■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から


Grace Joy
(グレース・ジョイ)



中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。




第1回~第50回まで

第51回:スポーツ・イベントの宣伝効果
第52回:国家の品格 その1
第53回:国家の品格 その2
第54回:国家の品格 その3
第55回:国家の品格 その4
第56回:人はいかに死ぬのか
第57回:人はいかに死ぬのか~その2
第58回:ガンをつける
第59回:死んでいく言語
第60回:アメリカの貧富の差
第61回:アメリカの母の日


■更新予定日:毎週木曜日

第62回:アメリカの卒業式

更新日2008/05/29


アメリカの多くの学校は5月末から6月にかけて学期を終えます。従って卒業式も5月の終わりから6月にかけてがピークになります。

私の勤めている大学の卒業式も5月17日にありました。

式は朝の8時半から始まりますが、私たち学校側のスタッフは8時に全員集合です。集合場所はもちろん、フットボール(アメリカンフットボール)スタジアムです。卒業式をフットボールスタジアムで行うのはアメリカの定番と言ってよいでしょう。それは高校でも変わりません。卒業式には両親をはじめ、お祖父さん、お祖母さん、親戚郎党一族、知人友人隣人などなど出てくる慣わしなので、大きな会場が必要なのです。そしてどこの学校でも一番大きくて立派なのはフットボールスタジアムということになります。

参列者全員に立派なプログラムが渡されます。今年のはワイン色に金文字の表紙が付いた28ページに及ぶもので、どこかの誰かが大変な時間と労力それにお金をかけて制作したものです。

日本人が"式"好きなのは日本に行って初めて知りましたが、アメリカ人も負けてはいません。特に最近、結婚式、葬式、卒業式は大きく派手になる一方です。他にもパーティーのたぐい、パーティーと"式"の中間くらいの集まりがたくさんあります。

卒業式は、まず音楽学部の先生が演奏する前奏曲がラウドスピーカーから流れ、すでに満席になっているスタジアムに学長、副学長、理事会役員などのお偉方が入場し、その後、私たち教授がこれも序列に従って、名誉教授、博士号を持っている正教授、助教授、講師の順に入場します。普段先生同士だけでなく生徒さんとでも、「おーい、ビル」「なんだよ、グレース」と名前を呼び捨てにするのが当たり前になっていますが、この時ばかりは、ランキング順に入場し、着ている例のガウンも帽子も博士号を持っているか否かで違ってきます。

卒業式のガウンと帽子は、恐らくイギリスの古い習慣からきているのでしょう、日本での女子大生の着物に袴、男子の新調した背広よりはるかに便利で安上がりなものです。ほとんどの学生はジーパン、ティーシャツの上にガウンを羽織っていますし、私も去年まで短パンにティーシャツ、ガウンの下からはみ出る足だけ黒い靴下と黒い靴で炎天下に備えていましたが、ある生徒さんから、「先生、ガウンの下、裸だったでしょう、足や体が透けて見えましたよ」と言われ、そう人に見られて喜ばれるような体形でもなく、若くもないので、今年から薄手のズボンで防御することにしました。

さて、式ですが、先生方の後には、卒業生の入場になります。流れる曲はもちろん、エドガーの"Pomp and Circumstance"とジョン・スタフォードの "Star Spangled Banner"です。観客席の親兄弟親類は総立ちで拍手で迎えます。修士号の名誉学生を先頭に、修士課程の卒業生、学部の名誉卒業生、普通の卒業生が続きます。

そして、開会の祈りがあり、続いて学長の挨拶、理事、OB代表の祝辞があり、それに答えるように学生代表のお礼の挨拶があります。ここで中継ぎの意味でしょうか、雰囲気を引き締め、盛り上げるためでしょうか、女学生が聖歌隊とブロードウェイを足して2で割ったような甘ったるく引き伸ばした唄い方で絶唱します。

その後、副学長が優秀な学生を表彰し、奨学金や大量の寄付金を出している個人や団体、会社のエライさんが学生に楯を贈ったり、祝辞を述べます。私の知らない、なんとたくさんの人が大学に関わっていることでしょう。

そのころ、陽は次第に高くなり、黒いガウンは太陽の熱をたっぷりと吸収し始め、ガウンの中はサウナに近い状態になってきます。隣に座った英文学部の学部長先生はさもありなんといった表情で、ガウンの下から手品師のように紙コップに入ったアイスコーヒーを取り出したのです。

道理でその先生、ガウンの中で両手を合わせお祈りをるようなポーズをとり続けていると思っていましたが、小さめの魔法瓶に氷とコーヒーを詰めて捧げ持っていたのでした。回りの先生たち、皆彼女の準備のよさを褒め称え、10ドル出すからコップ一杯のアイスコーヒーをよこせなどと言い出す先生もいるくらいでした。

今年、卒業生は900人あまりいました。その全員の名前を呼びあげ、学長が卒業証書を一人ずつステージで手渡します。これが拷問に等しいほど長く、延々と続くのです。それでも、自分の生徒さんがステージに呼ばれる時には拍手に力が入りますし、取り分け問題の多い学生だった場合は、やはり大いに祝福してあげたい感情が沸き上がります。

3時間近い式が終わる時、たくさんの風船を飛ばすのがここの習慣になっています。卒業生も親たちも、私たち学校関係者もヤレヤレといったにこやかな表情で席を立ち、皆汗で濡れベットリとお尻にくっついたガウンを引き離すように揺すり、新鮮な空気をガウンの中に入れながら退場するのです。

 

 

第63回:ミャンマーと日本は同類項?