第73回:アメリカで一番有名な日本人
更新日2008/08/14
アメリカで一番名前が知られている日本人は誰でしょうか?
一昔前なら、クロサワ、ミフネそしてソニーの盛田昭夫さんとか、ホンダの本田宗一郎さんと言えばまず間違いないスジでした。でも、もうこの方たちはこの世におりません。
歴代の首相では、就任期間が長かった小泉さんはアメリカ訪問の際、プレスリーの生地を訪れ、プレスリーの歌を英語で唄ったりしたので政治、日本に興味のある人たちの間だけでは知られていました。しかし、今の日本の首相は誰?と訊かれて答えることができるアメリカ人は東洋専門のジャーナリストくらいじゃないかしら(福田さんごめんなさい)。日本では、良いこともせず、悪いこともせず、何もしないのも芸の一つとして評価されるそうですから、目立たず、知名度が低いことは必ずしも欠点とは言えませんが…。
ヨーコ・オノは、ビートルズ・ジェネレーションなら誰でも知っています。でも、ヨーコ・オノが日本人である(あったかな)ことを知っている人は案外少ないかもしれません。彼女のもっぱらの活躍の場はニューヨークとロンドンだし、日本人の枠からはみ出た国際人になってしまいましたから、もう純日本人として勘定に入れるわけにはいかなくなったような気がします。
『タイム』や『ニューズウィーク』に何度も写真入りで報道され、日本の顔として紹介された人がいます。シゲル・ミヤモト(宮本茂)さんです。よほどコンピュータゲームのファンでもない限り宮本さんが何をした人か、どんな人なのか知らないかもしれません。任天堂のゲーム、「マリオ」や「ゼルダ」を創り、椅子に座ったまま手だけの操作に終始していたゲームを体全体を使う全く新しいコンセプトを取り入れたWiiの製作者が宮本茂さんです。この一年間、アメリカのニューズに登場した回数、紙面の大きさからいくと、宮本茂さんが日本人で一番かもしれません。
タイム誌で2007年に"世界にもっとも影響を及ぼした100人"の中に選ばれた日本人がニ人います。
一人は中山伸弥博士です。彼はもうすでにマイエンブルグ賞やロベルト・コッホ賞を受賞しているので、いまさらタイム誌が紹介するまでもない気もします。彼の業績を解説?するのは私の生科学の知識を総動員してもチョット無理があります。それを承知のうえで簡単に言わせてもらえば、今までES細胞(万能細胞)を研究するには卵子や胚を摘出しなければならず、それらはすでに生命の一種であると宗教団体が猛反対していました。大きな票田をそのような宗教団体に依存しているアメリカの政治家たちも、政府が人工細胞の研究にお金を出すことに反対していたのです。
そんな政治と宗教が絡んだ問題を中山博士は一挙に解決したのです。彼はたった4種類のタンパク質(遺伝子)を皮膚に移植し、iPS細胞(人工多能性幹)を創り出した…と言えば当っているかしら。ともかく彼の研究のおかげで宗教団体の足枷がなくなり、ステム細胞の研究に関してとても保守的なアメリカ政府も研究費を出すようになりました。彼の研究が、近い将来アールツハイマーやパーキンソン病の治療に役立つと期待されています。
中山博士は、ステム細胞の研究の前に横たわっていた宗教と政治の垣根を取り払ってくれたのです。
もう一人の日本人は、村上隆さんです。村上という性が日本には多いのでしょうか、小説家の村上春樹さん、村上龍さんもアメリカでの知名度はありますが、今回、タイム誌に選ばれたのは村上隆さんです。彼の名前はタイム誌の記事で初めて知りました。漫画家、イラストレーター、商業デザイナー、否それとも純粋な芸術家? 村上隆さん自身はそんな枠を全く意識していないようですし、子供心あふれるいたずら描きのような作品を創作しています。芸術と商業デザインの間に引かれた線を消した人が村上さんだと評価されています。
タイム誌の選んだ100人は、もともとアメリカのジャーナリズムの目から見た"世界"の100人ですから、それ自体偏向があることでしょう。ですが、今まで私が全く知らなかった"世界で活躍する日本人"を知ることができました。
しかし同時に、たったこれだけしかいないの、もっとたくさんいるはずじゃなかったの、と少しさびしい気もしました。
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