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第362回:特急を乗り継いで - 富山地方鉄道立山線・本線 -

更新日2010/12/30


行き当たりばったりにも程があると思う。振り返れば、立山に到着したら元レッドアローの電車がいた。それを見物したばかりにバスを逃し、暇つぶしにケーブルカーを往復して戻ってみたら、次の立山発の電車は元レッドアローの特急『アルペン』だった。こんなことになるならバスに乗ればよかった。しかし今さら悔やんでも仕方ないし、さっきは見るだけだったけど、今度は乗れる。これは良いことだと思いなおす。


特急アルペン号で帰路へ

元レッドアローの西武5000系は、富山地方鉄道では16010形という形式になった。さっき乗ってきた各駅停車は10030形である。中途半端な数字だけど、この数字は上3桁がモーターの出力を示し、下2桁が型式番号を示すという。意味のある合理的な命名だ。でも、そんなにいつもモーターの出力を気にする必要があるのかとも思う。きっと立山や宇奈月付近の山岳路線があるからだろう。

8両編成の5000系は2両編成の16010形になった。先頭車を背中あわせに繋いでいる。富山地方鉄道は2両編成が基本らしく、全員着席のために16010のみ3両にしていたようだ。しかし、期待した乗客数にならなかったのだろう。富山地方鉄道は次の週末にファン感謝イベントを実施する予定で、立山到着時に見かけた3両編成は中間車引退前の記念運行だという。この情報は中吊り広告によるものだ。今週が黒部峡谷鉄道、来週が富山地方鉄道のイベントである。同じ週末に開催すれば、土日で巡るファンが宿泊して賑わうだろう。もっとも、それは両方巡りたいという私のような人間だけの都合かもしれない。本来は地元の人々を相手にしているだろうから、日程を分散させたほうが親切だろうか。


どこか広々とした客室

16010形は下り勾配を快走する。2両編成は前方が自由席、後方が指定席だ。指定席は三分の一ほどの乗客である。私のフリーきっぷは自由席の乗車を認めている。しかし自由席はアルペンルート帰りの人々で混んでいて、私は後ろの指定席車両の運転席付近に立った。指定席車両でも座らなければいいんじゃないかと思う。だから立ちっぱなしではあるけれど、静かな場所で落ち着いて逆向きの運転席展望を眺めていられる。


後部運転台の眺め

デッキに立つといっても、デッキと客室の仕切り壁はない。5000系時代の仕切り壁は取り払ってしまったようだ。ここは雪国だから仕切り壁を残したほうが客室を保温できると思う。それでも壁を取り払った理由は、おそらく「ワンマン運転の死角をなくす」という安全への配慮だ。連結側もすっきりと空間ができていて、トイレがあった場所は座席とジュースの自動販売機がある。デッキから客室に向けた防犯カメラもあった。


廃駅を通った

岩峅寺に着くころに雨が上がった。ここからは立山の未乗区間である。16010系は俊足を維持。付近には住宅が多く、西武鉄道の郊外の景色にも似ている。16010形はレッドアロー時代からの性能を発揮し、よく走り、よく揺れる。ゴツゴツという揺れではなく、フワフワとした揺れで、まさに昭和の特急電車の乗り心地であった。


岩峅寺駅

大きな窓から眺めると、青く広い空に、もこもことした雲が浮かんでいる。五百石駅の手前に、立派な天文台を備えた学校があった。宇宙を感じさせてくれる学校とはうらやましい。後ろ向きの運転台展望は、途切れることなく立山連峰を視野に捉える。岩峅寺を過ぎてからも、小さくなっていく立山連峰が見えていた。立山線に乗るなら、下り列車のほうが楽しいだろう。遠くの立山連峰がどんどん近づいて、その懐に入っていく。この逆向きも悪くはないけれど、山へ行く気分のほうがワクワクする。16010形にはいつまでも走っていてもらいたいけれど、次は前面展望を楽しめる列車を走らせたらいい。


晴れ間が見えてきた

車内放送が次は寺田駅だと告げた。特急「アルペン」は寺田駅でスイッチバックして宇奈月温泉へ向かう。「アルペン」は起点駅の富山を通らない。本線の終点と支線の終点を結ぶ特急である。これは珍しい形態だ。「アルペン」は、立山黒部アルペンルートと宇奈月温泉を直結する。立山黒部アルペンルートの宿泊拠点として、市街地の富山ではなく、宇奈月温泉を使ってもらいたいという意図だろう。そんな「アルペン」を乗り通したい気持ちもある。しかし私は明日、宇奈月温泉へ行って、黒部峡谷鉄道を尋ねる予定である。今日は富山へ行き、明るいうちに路面電車に乗りたい。


寺田駅に近づく

寺田駅に近づくと、本線の線路が寄り添ってくる。その線路にも特急電車が走ってきた。14760形の特急「うなづき」号。宇奈月温泉発の富山行である。立山から富山へ向かう乗客にも配慮して、ここで富山行き特急と接続するダイヤになっているようだ。うまくできているなと思う。14760形は富山地方鉄道向けに作られた生え抜き車両で、この電車にも乗ってみたかった。ちょうどよかった。


富山行き特急に乗り換え

寺田から電鉄富山への走行中に、鉄橋で幅の広い川を渡った。常願寺川の下流であった。今日はこの川を何回渡っただろうか。


常願寺川下流の眺め

-…つづく

第362回の行程地図
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杉山 淳一
(すぎやま・じゅんいち)
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1967年生まれ。東京出身。東急電鉄沿線在住。1996年よりフリーライターとしてIT、PCゲーム、Eスポーツ方面で活動。現在はほぼ鉄道専門。Webメディア連載「鉄道ニュース週報(マイナビ)」「週刊鉄道経済(ITmedia)」「この鉄道がすごい(文春オンライン)」「月刊乗り鉄話題(ねとらぼ)」などWebメディアに多数執筆。

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