■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から


Grace Joy
(グレース・ジョイ)



中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。




第1回~第50回まで

第51回:スポーツ・イベントの宣伝効果
第52回:国家の品格 その1
第53回:国家の品格 その2
第54回:国家の品格 その3
第55回:国家の品格 その4
第56回:人はいかに死ぬのか
第57回:人はいかに死ぬのか~その2
第58回:ガンをつける
第59回:死んでいく言語
第60回:アメリカの貧富の差
第61回:アメリカの母の日
第62回:アメリカの卒業式
第63回:ミャンマーと日本は同類項?
第64回:ミャンマーと民主主義の輸入
第65回:日本赤毛布旅行
第66回:日本赤毛布旅行 その2
第67回:日本赤毛布旅行 その3
第68回:スポーツ・ファッション


■更新予定日:毎週木曜日

第69回:スペリング・ビー(Spelling Bee)

更新日2008/07/17


テレビのゲームショーは世界中、と大きく出ましたが、私の知っているスペイン、プエルトリコ、アメリカ、日本ではあまり大きな違いがありません。

どこかの国がユニークなアイディアのゲーム番組を始めると、すぐにたくさんの亜流が生まれます。逆に開き直って、アメリカで『私は日本のゲーム番組に生き残った』(I survived Japanese Game Show)という番組を堂々と4大チャネルのひとつがゴールデンアワーに放映しているほどです。あまりお金をかけず、アイディアで勝負し、見るからにバカバカしいゲームを面白おかしく見せる日本のワザはまさに天才的です。

日本にないゲーム番組に英語の(スペイン語、フランス語など西洋の言語はどこでも)スペルを競うものがあります。もう何十年も続いている『幸運の車』(Wheel of Fortune)は、3人の挑戦者が順に大きなルーレットのような丸い台を回し、止まった箇所に書かれた金額をかけて、諺(コトワザ)や言い慣わしのフレーズを当てるものです。出場者も視聴者も中年以上のどちらかといえばあまりインテリではない層を対象にした番組です。私のおばあさんはこの番組のファンでしたが…。

本格的なスペルのコンテストは、"スペリング・ビー"(Spelling Bee)です。ビーとはもちろん蜂のことですが、昔風の言い回しで、皆が寄り集まって何かひとつのことをすることを意味します。開拓時代に近所の主婦が集まってキルトを縫ったり、とうもろこしの皮をむいたりすることをビーと呼んでいましたが、今ではこのスペリング・ビー以外にあまり耳にしなくなりました。

このスペルコンテストはどこの小中学校でも行われ、地区予選に始まり、全米最終決定戦まで、参加者の多さも大変なものです。最年小者の規定はありませんが、上は14歳までと決まっています。

スペリング・ビーは次のように行われます。
一人づつステージのマイクの前に立ち、アナウサーが難しい単語を言います。日本を離れてから40年近い私のダンナさんでさえ、聞いたことのない単語です。それに対し、競技者は他の発音があるか、語源はどこか、どのように使われるかの3種類の質問をすることが許され、制限時間内にスペルを口頭で言います。一人ひとり順に異なった単語が与えられ、子供たちが答えていきます。スペルを間違った子供はそこで失格となります。

もうお気づきでしょうけど、このやり方はかなり運に左右されます。本当の意味でのスペル学力テストなら、子供たちを何十人、何百人と一箇所に集め、50から100の単語をアナウサーが音読し、子供たちにそのスペルを1番から50番(100番)まで順に綴らせ、それを採点すれば比較的公平な順位が出ますが、それではテレビ番組にもなりませんし、会場で見ている人もつまりません。一人づつマイクの前に立ち、緊張しながら恐る恐る、または確信に満ちてアルファベットを口で言うところが面白いのでしょう。

分厚い電話帳2、3冊分はある、しかも私など老眼鏡があっても読めないくらい小さな字で埋まっているウエブスターやオックスフォードの大辞典全部を子供たちが暗記できるものではありませんから、ギリシャ語から来たか、ラテン語からのものか、それとも数多くの移民がもたらしたものか、その語源によってスペリングのパターンを学んで、後は勘で勝負するほかありません。

このスペリング・ビーに参加している子供たちは、そろいも揃って皆とても優秀で、この競技のために普段から大変なトレーニングを積んでいることが伺えます。

最終ラウンドの決勝戦まで勝ち抜いた12人のうち、なんと5人がインド系の子供で、他ニ人はアジア系(名前から判断すると、朝鮮系と中国系)、一人はスペイン(メキシコかな)系、もう一人はユダヤ系の名前ですが、人種はわかりません。黒人はゼロ、白人(ここではコーカソイドとしておきます)は3人だけで、俗に言う典型的なアメリカ人に当たるコーカソイド(ヨーロッパからの移民)の子供が少数派の3人しかいませんでした。名前と画面に映る出場者の両親家族の顔立ちから判断しただけなので、この人種別の数値は間違っているかもしれませんが、それにしても優秀な子はインドを含めたアジア系が圧倒的に多いのは今年だけに限りません。

小中学校でも、彼らアジア系アメリカ人が常にトップを競っているのが現状です。親の子供に対する教育への姿勢が根本的に違うとしか言いようがありません。科学分野だけでなく、近いうちにすべての分野でインドを含めたアジア系アメリカ人が中枢を占めることになるでしょうね。

知的ハングリースピリットのないコーカソイド、アフリカン・アメリカン、先住インディアンは、アメリカで二流の国民になる日が近いのかもしれません。丁度、大相撲でハングリースピリットのない日本人の上位陣が少なくなり、横綱、大関の大半が外国人で占められているように…。

 

 

第70回:宗教大国アメリカ