第773回:アメリカの金脈企業と刑務所
アメリカは“ランド・オブ・オポチュニティ(land of opportunity)”<誰でも成功するチャンスのある国>とよく言われてきました。真面目に一生懸命働けば成功する、平たく言えば誰でも大金持ちになれる国だというのです。旧態依然としたヨーロッパの国々や日本に比べると、一昔前ならアメリカでなら成金になりうる条件があったのかもしれません。ビル・ゲイツなどのハイテック関連だけでなく、通信販売のアマゾンのジェフ・ベゾスなどなど、学生らが親の家のガレージや地下に閉じ篭もり、始めたシゴトがアレよという間に大企業に発展することがあり得たのです。最近では、ロシア、中国に押され気味ですが……。
資本主義は言ってしまえば金満主義で、儲かることならなんでもする、儲かることは良いことだという、往々にして人道主義と相反するモノです。
近年、あらゆる投資会社、年金会社、金融機関、地方都市の財政関係、終いには大学の財務課まで、争うように投資している企業があります。それは、刑務所の管理会社なのです。犯罪は増える一方だし、下請け管理会社は囚人一人に付き幾らと州からお金を取っていますから、資金源は州で支払いは確実、安全だというわけなのでしょう。しかも年々、アメリカで刑務所の管理を民間に移行する傾向が高くなっています。
刑務所管理会社は州と契約して、請け負っています。例えば、ミシガン州の場合、初めは刑務所の食堂だけで、「アラマーク(Aramark)」という会社が3年契約で145億ドルで請け負っています。州にしてみれば、刑務所関係の公務員を減らすことができる上、頭痛の種を多少ではなくて、大金を払っても、投げ出すように責任を移転できるのですから、ありがたいことなのでしょう。
「アラマーク」は食費を削りに削り、腐ったイモ、野菜、果物を囚人に食べさせただけでなく、肉団子などはリサイクルし、ついに集団食中毒を起こし、契約を切られ、今は「トリニティー・フード・サービス」という会社に変わりましたが、刑務所の暴動の原因は、何といっても酷い食事に端を発することが多いのです。委託は食堂だけでなく、警備会社が刑務所の警備を受け持ち、ビルの管理会社が刑務所自体の建物を管理し、囚人服や靴を供給する会社、歯磨き、歯ブラシの会社、囚人の移動も囚人輸送専門の会社、お医者さんも医療派遣会社、刑務所からの電話、インターネット、メール利用するにも専門に契約した電話会社(これがまた高い料金を囚人から取っています)などなど、刑務所に関連している企業は投資会社も含め3,100社に及んでいます。
現在、アメリカで牢屋に繋がれている人は230万人います。まだすべての刑務所が民間企業になっていませんが、国全体で8兆ドル産業とみられています。犯罪が多発している現状で、刑務所関係は将来性のある金脈なのです。
コロラド州でのことですが、トラックの荷台にソリを引く犬、アラスカの犬ソリ競争のようにトレーニングされたハスキー犬を放置した犬の持ち主が動物虐待の罪で逮捕され、実刑を喰らいました。それを知ってのことでしょうか、アレックス・フリーマンさん(彼自身10年の刑で刑務所に入っていたことがあります)は『刑務所法律ニューズ(Prison Legal News)』という新聞に、徒刑者が移送される時の悲惨な状態を報告しています。
炎天下、窓がなく、エアコンのないバン(貨物用の車)に手錠をかけられたまま放置された6人の囚人が死んだ事件を報告しています。牛や馬の輸送にでさえ基準があり、法的規制があるのに、囚人は牛馬以下の扱いだと書いています。
ほとんどすべての刑務所は定員オーバーの状態です。ほとんどというのは、合衆国政府直轄の刑務所は民間に委託されておらず、比較の問題ですが、刑務所内のコンディションが良いのだそうです。ところが、どんどん民間企業に移行されている州立の刑務所は、一時期フィリピンでのドラッグ狩り時の刑務所のように、ラッシュアワーの新宿駅とまでは言いませんが、相当な混みようで、拘置所経験のあるウチのダンナさん、「ウヘ~、あんな入れ墨だらけのキン肉マンと一緒に詰め込まれたら、堪らんな…」とうめくほどなのです。
データが少し古いのですが、東バトンルージュのパリッシュ刑務所では、2012年から2016年の間に25名の囚人が亡くなっています(その内の90%は黒人)。ネズミでも狭いところにたくさん長期間に渡って詰め込まれていると、獰猛になり殺し合いを始めることが知られています。刑務所内での暴力事件は日常茶飯になっている上、お医者さんが連絡を受けて駆けつけた時には手遅れというケースが当たり前のことになっているようなのです。
また、警備を受け持つ民間警備会社の社員も慢性的な人手不足で、五体満足なら誰でも即採用される状況で、従ってレベルが低く、簡単なトレーニングを受けるだけで刑務官になれるのが現状です。
「徒刑囚は社会的な悪をなしてここに繋がれているのだから、こいつらをどう扱おうと自由だ。こいつら同士で何をしようと知ったことじゃない。ここはヒルトンホテルじゃないんだから…」と刑務官がインタビューに答えていました。
確実に儲かる民間の刑務所管理会社のあり方が余りに酷いので、東部のエリート大学はそこへの投資を止めることを決定しました。囚人にも最低限の人権が残されている、それを無視して利益に走る会社には投資できないと、少しは人道的な判断をしたようなのです。
でも、刑務所産業?の金脈に群がる企業が次々と現れ、投資する証券会社も多いのですが…。
-…つづく
第774回: アメリカの“1ドル・ショップ”
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