第412回:緑と空気とクリーンエネルギー
日本では"春一番"と呼ぶと、ウチのダンナさんが教えてくれましたが、ここコロラドロッキーの西側でも春には強い風が吹きます。風が強いだけなら良いのですが、空気が異常に乾燥していますから、ユタ州、ネバダ州の砂漠の砂を巻き上げ、ここまで運んでくるのです。空全体がベージュに染まり、いつもなら山々の稜線がくっきりと見えるはずなのに、どこに山が行ってしまったのか山自体が隠れてしまいます。風のない日は広大な深い紺色の空が広がり、こんな所に暮らせることに感謝したくなるのですが。
風の吹かない日は、私の働いている谷間の町はドヨ~ンと空気がよどみ、上からそんなよどんだ空を見ると、ワーッ、あんな汚い空気の中に降りていくのだ、と恐怖さえ覚えます。これはまだ目に見える汚れですが、大気には私たちの目に見えない複雑な汚れがあるといます。
カルフォルニアの山火事の煙が、私たちが住むコロラドまでやってきます。距離にすると2,000キロくらいですが、ラクラクと茶色に濁った空気を送ってくるのです。これは同じアメリカ国内のことですから、消防隊を他の州から送ったり、防災体制を何とかとることができ、国内問題として解決できますが、中国、韓国と日本、それに狭い地域にゴチャゴチャとたくさんの国が集まっているヨーロッパでは、自分の国だけ空を汚さない…とがんばってもあまり意味がありません。
なんだか、ひと昔前の平和運動のキャッチフレーズ風になりますが、空は世界中つながっています。チェルノブイリの原子力発電所の事故が起った時、私たちはヨーロッパに住んでいました。その時のヨーロッパに住む人たちの危機感は大変なものでした。28年経った今でも、チェルノブイリから周囲50キロ以内はまだ放射能が残り、耕地として使える状態ではありません。
福島の原発事故による放射能汚染もきれいになるには何十年もかかることでしょう。チェルノブイリでは物好きな観光客を集めるほど凄惨な光景が残されたままです。福島の原発も広島の原爆ドームのように、人間の愚かさを記念碑として残す観光スポットにしてはどうでしょうか。
放射能は山火事の煙のように目では見えませんから、科学者や政府の言うことを半信半疑で聞くよりほかありません。そして、世の中にはイロイロなタイプの科学者がいますから、ますます何を信じてよいのやら分からなくなります。
それにしても、原子力発電と空気を汚す筆頭の火力発電に頼らずに、クリーンエネルギーに転換できるという計算が成り立っていることはよく知られています。クリーンエネルギーとは、太陽電池、風力発電、地熱発電などです。
ドイツに行くたびに目を奪われるのは、こんなに天気の悪い国、日当たりの悪い国なのに太陽電池、ソーラーパネルが延々と広がり、小高い丘の上には風力発電の風車が立ち並んでいることです。
アメリカでもラスベガス郊外などに広大な太陽電池ファームが建設され、稼動し始めました。アメリカの南西部には晴天日が320日以上もある、日本の何倍もある広大な砂漠地帯があります。これを利用しない手はありません。
そして毎回、コロラドからミズーリー州の実家へドライブするたびに驚かされるのですが、コロラドの東からカンサス州にかけて、ラッシュと呼んでいいほど巨大な風車がドンドン建てられています。これらはオバマ大統領の声掛けで始まったクリーンエネルギー政策の一環です。
私たちの住む町でも太陽電池用のソーラーパネルを屋根一面に張ったり、田舎ですと何十枚ものソーラーパネルを庭に並べている家が目につき始めました。これも大掛かりな政府のクリーンエネルギー政策の一つで、大きな援助を受けることができます。
私の働いている大学もすべての建物を一新するほど、改築、増築、新築ブームですが、地熱を利用したエネルギーを冷暖房に使っています。これも政府の大々的な補助金のなせるワザです。
このように一国の政府が本気に?なれば、エネルギーのモトを変えることができるのです。良い例がドイツで、現在、消費電力の22%はクリーンエネルギーで、2050年までには80%の電力を太陽電池と風力発電で賄っていくという明確な目標と、それを推進する緻密な計画を立てています。
先進5ヵ国の中で一番クリーンエネルギーの割合が低いのは日本で、11%にしかなりません。大気汚染の凶源といわれている中国ですら20%はクリーンエネルギーなのです。そして、中国は太陽電池の生産でも世界一となっています。
日本にはすべての消費電力をクリーンにする技術はあるが、ソーラーパネルを敷設する広大な土地がない、個人の所有地が複雑に絡み合っていて風車を建てる場所が少ない…と言われていますが、もっとも足りないのは、次の世代に視点を置いた政府の長期的な計画と、それをやり通す強い意志を持った政治家なのではないでしょうか。
広島、長崎が原子爆弾反対運動の拠点になっているように、福島の第一原発は世界の空気、大地、人類にとって忘れてはならない大きな悲劇、人間の愚かさを象徴する記念碑的な存在だと思うのです。あの悲劇的な巨大ツナミが福島原発を襲ったのは、エネルギーの転換を示唆する警鐘だったと信じています。
第413回:川の水と大気汚染の関係
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