第450回:母乳売ります~オッパイ・ビジネス
西欧の、ほんの100年ほど前の小説によく乳母のことが出てきます。大金持ちの貴族などが、自分のオッパイを赤ちゃんに与えず、ミルクのよく出る健康な女性を雇い、自分の赤ちゃんに授乳させるのです。
アメリカでも南北戦争の頃、南部、東部のお金持ちの家では、黒人の乳母を使うことが多かったようです。この乳母を使って自分が生んだ赤ちゃんを育てるという習慣は、母親の身体をいたわってと言うより、奇妙な見栄とでも呼ぶべきかしら、授乳、そんな動物的行為は私たち高貴なクラスの人はしない…とでも考えたように思えます。
そう言えば、公衆の面前でお母さんが赤ちゃんにオッパイをふくませるのは、ハシタナイ行為とされていました。未だにオッパイを出して授乳させる光景を目にすることは、とても少ないです。自然で美しい風景なのですが…。
アメリカでは、母乳で赤ちゃんを育てよう…という当たり前の運動が広がり、人造のミルクでは栄養過多になり、肥満の赤ん坊になる、出にくいお母さんのオッパイを懸命に吸うのは、内臓を強くする、母乳だけが完全な食品だとか…、昔の人なら、何を今さら…と言うような育児法がうるさく言われ出しました。
どういう訳か、どこの誰がプレゼントしてくれたのか、私の名前、住所に母親と育児の雑誌が送られてくるようになり、ページをめくっていて仕入れたニューズなのですが、母乳を貯めておき、冷凍し、必要な時に解凍して哺乳瓶で飲ませる方法など、詳しく書いてありました。
チョット、インターネットで調べた俄か知識ですが、10年ほど前、Affordable Care Act(誰でも可能な健康保険条例)で自動(電動)オッパイ絞り機は、保険でカバーすべし…という条例が通過してから、オッパイ絞り機の売り上げが伸びに伸び、2020年には2.6ビリオンドル(26億ドル、3,000億円相当かしら)の大成長企業になっているのです。
何でも即ショーバイに結びつけるのがアメリカの得意技ですが、関連グッズも多彩で、あらゆるサイズのオッパイに対応するポンプの種類も豊富なら、電動はイヤ、省エネで行くと言う母親のためには乾電池式、手動のポンプが用意され、加えて安全な冷凍保存用のビンやビニールやプラスティックの袋などなど、これぞ痒いところに手が届くような品揃えなのです。
おまけに、ここから遅まきながら主題に入るのですが、母乳の量はお母さんの健康、精神状態、体質によって個人差があることくらい私でも知っています。そこでまたまた、ショーバイ気が多いだけなのか、母乳が少なくて困っている母親を助けたい一心からか、冷凍母乳を販売し始めた会社があるのです。
一旦会社が母乳を買い上げ、それを販売していますが、お値段の方は1オンス2~3ドルで、1リットルに換算すると、70ドルから100ドル近くになります。これは、高級なコニャックかスコッチの値段です(http://www.onlythebreast.comによる、他にも
たくさんのサイトがあります)。
オッパイポンプの会社や母乳ディーラーは、冷凍、冷蔵保存しておけば時間通りに授乳でき、仕事を持つ母親は規則正しい生活が営めるし、赤ちゃんの健康にとっても非常によろしい…と、まるで良いことずくめのように宣伝しています。
確かに、産休などなきに等しいアメリカの社会では母親も乳飲み子をどこかに預け、働かなければなりませんから、自分のミルクを持たせて託児所に赤ちゃんを送るのは良ことかもしれません。しかし、しかしなのです。赤ちゃんがオッパイを吸うという行為は、母親の柔らかいオッパイに触れながら、優しく抱かれて行う行為で、単に餌をやるのとは全く違うと思うのです。たとえ母乳であっても、いつも哺乳瓶ビンで飲んでいた子と直接お母さんのオッパイから飲んでいた子の間に大きな差がでてくるのは当然のことです。
北欧のように授乳期間の産休、育児休暇が1年以上取れ、父親の方も3ヵ月の休暇が取れるような社会をお手本にして、アメリカのウーマンリブ、女権運動は授乳から自由になるポンプを広めるのではなしに、離乳まで安心して赤ちゃんと良い時を過ごせる社会を目指すべきです。すでに他の国々で実際に行っているのですから…。
アナタの場合はどうしたのかって? 私たちに子供がいないから、こんな偉そうなことを言えるのですよ…。
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