第378回:準急と急行と日生エクスプレス - 阪急宝塚線 1 -
最大で9本の列車が並ぶ阪急梅田駅。改札を通り抜ければ、今日はどれに乗ろうかと楽しくなる。そんなぶらりと出かける旅もしてみたい。今回は宝塚線だ。9本の線路のうち、中央の3本が宝塚線だ。発車案内板によると、次の発車は箕面行き準急だった。とりあえず乗り込んで、ドアの上の路線図を見る。おっと、箕面は宝塚線を途中で逸れて、箕面線に直通した先の終点だった。不案内な大阪の路線網で、わざわざ迷ってみる。これも旅の楽しさではある。
準急、箕面行 6000系トップナンバー
能勢電鉄の始発駅は川西能勢口だ。この電車はふたつ手前の石橋から箕面線に入る。箕面線は阪急電鉄のルーツ、箕面電気鉄道が成立した路線である。だから敬意を示すために乗って行きたいけれど、まずは妙見山である。帰りに時間が余ったら寄るとしよう。
箕面行き準急は通勤時間帯の下り電車だから空いていた。とはいえ、座席は全て埋まって立ち客もいる。沿線に学校が多いようで、制服姿の男女の生徒が多い。私の周りは女子生徒が多く、眼福と同時に会話の内容に照れくさくもある。私は空腹を感じ、立ったままランチパックの封を開け、手早く平らげた。生徒さんたちはお行儀が良く、鏡を見たり飲食したりという子はいなかった。だからちょっと恥ずかしい。食べ終わったあと、血糖値を下げる薬を飲んだ。薬を飲むために食べたんですよ、と言い訳をしたつもりだ。
ランチパックのコレクションを開始
十三を過ぎて窓の外を眺めると、旅客機が低いところを飛んでいた。尾翼が赤いから日本航空である。そういえば宝塚線は伊丹空港のそばを通るはずだ。宝塚線に蛍池という駅がある。大阪モノレールの乗換駅である。モノレールに乗ったとき、大阪空港のひとつ手前が蛍池だった。自分の経験と地理が組み合わさっていく。頭の中に描いたパズルが完成していくような、快い感覚であった。これは都会の電車旅の楽しだ。
準急電車は5つの駅を通過して、豊中から各駅に停まる。豊中の次が蛍池だった。いつかモノレールから見下ろして、あの線路にいつ乗れるかと思っていた。その線路に私は到達した。心の中のTO
DOリストから小さな項目をひとつ消せた。蛍池の次が石橋である。電車は分岐を右に進み、箕面線のホームに入った。私はここで降り、地下道を通って宝塚線の下りホームに回った。たくさんのお客さんたちと同じ流れだったけれど、途中でみな改札口へ向かっていった。宝塚線に乗り継ぐ人は少ない。
建物密集地帯を行く。上空を旅客機が追い越していった
宝塚線ホームで待っていると、次は急行電車だった。なるほど、宝塚方面に向かう人は、はじめから後発の急行に乗ってくる。そりゃあそうだよな、と納得した。その急行電車は準急よりも混んでいた。学生だけではなく、買い物や所要客も多い。通勤方向とは逆の位置に学校やレジャー施設を誘致し、通勤時間の逆方向の列車も活用する。こうした沿線開発も阪急が先駆けていた。創業者の小林一三のアイデアはすごい。伝記や自叙伝があるなら読んでみたい。帰ったらネットで探そう。
急行も、この先は各駅停車だ。準急と停車駅は変わらなくて、箕面線に入るか、宝塚線を行くかの違いらしい。石橋の次が池田。池田の次が川西能勢口であった。能勢電鉄のホームが並行しており、大きな規模である。高架駅のため、階段を降りて地上の通路を経由し、能勢電鉄のホームに向かう。ゆっくり歩いたら電車が発車してしまった。アナウンスを聴いたら、梅田行き特急の案内だったから、私はひとつ戻る形で宝塚線の上りホームに行ってみた。日生エクスプレスの見物である。
石橋駅から急行に乗り換え
日生エクスプレスは、能勢電鉄の支線、日生線の終点から出発して、この駅で方向を変え、宝塚線に乗り入れて梅田へ行く列車だ。日生ニュータウンからの通勤列車だから、朝は上り、夕刻は下りしか走らない。ちょうど通勤時間帯だから、その電車の動きを眺めるとしよう。
能勢電鉄の線路は宝塚方面に合流する形である。宝塚線の上りホームで待っていたら、能勢電鉄方向から6両編成の電車がやってきて、上りホームに逆向きに侵入した。ホームは大都会ならではの混雑である。日生ニュータウンのための列車ではあるけれど、宝塚線では唯一の特急だから、この駅から特急を選ぶ人も多いらしい。
川西能勢口駅。日生エクスプレスが到着したところ
列車はホームの奥のほうに停まった。手前にも並んでいる人がいる。この人たちは増結される車両を待っている。しばらくすると、宝塚線の梅田側にある留置線から、2両編成の電車がゆっくりと入線して、6両編成の梅田側に連結した。能勢電鉄の最長編成は8両だけど、宝塚線は最長10両に対応している。だからここで2両を足して、宝塚線のラッシュに対応する。朝の忙しい時間帯の増結とスイッチバック。職員さんの手際のおかげでダイヤが守られる。良いものを見せてもらった。
待機していた増結用車両が向かってきた
能勢電鉄のホームに戻ると、到着した電車から通勤客が吐き出されるところだった。風呂の水が排水口に流れていくかのように、スーツ姿の人々が階段に吸い込まれた。ここから能勢電鉄の下り方向に乗る人は少なく、ホームは閑散としている。
電車はマルーン色。阪急電鉄の旧型で、先頭車が顔に見えるタイプである。大仕事が終わってほっとした表情をしている。さっき、大勢の人々が降りるとき、ボディを左右に揺らしていた。水場から出た犬が水滴を飛ばすようだった。力を振り絞っていたんだな、と思った。
能勢電鉄ホームに電車が到着。お客さんを下ろしてほっとした表情
さあ、このいとおしい電車に乗って、能勢電鉄めぐりを始めようか。
-…つづく
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