ミード湖は40%以下の貯水量しかありません。

コロラド州でも、デンヴァーやボルダー、コロラドスプリングなどの大きな町があるロッキーの東側ではこの夏に節水規制になることは避けられません。夏には庭に水を撒くことが禁止されるでしょう。

幸い、私たちが住んでいるロッキーの西側には大きな町がない上、コロラド川とガニソン川があるので、少なくとも今年の夏に節水規制が敷かれることはないとの予測です。

日本の枯山水は節水のためではないでしょうけど、電気、ガソリン、水など、すべて何でもかんでも盛大に消費するアメリカンライフは、日本的な庭、あまり水を使わない庭に切り替えていくべきでしょう。

ウチのダンナさん、飲み水である水道水を庭に盛大に撒くこと自体が問題で、飲み水用の配管と庭、トイレ用の配管給水は別にすべきだ…。現在の水道料金システムも、たくさん使ったら安くなるのではなく、規定以上使ったらその分は2倍、3倍の料金にすべきだと言っています。また、アラスカからテキサスまでの石油用のパイプラインを敷設しているように、水が余っている、多すぎるアメリカの北東部、中西部と西海岸を結ぶ水用のパイプラインを真剣に検討すべきだとか…、ありえない妄想を述べています。

これが私たちの庭だけの問題なら我慢できるでしょうけど、農場、牧場の水枯れは深刻です。今年は、コロラド川の水に頼っている農地の63%しか耕作できないだろうと言われています。

私たちは、地下水を汲み上げて使っていますから、水はいくら使ってもタダなのですが、それでも水洗トイレを節水用のトイレに取り替えました。使用済みの紙も下水に流さず燃やすようにしています。なんだかとても虚しい抵抗ですが、水を大切に使おうとはしています。 それにしても、地下水が枯れたら、ここに住むことはできません。人間どこに住もうが、水なしでは生きることができないのですから。

 

 

第422回:自然回帰運動とグリスリー熊

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Grace Joy
(グレース・ジョイ)
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中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

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