■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から


Grace Joy
(グレース・ジョイ)



中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。




第1回~第50回まで

第51回:スポーツ・イベントの宣伝効果
第52回:国家の品格 その1
第53回:国家の品格 その2
第54回:国家の品格 その3
第55回:国家の品格 その4
第56回:人はいかに死ぬのか
第57回:人はいかに死ぬのか~その2
第58回:ガンをつける
第59回:死んでいく言語
第60回:アメリカの貧富の差
第61回:アメリカの母の日
第62回:アメリカの卒業式
第63回:ミャンマーと日本は同類項?


■更新予定日:毎週木曜日

第64回:ミャンマーと民主主義の輸入

更新日2008/06/12


今度の大災害のおかげ、と言ったらおかしいかしら、それがきっかけでミャンマーの軍事政権が外国に対し、取り分け西欧の国々に対し、いかに強い不信感を持っているか知りました。

長い植民地時代を経てきた国々が欧米のやることを信用できない……と考えるのは、感情として分かるような気がします。

自分だけが正しいと信じ、自分の信条を他人に押し付けるほど恐ろしいことはありません。なにせ自分の信じていること、やることが絶対的で他はすべて間違っているのですから、自分の信条以外には限りなく非寛容になれるからです。アラブのテロリストも、一時期世界中で盛んに活躍した共産主義ゲリラも、それぞれ自分が絶対に正しいと信じているのでしょう。

ここに、NED(National Endowment for Democracy;全米民主主義基金)という団体があります。アメリカ合衆国政府の外郭団体とても呼んだらいいのかしら、管理運営は独立したプライベートセクターに一応なってはいますが、基金の大部分は政府から出ているうえ、合衆国議会の承認を得ているという奇妙な団体です。

その完全な傘下にある団体の主だったところをあげると、民主主義のためのジャーナリズム基金、世界民主主義運動協会、国際民主主義研究フォーラム基金、レーガン・ファセルフェローシップ、民主主義研究ネットワークなどがあり、他にもすべての基金をNEDに頼っていないけれど、資金の援助を受けている団体がたくさんあります。

NEDおよびそれに関連している団体は、CIAが法定期規制(アメリカの法律に関してのみ。国際法は往々にして無視していますが)で海外で活躍できない部分を行っているのです。早く言えばCIAの隠れ蓑的な役割を果たしながら、表向きにはアメリカン・デモクラシーの輸出機関になっていると言ってよいでしょう。

NEDが絡んでいると見られる革命は、いずれも"花"の名前がつけられ、グルジアのバラ革命、ウクライナのオレンジ革命、キルギスのチューリップ革命などです。NEDはとりわけラテンアメリカ、パナマのノリエガを大量の資金でサポートし、スキャンダルを起こしましたし、ニカラグアの1990年の選挙にも大々的に絡んでいます。

ハイチ大統領選挙では34ミリオンドル(約34億円、当時はもっともっと価値があったでしょう、しかもカリブで一番貧しい国ハイチにとってはまさに巨万の金額です)を親米のマック・バジンに贈りました。しかし、彼は12%の投票率しか獲得できず、NEDの画策は私たちアメリカ人の税金の無駄遣いに終わったのです。

NEDがイランで行ったキャンペーンだけで膨大な数になりますし、旧ソビエト圏の共和国でも大変な活躍をしています。とりわけ有名なのはキューバに対するアンチ・カストロの運動でしょう。ミャンマーのサフラン革命もNEDが企画し、資金を出し、推進したと言われています。

ミャンマーが早くから隣国のタイやインドからの援助を受け入れ、西欧の国々からの援助を受け入れるのを渋っていたのは、とても不思議な現象に思えました。通常、隣国との関係の方がはるかに緊張度が高く、歴史的にも国境問題、移民や民族の問題が複雑に絡み合い、競争的な立場を保ち続けており、遠く離れた、ましてヨーロッパやアメリカのように人道的な立場から援助を申し出ている(一見そのように見えます)国々に対しては門を広く開けるものです。

ところが今回のミャンマー政府の態度は、これまでの歴史的通念とはまったく異なり、隣のアジアの国々は信用するけど、西欧の国々は信用できない態度でした。

ですが、ミャンマーの政府がアメリカの援助、とりわけアメリカの軍隊が絡んだ援助に神経質になっている理由が十分あったと思います。

アメリカ人の大半は純粋にただ人道的立場からお金や物資を寄付しているのは確かです。多くの団体もただひたすら、困っている人を助けたい一心から援助を申し出ていると思います。しかし、NEDという巨大な団体とそれに関連したたくさんの団体がこれを機会に軍事政権を倒そうと目論んでいるか、かすかにでもそのような希望を持ってミャンマーの援助に絡んでいる可能性がいつも残ります。

アメリカの政治には時々このように、アメリカ民主主義十字軍的な面が現れます。私もミャンマーの軍事政権が倒れ、たとえアジア的混沌とした形でも民主主義の政権が生まれれば良いな……と思っています。でも、それは尽きるところ、ミャンマーに住んでいる人の決めることで、アメリカが画策することではないのです。

 

 

第65回:日本赤毛布旅行