第766回:はびこるインターネット詐欺
いつも卵を買っているマクドナルド・ファームに電話し、いつもこれから行くよと連絡します。それが、最近、まず自動応答メッセージが出てきて、「この電話は、録音されて、おります。物売り、チャリティーなどはご遠慮願います。その他の方は、メッセージをお残しください」とやるようになりました。ダンナさんは、「オーイ、マイク&ベティー、俺は何もお前たちにモノを売付けようとか、寄付をよこせという下心は全くないのだ。ただ新鮮な卵を買いたいだけだ……」と駄弁を弄しています。
彼ら、こんな田舎に住む老夫婦のところまで、ひっきりなしに物売り、寄付、訳のわからないイイ話、投資の電話など、私たちは“ジャンクコール”と呼んでいますが、かかってきて、うるさくてかなわないから、電話局の“ジャンクコール”防止の自動応答システムを入れたと云うのです。日本の義理のお姉さんのところも、一度オレオレ詐欺電話があり、それ以来、同様の自動応答を取り入れました。
私たちのところにもやっと携帯電話の電波が不安定ながら入るようになり、大きな賭けだったのですが、地上の普通電話を解約して、携帯電話一本槍にしました。その最大の理由は“ジャンクコール”が多すぎて我慢できなくなったからです。
よくぞありとあらゆる詐欺まがいの物売り、寄付を思いつくものです。何か大きな事件があると、それに関連して、即、お巡りさんが亡くなったなら、その家族を救うため、大きな火事があるとその現場で活躍した消防士のため、子宮がん、白血病に罹った子供ため、なんでもニュース種になったテーマに関連して、義援金を募るのです。中にはホントウに困っている人を助けるためにチャリティーを行なっているグループもあるでしょうけど、ほとんどの電話チャリティー、お金チョウダイ電話は詐欺だ、要注意だと警察は戒めています。
私の父親は天才的なほどお人好しと云うのか目の前にいる人を信じるタイプで、セールスマン、セールスウーマンにNOと言えず、数えきれないほど、詐欺まがいのセールスに引っかかっています。総額でどれほどになるか想像もできないほどです。しかも記憶のスパンが短いのか、同じ手口に何度も繰り返し乗ってしまうのです。
全部が詐欺とは言えませんが、彼の甘さに付け込んだ物売り、郊外の不動産、バケーション用の湖水地方の土地(そこまで行く道がない、湖畔まで何キロかある)などの大口もありますが、アメリカ独立記念コイン、金貨などのガラクタも毎度のことで、母の苦労が忍ばれます。オレオレ詐欺にもあと一歩というところで、銀行に出かける道筋で住み込んで貰っていた看護婦さんに偶然会い、彼女がそれは怪しい、オカシイと気づき、大金を振り込まずに済んだこともありました。
彼のように引退した老人は、多少お金があるし、それまでの人生で人を疑わず、また裏をとる修練を積んでいませんから、詐欺師さんにとってイージー・ターゲット(易しい標的?)になるのでしょう。手を変え品を変えた膨大な数の詐欺事件が起こっています。それに加え、最近では、老人たちもスマホを使っていますし、もちろんパソコンでインターネットにアクセスし、Eメール、インターネットショッピングをするようになりましたから、インターネット絡みの詐欺が天井知らずに伸びています。はっきり掴めないのですが、総額で何千億から何兆円になるのではないかと言われています。
ウチの父もそうですが、もう引退したのだから、あるモノと年金を使って楽しむことに専念すれば良いものを、上手い話、美味しい話に乗ってしまうのです。年金を今の倍にする投資とか、もう旅行もできないし、バケーションで山や海でワンシーズン過ごすなんてことは体力的にもあり得ないのに、そんなパッケージ、プラン、タイムシェアの別荘などに手を出してしまうのです。
新手の詐欺まがいのものでは、“クリプト通貨(Cryptocurrency)=暗号通貨”があります。本当にスーパーで買い物ができる通貨ではなく、インターネットの中だけで通用する貨幣ですが、値動きが激しく、どこかの誰かが投資額の十数倍を1年で儲けた話が広がると、ヨシ、オレもと思う人が大勢いるのです。“ビットコイン”などに投資する老人が増えているのです。大手のGoogleやAmazonのギフトカードの詐欺も多く、これも100ドルで150ドル、200ドルの買い物ができる…など謳ってプラスティックのカードを買わせます。もちろん、そんなカードは使える範囲が極端に限られているか、全く使えないのですが…。
私の弟はハイテック関係で働いていました。今は引退していますが、結構豊かな老後を送っています。ところが、彼の個人情報が漏れ、流れて、彼が何枚か持っているクレジットカードとATMカードの番号が盗用されてしまいました。クレジットカードの決算は月に1回(理論的には常時インターネットでチェックできるのですが)のレポートが来てから、びっくり仰天。そんなもの買っていないし、使用された場所、土地にもその時点で行っていないと分かったのです。クレジットカードは便利なものですが、一種両刃のナイフみたいなところがあります。
現在、詐欺業界?では社会保証番号(Social Security Number)は1件2ドル、それに生年月日が加わると4、5ドル、クレジットカードの番号が付くと25ドルから35ドル、写真が付くとグッと値上がりして100ドルで売り買いされているのだそうです。存外安い値段で、しかし幅広く売り買いされているようなのです。それも、ブローカーがいて、何千、何万という個人情報が売買されており、それを手にして、相手を見極め、コリャ引っ掛かり易そうな人物でお金もあるとなると、様々に手を変えて攻勢をかけてくるのだそうです。
アメリカの国家安全委員会(National Security Agency)が乗り出すほど、国の安全が脅かされている状態なのです。というのは、100%近くの電話詐欺、インターネット詐欺は、アフリカ、中近東、アジアの国が詐欺集団の基地になっているからです。世界中どこへでも繋がる、電話、インターネットには、そんな裏面もあるんですね。
そういえば、父のところに掛かってきたオレオレ詐欺も、孫のマックスがドミニカ共和国で交通事故に遭ったと、ドミニカ共和国からの電話でした。彼はメキシコ、南米を広く旅行し、滞在していましたが、ドミニカ共和国には足を踏み入れたことはなかったのです。
ズボラを絵に描いたようなウチのダンナさん、個人情報を守るなどということは、どこか他の惑星のことだと思い込んでいるのでしょうか、至って無頓着で、「俺の個人情報なんか三文の価値もないさ、 盗んだ方が借金の多さに驚いて、何がしか恵んでくれるんじゃないかなぁ…」と宇宙人みたいなことを言っています。
-…つづく
第767回:イノセンス・プロジェクト、冤罪のことなど
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