第759回:武器よさらば その2
どうにもやり切れない話ですが、ユヴァルディのロッブ小学校の大量殺戮の醜い全貌が少しずつ分かってきました。夜寝れないほど、カッカと血が廻り、子供を安心して学校に通わせることができないこんな国、スーパーで買い物するのも命がけ、日曜日に教会に行ってもそこで撃たれるかもしれず、病院でまで軽機関銃をぶっ放される国に、ホトホト愛想が尽きてきました。
単に私が抱いていたイメージだけのことかもしれませんが、アメリカ人一般に、まあどこの国の人でも同じでしょうけど、アメリカの男共はともかく筋肉だけはたくさん付いているので、いざと言う時、ましてや子供の命が懸かっている時には、自己を省みずに、たとえ犠牲になっても、子供たちを救おうとするものと思っていました。アメリカ同時多発(9・11)テロ事件の時、ハイジャックされた旅客機2機はワールドトレードセンタービルに突っ込み大量の犠牲者を出しましたが、もう1機はペンシルバニア州の平原に突っ込み自爆しました。それは、そのユナイテッド航空93便が国会議事堂、ホワイトハウスに体当たり攻撃を仕掛けるのを阻止するため乗客が立ち上がり、自分たちが死んでも、テロリストが目標にしていた街、ビルを、そしてそこにいる人たちの命を守ろうとしたからだと言われています。多分に見掛け倒しの筋肉マンたるアメリカのマッチョも、やる時にはヤルもんだと思っていたのです。
ところが、今回のロッブ小学校の事件ではすっかり裏切られてしまいました。事件に関連した最初の電話(日本の110番、アメリカでは911番)があったのは午前11時30分です。その2分前の11時28分に、少年は軽機関銃を掃射しながら学校に入っています。11時33分までに、彼はすでに100発以上撃ちまくっています。その約12分後には、地元のお巡りさん、そしてほぼ同時に国境警備隊が小学校に到着しています。国境警備隊がカウンティー(郡)シェリフより先に着いたのは、ユヴァルディという町がメキシコ国境から60~70マイル(約100Km)に位置しており、国境警備隊の駐屯地が近かったからです。
ところが、真っ先に着いた国境警備隊は、学校の外庭を囲むように黄色い立ち入り禁止用のビニールテープを張り巡らせたり、機関銃を持った少年をどのように攻撃するかの作戦を練っていたのでしょうか、映像を見ると所在なげに動き回っているだけなのです。スマホで撮影された動画がフンダンにあり、如実にそんな状況を観ることができます。
三々五々、集まってきた父兄に、「お前たち、何をやってるんだ? どうして突っ込まないんだ!」と盛んに抗議されたりしています。彼らの仕事は、そんな親たちを黄色いテープの外へ押しやるのが唯一のことのようにさえ見えます。
まるでクーデターに対処できるような武器を抱えたスワットチーム、FBIなどがやってきて、校舎の中に彼らが入ったのが12時15分になってからで、その後、用務員から合鍵を借りて犯人が内側からロックしていたドアを開け、教室に突入したのが12時50分のことです。
最初に警察官が小学校に到着してから、ドアを開け教室に突入するまで、実に47分も掛かっているのです。その間、少年は子供たちを処刑するように次々と撃ち殺していたのです。もし、地元の警察、国境警備隊が、到着と同時にドアをブチ破り、教室に突入していたら、確実に半数以上の子供の命を救うことができたでしょう。
事件後、警察が犯した数々の間違いを指摘するのは、卑怯に見えるかもしれませんが、このように人命が掛かっている場合、警察官が犯した間違いをきちんと指摘するべきだと思います。警察官、国境警備隊、スワットチーム、FBIは、そのためのトレーニングを積み、私たちの税金からこんな時のために給料を貰っている、言ってみれば国民を守るために働いているのですから。
官憲が小学校に着くと同時に、犯人が占拠している教室に躍り込まなかったことに失望しました。教室のドアなど、警察官が持っている武具で簡単に爆破、打ち破ることができたはずです。自分の身を挺して教室に突入するべきだったと思うのは、私だけではないでしょう。とりわけ、学校に詰め掛けていた父兄たちは、そんな感情を強く抱いたに違いありません。
全く異例のことですが、合衆国の司法省が、今回の事件の対処の仕方に問題アリ、とみたのでしょう、調査を命じています。
全米で4億丁とみられる銃火器をすべて没収し、完全な“刀狩”をするのは、現実問題として不可能ですが、銃の規制を見直すべきだという声が強まり、6月2日に、バイデン大統領が特別教書演説を行いました。立法権は議会にありますから、大統領の演説は、ただ国民に、強いては国会議員に銃の規制を強める…と言っても、外国から見れば、ないにも等しい可愛いもので、現在、軽機関銃の購入年齢制限を18歳から21歳に引き上げる、購入の際のバックグラウンド・チェック(犯罪履歴、精神病歴など)を厳しくする。現在許されている30入りのマガジン(弾倉)をもっと小型のものにする。レッド・フラッグ(赤旗)システムと呼んでいる、ある地区に銃を乱発する可能性のある人物が現れた場合、その地域に警戒警報、赤旗注意報を出す。また、銃の保管は鍵が掛かる銃保管金庫に個々の責任で保管することを義務付けるなどなど、具体的なことを実行するよう呼びかけています。
でも、ここがアメリカの政治の愚かというか悲しいところで、大統領が提唱したこと、当然過ぎるくらい僅かな銃規制すら、NRA(全米ライフル協会)に後押しされた議員が多いため、法案が通過するのは難しい見通しなのです。アメリカ国内では88%の人が銃規制強化に賛成してると世論調査に出ているのですが…。
こんな法案が、大量殺戮が起こる度に議会に提出され、審議されますが、毎回、骨抜きになるか、まったく成立していません。
今回、テキサス州のユヴァルディのロッブ小学校の殺戮事件後、銃の売り上げは文字通りうなぎ上りどころか、ロケット並みに上昇しています。銃規制が厳しくなるかもしれないから、今のうちに買っておけという心理でしょうね。と同時に、ユヴァルディの大量殺戮事件から、これを書いている今日(6月2日)までの10日間に20件の銃撃事件が起こっているのです。オクラホマ州ツルサの病院を襲撃した犯人は、病院に乗り込む1時間前に、軽機関銃とピストルを購入しています。
“誰でも買える機関銃、ピストル、私にも使えます”とキャンペーンをしているかのようです。 “私にも撃てます、殺せます”とやった方が当たっているでしょうね。アメリカの幼児5歳までの死因は、あらゆる病気を押しのけて、銃によるものが圧倒的にトップなのですが…。
-…つづく
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