第433回:顔写真が大好きなアメリカ人
今では、新聞に写真が使われることに疑問を挟む人は誰もいません。写真も立派なジャーナリズムの一つで、フォトジャーナリズムという言葉が生まれ、文章よりも一枚の写真が多くのことを物語ることがあるのを否定する人はいなくなりました。
一昔前まで、『The Times』(イギリスの新聞です)では写真を一切載せずに、写真を使ったセンセーショナリズムを排除しようとしていましたが、やはり時勢に流され? 今では写真を使い始めました。
日本で一時、『フライデー』とか『フォーカス』という文章より写真、主に盗み撮りしたような"衝撃的"な写真で大ヒットした週刊誌がありました。本当に写真の力は偉大です。パパラッティが頑張る所以です。
アメリカの週刊誌、『タイム』や『ニューズウイーク』、『アトランティックマンスリー』でも、写真が大きくモノをいいます。その写真攻勢に流されてのことか、編集長の顔写真、コラムニストの顔写真、その記事を書いた記者の顔写真まで、小さいながら載るようになりました。うちのダンナさん曰く、「オメーたち、なにも顔で記事を書くわけじゃないだろうに」と言うことになりますが…。
ダンナさんにそう言われて、地元の新聞を今一度チェックしてみたところ、なるほど呆れるくらい大量の写真、顔写真が使われていることに気が付きました。
アメリカのどこの町のどんな新聞にも、大量の写真が使われています。そして、日曜版にはさらにたくさんの綴じ込み版、テレビの番組案内、車のテスト、主婦向け、子供向けに編集した特集などがゴソッと入ってきます。その中で大きな比重を占めるのが、不動産と車の宣伝です。
不動産屋さんの宣伝は、売り家の写真、その家の広さ、間取り、特徴が書かれていますが、その脇に連絡先と担当者の顔写真が必ず載っているのです。それも、その優秀な担当者が8~10の物件を扱っていると、新聞の一面に同じ顔が8~10も並ぶことになります。
女性の業者ですと、髪をセットし、ハリウッド映画に即出演できるようなメイクアップをし、真っ白な歯を見せてニコリと微笑んでいる写真が使われます。男性もいかにも温厚誠実を絵に描いたような微笑みを浮かべ、ハデ過ぎず、しかし堅苦しくない背広姿で写真に納まっています。なんだか、家を売っているのか、お見合い写真をばら撒いているのか分からなくなります。
あなたの顔よりも、そのスペースで物件の情報や写真を載せたほうが良いのじゃないかと思うのは私だけかしら。それに超ドブスの不動産屋さんはどうするのかしら…。
車屋さんも、私は決してウソをつきませんとばかりに、家族まで総動員した写真を載せたりしています。私たちは車を買うので、アナタがどんなに美人の奥さんと3人もの可愛らしいお子さんを持っていようと知ったことではない…と思うのですが…。
顔写真オンパレードは、ありとあらゆる職種の宣伝にまで浸透しており、お医者さん、歯医者さん、大工さん、配管工、旅行代理店、老人ホーム、ダイエット・コンサルタント、マッサージ・セラピスト、果ては精神科のカウンセラーまで、自分の顔写真を載せて宣伝しています。
もちろん、歯医者さんの顔写真は、ニコリと微笑んだ口元からタイルのように綺麗に並んだ真っ白い歯が覗いています。乱杭歯、味噌っ歯(コレ、すごい表現ですね。ダンナさんの入れ知恵です)の歯医者さんには誰も行かないでしょうけど…。
最悪なのは、選挙の時の写真で、これは家族総動員が義務付けられているかのようです。 ホレ観て、私はこんなに立派な家庭を持ち、理想的な夫(もしくは妻)なのです。誰からも信頼される人間なのですと言わんばかりの表情で、"家族全員幸せいっぱい"に写されたニセモノ臭い写真を使います。
政治家にセックススキャンダルと離婚が多い原点がここに見えます。人間、無理をしていかにも幸せ!なんて外聞を取り繕うと、どこかでボロが出てくるものなのです。
うちのダンナさんのか細い日本の記憶では、選挙では本人だけの写真を使うけど、家族にまで"被害が及ぶ"ようなニセモノの家族円満写真は出回っていないのではないかと言っていますが、どうでしょうか…。
どうにも、アメリカ人全般に自分を見せたがり、他人に観てもらいたがる性格が強いようです。他の人に顔を知られて良いことなどあまりないのですが…と書いてから、このコラムにも私の写真が載っていることに気が付きました。
編集部のKさん、この写真の私、チョット酷い映りだとは思いませんか。本物はモット○○のはずだと思うのは本人だけなのでしょうね。
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