第436回:王様の指輪 "The Ring of the Load"
ワグナーのオペラ"ニュールンベルグの指輪"やトールキンのベストセラー小説"王様の指輪"で有名になったように、西洋で指輪は、そこに付けられた宝石や台になっている金や銀、プラチナなどの貴金属の価値よりも、神秘的な力、象徴的な意味合いを持っています。
ダイヤの婚約指輪(おそらく世界を牛耳るダイヤモンド業界の陰謀の匂いがしますが…)は、それを指に嵌めていれば、私は婚約していますというステートメントを発信していますし、 結婚指輪はもっと明確に、"私(俺)は結婚しているから、ヤマシイ根性でミダリに近づくな、その覚悟でアプローチせよ"というかなり強力なメッセージを発信しています。
既婚のプレーボーイが結婚指輪を外し、独身ヅラで夜の街を徘徊し、これはという女性と遭遇しても、彼の手に指輪のアトがくっきりと残っていて、既婚であることがバレたとか、家に帰った時、指輪を嵌め忘れ、奥さんにどうしてあなたは指輪を外しているの…と、浮気がバレたりと、安い小説やテレビのメロドラマに使われたりします。
一般的に、アメリカ人は指輪が大好きですし、指輪文化の中に生きています。私の時代(半世紀近く昔のことになってしまいますが)、高校卒業記念の指輪というのが幅を利かせていました。私が出た、ド田舎の義務教育の高校、余程のことがない限り誰でも卒業できるような高校でさえ、卒業生は記念の指輪を買います。
そうなのです。学校がプレゼントしてくれるのではなく、大枚をはたいて自分で買うのです。 卒業のお祝いに両親や親戚、知人がご祝儀として、僅かですが、お金を包んでくれるので、それを指輪購入に当てることが多いようです。
まず、誓ってもいいと思いますが、私が出た田舎の高校で、指輪を買わなかったのは私だけだったと確信しています。第一、その高校、スミスヴィル・ハイスクールは誰でも入れるし、誰でも卒業できるどうしようもなくレベルの低い公立の高校でした。私自身、その高校をとても嫌っていたので、2年生の時、国の統一試験を受けて卒業資格を取り、大学に移ってしまいました。でも、卒業式の時には高校に戻り、親戚、両サイドの祖父母からお祝いのお金を貰い、それで中古のカメラ、一眼レフのアサヒペンタックスを買いました。
第二の理由は、指輪を嵌めるのが好きでなかったからでしょう。卒業記念の指輪は、これほどゴテゴテとした醜いデザインが存在するのかと、あきれるくらい醜悪です。まず、指輪のサイズが大きすぎるのです。大きな宝石の回りを小さなクズ宝石で囲み、そこに学校の名前、もしくはその学校のマスコット、私の高校はワリアー(インディアンの戦士)でしたが、ライオン、ウルフ、イーグル、ベアーとか元気の良い、強そうな動物などを学校のマスコットシンボルにすることが多いのですが、それを刻み、卒業年も入れ、大切な自分の名前も入れます。 ですから、とてもスッキリとしたスマートなデザインの指輪に仕上がるはずがありません。 いずれにしても、私には必要のないものでした。
それに加えて、スティーディー(的を絞ったデートの相手)がいる男子の場合、相手の女性に、"貴女だけが僕の恋人だ!"と宣言するように、自分と相手の名前を彫った卒業指輪をプレゼントする奇妙な習慣があります。アメリカでモテようと思ったら、お金持ちの両親を持つか、必死になってアルバトをしてデートの費用(これは男子持ち)だけでなくプレゼントする指輪のお金も稼がなければならないのです。
どんな田舎町やそんな町の郊外にあるちっぽけなモールにも宝石屋さんがあり、よく潰れないで頑張っているな~といつも感心していたのですが、案外地元の学校とつるんだおいしいシゴトをしているのかも知れません。
このテーマを書き始めたのは、私の宝石箱…と言えばものすごい財宝がゴッソリ入っていそうに聞こえてしまいますが、お祖母さんがクーポン券を貯めてタダで貰い、10歳くらいの私にプレゼントしてくれたオモチャの指輪(コレが私にとって最初のものでした)とか、亡くなった従姉妹の形見のヒッピー風の銀細工のイヤーリングとかばかりで、ガラクタ箱と呼んだ方が当たっているでしょう。そんな箱の底に、お祖母さんと母の高校卒業指輪を見付けたからです。いつ、どのようにして私の手元にやって来たのか全く覚えていないのですが…。
お祖母さんのは、薄い金で宝石などは入っていません。母のは金の台に申し訳程度の小さな赤い石が入ってます。それにしても、当時としてはかなりのお金を払ったことでしょう。お祖母さんの家はとても貧しい農家でしたし、そこで育った母も自給自足に近い相当酷い状況で暮らしていましたから、現金はガソリンとお砂糖とコーヒーを買うときだけ使ったと聞いています。 そんな環境にいてさえ、無理して金の卒業指輪を買っていることにショックをうけました。
今、宝石屋さんもチェーン店化し、インターネットで全米の高校の卒業指輪のデザイン、価格などを見ることができます。イヤー、驚きました。ダイヤをあしらった高いものですと7,000ドル、安いものでも3-400ドルはするのです。幸い、最近そんなもの要らない…という高校生が増えているそうですが、親が買う傾向が増えていると聞きます。
この記事を横で覗き見していたウチのダンナさん、「誰も、オメーに卒業指輪をプレゼントしなかったからと言って、そんなに指輪を毛嫌いするこた~ないじゃないか」と余計な口出しをしています。私たちが結婚した時、一応結婚指輪を交換するものだ…というジョーシキもダンナさんは持っていなかったようで、スペインに住むジョウーシキがあり、立派な社会人である彼の友人がダンナさんと私の結婚指輪をプレゼントしてくれたのです。
大学の指輪、セロリティー、フォルタニティー(アメリカの大学にあるエリートだけが入会を許されたお金持ち用のクラブ、寮)、スポーツのチームメンバーの記念指輪などで、指が10本では足りなくなりそうです。そんな指輪をゴテゴテと幾つも付けている人を見ると、勲章やメダルを目いっぱい付けて歩いている退役軍人を思い出します。
あなた方、それだけしか自分を誇れることないの…と言いたくなるのです。
第437回:移民の受け入れとシリア難民問題
|