第758回:武器よさらば その1
先々週、このコラムで(第756回:コロナが流行れば……が儲かる)で新型コロナ・パンデミック以来、武器が売れに売れていると書いたばかりですが、テキサス州のユヴァルディという人口1万5,000人の小さな町のロッブ小学校で、またまた大量銃撃事件が起こり、19名の小学生と2人の先生が殺されました。
これは学校生の殺戮として新記録です。サンデイフック小学校では20人(14人小学生と職員6人)、フロリダのパークランド高校では17人、コロラドのコロンバイン高校では15人でした。先々週、ニューヨーク州、バッファローのスーパーで黒人ばかり10人を狙い撃ちにし、殺した事件が起こったばかりです。
セミオートマチックのアサルトライフル(軽機関銃;市街戦用)AK-15で、18歳の少年が教室に入り、ドアをロックし、子供たちを一人ひとり狙い撃ちしたのです。その少年は、合法的に二丁の軽機関銃AK-15と、30発入りのマガジン(銃創)を7本、弾丸600発を購入しています。
テキサス州では18歳になると、簡単な前科があるかどうかのチェックだけで、合法的にそんな戦争の人殺し用の武器を買うことができるのです。そして、街中で銃を剥き出しにして持ち歩いても、違法ではないのです。彼には、前科はありませんでした。
彼が二丁の軽機関銃と弾丸を購入したのは、事件の数日前です。まさか試し撃ちをしたわけではないでしょうけど、それで自分のお婆さんを撃っています。幸い、お婆さんは命を取り止めましたが、その足でピックアップトラックに武器を積み込み、ロッブ小学校に向かっています。が、興奮しすぎたのでしょうか、途中でトラックを道路脇の溝に突っ込んでしまい、トラックをそこに乗り捨て、一丁の軽機関銃を車に残したまま、もう一丁の軽機関銃とスペアのマガジンを手に、徒歩でロッブ小学校に向かっています。距離はほんの200~300メートルあるかないかで、人通りの少ない閑静な道路です。
ロッブ小学校は、航空写真(ドローンで撮影されたものだと思います)で観ると、広く大きな平屋の建物で、教室には窓が少なく、それも幅の狭い細長い窓で、これは生徒の集中力を外界の出来事で乱さないためと、エアコンの効率のためです。大きな窓があるのは職員室、事務室だけです。それが、今回のような一旦廊下とのドアをロックすると、教室を密室にしてしまい、中で何が起こっているのか掴めない効果を生んでしまったようなのです。
ロッブ小学校自体、とても広く、立派な学校で、私が通っていた頃の木造の一教室だけの、しかも両側に盛大に窓が並んでいる教室とは天と地の違いがあります。まるで政府の機密政庁みたいに見えます。それを見ていたダンナさん、「俺の通っていた学校は、アウシュヴィッツのバラックに窓を付けただけのようなもんだな~」とつぶやいています。
警察にいち早く電話したのは、撃たれた生徒でした。その少女も殺されてしまいましたが…。今では誰でも携帯電話、iPhoneを持っているのでしょうね。そんな小さな町のシェリフ、こんな事件の対処に慣れていない町の駐在さんのようなお巡りさんの判断、初動が遅かった、真っ先に駆け付けた国境警備隊の対処が遅れたとか非難されています。が、アメリカに何千、否、何万とある学校で、こんな事件に対して素早く対処できる体勢を持っている警察署、学校関係者など存在しません。
小学校がこのような外から銃を持って侵入してくる人間に対し、防犯処置を取っていなかった、警備員を玄関に置くだけで防止できたとか、おびただしい意見、非難が渦巻いています。が、すべては後知恵、事件後の責任のなすりつけ合い、言い訳に過ぎません。
大量殺戮に慢性になり、感覚が麻痺しているアメリカ人でさえ、犠牲者が小学生のことですし、殺された人数が多いので、今回の事件はショッキングなニューズでした。
今回のように学校に乱入しての大量殺戮事件が起こるたびに、銃規制を厳しくしようという声が挙がります。当然のことで、野放し状態の銃火器が市中に出回っていなければ、こんな事件は起こりえないのは明白です。州知事や政治家、警察の長官は、テレビカメラの前でこのような悲劇は二度とあってはならない、亡くなった子供たちと先生に追悼の意を表す言葉を決まり文句のように並べた後で、今回は悪魔、精神異常者の手に武器が渡ってしまった偶発的な事件だ、武器そのものに罪はなく、それを扱う人間の方に問題がある、と銃規制に乗り出そうとしている人たち、議員に防御柵を早くも設けようとしています。
政治家、テキサス州の知事や上院議員にとって、子供たちが何人死のうが全く気にしていないのは明らかで、それより何より、その週末に、テキサス州ヒューストンで開かれるNRA(全米ライフル協会;最大の政治献金をしている圧力団体)の全国大会を成功させ、自分が予備選挙で指名されることだけを念願としていることがミエミエなのです。
外国のおそらくBBC(イギリスのNHK的報道機関)の記者のインタヴューで、どうしてアメリカだけにこんな大量殺戮が相次ぐと思うかと、テキサス州の上議会議員テッド・クルスに質問したところ、「お前の国に銃を持つ自由がないのは不幸なことだ、幸運を祈っているよ…」と会見を逃げるように打ち切ったのです。
ですが、今年に入ってからの5ヵ月間で、学校での乱射、大量射殺事件は27回起こっていますし、スーパーや教会での大量射殺事件は213件も起こっているのです。案の定、オクラホマ州のツルサの病院で大量殺戮事件が起こりました。
銃が野放しなっている限り、今回のような事件は起こるべくして起こったと言えますし、これからも次々と起こるでしょうね…。
-…つづく
第759回:武器よさらば その2
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