■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から


Grace Joy
(グレース・ジョイ)



中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。




第1回~第50回まで

第51回:スポーツ・イベントの宣伝効果
第52回:国家の品格 その1
第53回:国家の品格 その2
第54回:国家の品格 その3
第55回:国家の品格 その4
第56回:人はいかに死ぬのか
第57回:人はいかに死ぬのか~その2
第58回:ガンをつける
第59回:死んでいく言語
第60回:アメリカの貧富の差
第61回:アメリカの母の日
第62回:アメリカの卒業式
第63回:ミャンマーと日本は同類項?
第64回:ミャンマーと民主主義の輸入
第65回:日本赤毛布旅行
第66回:日本赤毛布旅行 その2
第67回:日本赤毛布旅行 その3
第68回:スポーツ・ファッション
第69回:スペリング・ビー(Spelling Bee)
第70回:宗教大国アメリカ
第71回:独立記念日と打ち上げ花火
第72回:ティーンエイジャーのベビーブーム
第73回:アメリカで一番有名な日本人
第77回:ロパクってなんのこと?
第78回:派手な政治ショーと選挙
第79回:「蟠桃賞」をご存知ですか?
第80回:日本の国際化と国際化した日本人
第81回:またまた大統領選挙
第82回:またまた大統領選挙 その2
第83回:勝海舟と700,000,000,000ドル
第84回:長生きをする秘訣は?
第85回:歴史的瞬間


■更新予定日:毎週木曜日

第86回:日本旅行で困ったこと?

更新日2008/11/13


先月から日本政府は"観光庁"を発足させ、2020年には外人観光客を2,000万人に増やす計画だそうです。2007年の統計では日本を訪れた外国人は835万人ですから、倍以上にしようという意気込みです。

やっと観光が貿易と同じような産業だと政府が認め、外国人に来てもらい、お金を使ってもらおうと重い腰を上げた感じですね。政府観光省、庁はすでにヨーロッパの国々だけでなく、観光を大切にしている国々ならどこにでもあります。今まで日本に政府の観光機関がなかったのが不思議なくらいです。

外人観光客が日本旅行で困ったことの第一番目に"トイレ"をあげている記事を読みました。 まだ田舎には昔風の、しゃがみこむタイプの便器、下がストンと便槽になっている、匂い、風、ハエが舞い上がってくるタイプのトイレがあり、そのことだと思っていたところ、なんとシャワートイレ(ウォシュレット)のことでした。

シャワートイレに出会って困るとは、なんとヤワな人たちでしょう。シャワートイレは日本が世界に誇ってもよい、日本人の清潔感の表れで、外人は一度体験するとヤミツキになり、自国にそれを持ち帰りたくなるたぐいのものです。日本からの実用的なお土産となるべき輸出品です。

外国人観光客に親切で良いサービスをするというのは、日本に西欧式、インド式、中国式の日常を持ち込み、便宜を図ることではありません。

二度ほど、私の教えている田舎の大学の学生さんを引き連れて日本へ修学旅行に行きました。大勢の学生さんと一緒に旅行するのに日本はとても楽な国です。まず、日本に入国する時からイミグレーションや税関のお役人の丁寧で迅速なプロフェッショナルな態度に感銘さえ受けます。日本の入国審査は世界で一番感じが良く、スムーズだと言ってよいでしょうね。

そしてもう一つ言えば、日本は世界で最も安全な国で、窃盗、泥棒、切った張ったの事件がとても少ないことです。チップの制度がないのもとてもありがたいことです。それに、どこでどんな買い物をしても、まずボラレル心配がありません。それらは一旅行者にとってとてもありがたいことです。そして公共の交通機関が発達しているので、市内観光バスやリムジン、タクシーを使わずにどこにでも行くことができます。

私の学生さんたちは、誰もスリや窃盗、盗難に会わず、東京や大阪、京都ではJRやバス、地下鉄の一日乗り放題のパスを買い、存分に動き回っていました。JRや地下鉄の駅の名前はローマ字でも書いてあるので不便はありません。もし、私が学生さんを連れてニューヨークやシカゴに行くなら、何倍も神経を使い、何人かの学生さんが盗難に遭ったり、痛い目にあうことでしょう。

スペイン語学科の生徒さんは、毎年スペインや南米に語学研修に出かけますが、必ず盗難や恐喝事件に遭って帰ってきます。語学研修にエクアドルに行った私の甥は1ヵ月間に3回立て続けに、恐喝、スリ、強盗にやられました。

ですが、観光では「安全」が"一番の売り物"にはなりませんね。

観光大国と言われる国々はいずれも、観光の奥が深く、一度訪れた人を何度も呼び戻す魅力を持っているように思います。素人の意見ですが、日本の観光も東京、ディズニーランド、京都、奈良、日光、箱根の富士山だけに終始していてはすぐに底を突いてしまうことでしょう。

私はお仕着せの修学旅行の後、学生さんに自分自身で調べたコースを一人で歩いたり、一つの訪問先に2、3週間滞在するように勧めています。その日から学生さんは独自に動き、日本を体験するのです。

居残り組みは、ただもっと広く日本を回ろうとJRの1ヵ月乗り放題のパスを購入したり、日本の有機農業を学ぼうと農家に住み込んだり、空手や合気道の道場に通ったり、日本の伝統工芸、和紙、焼き物、日本刀の刀鍛冶の元に住み込んだり、禅の修業加わったり、はたまた忍者道場(そんなものがホントにあるのは驚きです)に入門した生徒さんもいました。

引率の先生としては、初め多少不安がありましたが、ツアーの後に日本に残った居残り組はそれぞれとても素晴らしい体験をし、もう一度日本に戻る決意を固めています。

1ヵ月程度で何を学ぶことができるか疑問に思うこともありますし、受け入れる側がとても大変なのは察して余りあります。ですが、彼らは大きな勲章を貰った以上にその体験を一生大切に持ち歩くことでしょう。

日本は、歴史と伝統工芸のとても豊かな国です。観光庁が単に観光客の数字を伸ばすだけでなく、ひなびた裏日本の農村や山村に息づく工芸を細かく、長い息で紹介していただけると良いなと期待しています。 

外国人が日本で困ることなど、それが日本のやり方なら、気にしなくてよいのです。善意がある限り、誤解を恐れる必要はないのです。日本にはシャワートイレ以上に素晴らしいものがたくさんあるのですから。

来年の修学旅行は、お仕着せ観光を全く抜きにして、学生さんたちをいきなり日本に放り出そうかと思っています。事前に自分が日本で何をやりたいか、何ができるかを調べることも旅行の一部なのですから。

 

 

第87回:大統領選挙の怪