第434回:アフリカ・ライオンたちの嘆き
隣の叔父さんが熊を仕留めました。コロラド州では、熊は害獣扱いで、牧場の柵の中に入り込んだり、人畜に害を及ぼす可能性のある時であれば、何時撃っても構いません。それ以外のところで、国有林などでは熊猟の解禁日は9月2日で、隣のバッドは9月3日に仕留めています。それも我が家のすぐ裏山でです。
大きなバスの車庫のようなキャンピングカー用ガレージに吊るされた熊はとても大きく、いかにも凶暴そうな爪が生えた大きな手足を持っていました。
これで、少しは山歩きハイキングが安全になるのかと思っていました。ところが先週、すぐ近くのピニヨンメッサへハイキングに行ったところ、ATV(山や荒地用のバギー)にライフルを積んだハンターにたくさん出くわしてしまいました。これでは、熊に襲われる心配より、ハンターに間違って撃たれる可能性の方がはるかに高そうです。
大型の猛獣を獲るのをトロフィーハンティングと言い、アメリカでもムース、バッファローなどの狩猟を、年間何頭と限定して許可しています。ちなみに、ムース(ヘラジカ)一頭の狩猟許可証は2,500ドル、バッファローは3,000ドルです。そんな大金を払っても、必ずしもそのシーズンに獲物を獲ることができる保障はないのですが、それでも申し込みが多く、抽選で割り当てたりしているほどです。
大物はやはりなんと言ってもアフリカだ、ライオンだというわけでしょうか、アメリカ、ミネソタ州の歯医者さんウォルター・パルマーさんはジンバブエまで出かけ、弓(コンバウンド・ボウ;滑車のついた強力なもの)でライオンを仕留めました。
ライオンの頭はアメリカで剥製にして飾るためドライアイスに漬け、郵送しようとしたところ、ジンバブエのお役人がそのライオンは国立自然公園で有名なアイドルライオン"セシル(Cecil)"であることを見つけたのです。ライオンにもイロイロな顔があり、識別できるとは知りませんでした。セシルはきっと抜群のイケメンだったのでしょう。
セシルが撃ち殺され事件は、アッと言う間に世界中に広がりました。ウォルター歯医者さんは動物愛護団体、自然保護団体からの猛攻を受け、アメリカ的にお前もライオンのように撃ち殺してやると、脅迫状まで迷い込む大騒ぎになったのです。ジンバブエの大統領も、ウォルターさんの身柄引き渡しをアメリカ政府に要求しました。
ところが、ウォルターさんは代理店を通して、ジンバブエ政府が毎年許可しているライオン狩猟許可を取っていたのです。ジンバブエでは、今年42頭のライオン狩猟を許可しています。
ウォルターさんは、許可証に代理店を通じて5万ドル(600万円相当でしょうか)を支払い、サファリ、ハンティングツアーに参加していたのです。ハンティングのガイドはブライアン・オルフォードという白人で、西欧の大金持ち相手のサファリガイドとして有名な人で、ジンバブエ政府の認可も受けています。ついでですので、ガイド料金を調べたところ、ジープの使用料、現地の案内人、キャンプ設定料などを含めて一日9,800ドル(120万円)でした。
ウォルターさん、ライオンが歯を剥いた頭の剥製を診療所に飾り、ウチで治療すればこのライオンのような立派な歯にしてあげますと目論んだのかどうか分かりませんが、ともかく総額で8万ドルから10万ドル(1千万円から1千2百万円)の大金を払っていることになります。
このサファリハンティングは、ガイドハンターが猛獣のいる場所に案内してくれ、お客さんのハンターが、安全でかつ確実に獲物を仕留めるようにすべてをセッティングし、大金を払ったお客さんは引き金を絞るだけなのでそうです。失敗したら、ガイド役のプロのハンターが仕留めてくれます。もちろん、その後、死んだ動物に肩肘掛けたりして記念写真を撮るは一番大事なことですが…。
アフリカの猛獣狩りは、鉱物に恵まれず、他に産業のない国にとって、大きな現金収入になっています。ジンバブエには2,500頭から3,000頭のライオンが生息しています。主に国立自然公園内に棲み、野生動物観光の観光資源として外人観光客のカメラに収まるのが彼ら野生動物の役目になっています。
セシルと名前まで付けられ広く知られたのは、オックスフォード大学がセシルにGPS発信の首輪を付け、行動観察をし、GPSを付けているので追跡しやすく、したがって映像もたくさんあったからです。広大な野生動物公園ですから、周囲をバラ線で囲ってあるわけでなし、動物たちは自由に境界線を越えて動き回っています。セシルも公園の外で殺されています。
しかし、ガイドハンターはGPS付きの首輪に気がついたことでしょう、首をちょん切っているのですから。間違って首輪付きのライオンを撃ってしまったと報告せず、闇に葬ってしまおうとしたところに問題があります。
隣の国、南アフリカ共和国の首相、ヤコブ・ジマは、冷静に"大金を取りトロフィーハンティングを許可している以上、セシルのような事件は常に起こりうる、これは一つの事故とみるべきだ"と述べています。と言うのは、ジンバブエ政府はしっかりと野生動物の生態を把握せず金儲けのためにトロフィーハンティングを許していると、自然保護団体などから非難されているからです。
偶然、『ナショナル・ジオグラフィック誌』(National Geographic;英語版)の8月号に剥製の特集記事が出ていました。テキサス州ダラスの石油成金、ケリー・クロティンガーさんが奥さんのリービーさんと剥製の大群に囲まれた写真が載っています。なんともテキサス的に膨大な数の死んだ(殺した)野生動物群なのです。彼が払ったお金はアフリカの野生動物保護のため、それらの国の貧しい人たちを助けるのに大いに役立っている…とコメントしています。
本当に、トロフィーハンターが落としたり、払ったお金が、一部の政府関係者の懐に行かず、野生動物の保護やその国の貧しい人たちの生活向上に役に立っているのなら少しは救われるのですが…。
第435回:静かさの幻想と騒音問題
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