■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から


Grace Joy
(グレース・ジョイ)



中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。




第1回~第50回まで

第51回:スポーツ・イベントの宣伝効果
第52回:国家の品格 その1
第53回:国家の品格 その2
第54回:国家の品格 その3
第55回:国家の品格 その4
第56回:人はいかに死ぬのか
第57回:人はいかに死ぬのか~その2
第58回:ガンをつける
第59回:死んでいく言語
第60回:アメリカの貧富の差
第61回:アメリカの母の日
第62回:アメリカの卒業式
第63回:ミャンマーと日本は同類項?
第64回:ミャンマーと民主主義の輸入
第65回:日本赤毛布旅行
第66回:日本赤毛布旅行 その2
第67回:日本赤毛布旅行 その3
第68回:スポーツ・ファッション
第69回:スペリング・ビー(Spelling Bee)
第70回:宗教大国アメリカ
第71回:独立記念日と打ち上げ花火
第72回:ティーンエイジャーのベビーブーム
第73回:アメリカで一番有名な日本人


■更新予定日:毎週木曜日

第77回:ロパクってなんのこと?

更新日2008/09/11


毎日新聞のインターネット版で、「ロパク少女の脱毛歌」 (金子秀敏さんのコラムです)というコラムが目に止まりました。

頭のてっぺんだけでなく、上半球全体が薄いというより、立派なハゲ頭になってきた私のダンナさんのことが意識の底にあったのでしょう。何か耳寄りな脱毛防止のための奇跡的な特効薬の記事か、それでなければ、少女たちの間でハゲ叔父さんが大人気で大モテになっている記事だと思ったのです。

ところがコラムを読むうちに、これはハゲの賛歌や特効薬のことではなく、北京オリンピックで歌を唄った(唄わなかった?)少女のことだとぼんやりと分かってきたのです。"口パク"という言葉は、私にとって目新しいものでしたし、"口"を文字通りカタカナ読みで"ロ"とよみ、"くち"と読めなかったので、正しい意味が分かりませんでした。

しかし、カタカナの"ロ"と漢字の"口"、日本人は一体どうやって区別しているのかしら? 私のように外国に住み、日本の出来事に目を向けている日本ファンにとって、こんな簡単な言葉ですら、どう読んだらよいのか、区別がつきません。

ウチのかなり立派なハゲ頭の持ち主のダンナが、"口パク"は"くちパク"と読むと教えてくれなければ、辞書に出ていないこの言葉の意味を決して知ることができなかったと思います。付け加えてウチのダンナさん、「オメー、人類の歴史でハゲの中年男、老人がモテた記録は全くないし、これからも決して起りえないことだゾ。ハゲの特効薬なんぞも地球の歴史が終わるまでにもできるモンじゃない。脱毛というのは、毛が抜けることではなく、毛沢東の影響から脱出したってことじゃないのか」と教えてくれました。日本語はホントに難しいです。 

"くちパク"が英語の"lip synchronize"の意味だと分かり、日本だけでなくアメリカのマスコミも大騒ぎしている"吹き替え" "コンピューターグラフィック"の話題が一気に理解できたのです。

それにしても、"くちパク"とはなんとうまい命名でしょう。金魚が声を出さずに口をパクパクさせている様子を思い出させます。

やっと"くちパク"論争に入っていけそうです。
トリノ冬季オリンピックで、あの偉大なテナー歌手、パバロッティーも"くちパク"だったのをご存知でしょうか? もっとも彼は自分の歌を前もって録音しておき、開会式のセレモニーで自分の歌に合わせて"くちパク"を演じたのですが…。

シドニー・オリンピックの大オーケストラの演奏も、実はメルボルン・フィルハーモニーの録音に合わせて、オーケストラ全員が演奏するマネをしていたのをご存知でしょうか? これは"オケパク"とでも呼ぶのかしら?

映画やテレビの世界では、吹き替えは当たり前のことです。私たちも吹き替えは当然のこととして、疑問を持たずに受け入れてきました。映画"マイ フェアレイディ"で、オードリー・ヘップバーンは全く歌わず、すべて"くちパク"での吹き替えでしたが、オードリー・ヘップバーンの演技を損なうものではありませんでしたし、監督を非難する声も挙がりませんでした。

一旦、私たちがテレビ、映画という媒介を許し、その媒介を通してモノゴトを見ようとすれば、すでに虚構の存在を許していると思うのです。その意味で、テレビの中継は一種の幻想劇だと思うのです。

アメリカで常にトップの視聴率を挙げるのは、スーパーボールの実況中継です。ですが、この生中継も、実際には同時進行の実況ではありません。ジャネット・ジャクソンが、ハーフタイム・ショーでおっぱいを出してから、"不健全な内容?"をチェックし、全米に流れる前にカットできるように実況を2分間遅らせています。いわば"半生"中継で、視聴者は2分遅れの映像を見ていることになります。

ジャネット・ジャクソンのおっぱいは、テレビの放映そのものが虚構の上に成り立っていると教えてくれた事件でした。

アメリカンフットボールは、昔から大人気のスポーツでした。初めてテレビでスーパーボールが中継された時、小さな白黒テレビを持っている家に親戚や近所の人が大勢集まり、それはそれは賑やかに観戦したものです。男連中が大声で声援を送り大騒ぎしてるのを尻目に、私のおばあさんはしたり顔で、「あんなに、大声で応援しても、選手には聞こえていないと思うんだけどね~」と言ったものです。

 

 

第78回:派手な政治ショーと選挙