第753回:ロシアのウクライナ侵攻とアメリカのベトナム戦争
“ロシアはかくも広大であるから、絶対専制以外のいかなる政府もそぐわない。事実、他の政体では物事を実現するのに手間取り、国家の権威や勢力を分散させる勝手な情熱を醸造します”と言ったのは18世紀のロシアの名君と言われているドイツ人でありながらロシアの女帝になったエカテリーナ2世です。(『Catherine La Grande』;アンリ・トロワイア[Henri Troyat]著;日本語訳_工藤庸子;中央公論)
続けて、“ロシアでは誰一人自立して考えかつ行動することがない”とあり、“他の国なら、国民、政府を相手にしてる”のだが、ロシアを相手にする時は、“どんな人間を相手にしているか、見極めなければならない”とあり、今のロシアのあり方を考えさせられました。
ウクライナのことを先週書いたからには、ロシアのことも…と思ったわけではありませんが、一体どうして? なぜ? ロシアがウクライナを侵略しなければならなかったのか、プーチンの一人相撲なのか、ロシアの安全にとってウクライナ侵攻が絶対必要なことだったのか、ただロシア国内の愛国的地盤を固める必要があったためなのか、私のような素人にはよく分かりません。もっとも、アメリカがベトナム戦争にのめり込んで行ったのかもよく分かりませんが…。
元々ロシアの人口の90%は農奴が占めていました。ヴォルテールやディドロと数多くの手紙を遣り取りし、啓蒙主義を信奉していて、自ら進歩的な知識人であると認めていたエカテリーナ女王でさえ、自分が持っている、そして貴族たちが抱えている土地付きの膨大な農奴(売買できたから奴隷と同じです)を開放しようとはしませんでした。それを開放したのが、レーニンのロシア革命です。
私はロシア革命の意義を認めることにやぶさかではありませんが、その後のソビエトの政体は独裁、専制君主制に近かったと思っています。北朝鮮の三代続いている独裁政権ほどではないにしろ、同じようなものだと思っています。スターリンの粛清、その後の共産党独裁政治、それに付き従うロシア人たちを観ると、250年以上前にエカテリーナ女王が見越したように、ロシアを治めるには専制君主しかないのかな~と思ってしまいます。
イワン雷帝からピョトール大帝、そして現代に至るまで、ロシアではトップがやりたい放題やり、それを支持する体質ができ上がっているかのように見えます。極端に言えば、イワン雷帝やピョトール大帝が振り回し、誰かれなく打ち据え、自分の息子まで殴り殺したロシアの伝統“棍棒”が、ロシアの歴史を作ってきたとまで言えるかもしれません。
私は今回のウクライナ侵攻はロシア国内に反戦運動が広がり、自分の息子たちを無駄に死なせたくない母親たちなどが目的の分からない戦争反対に立ち上がり、世論が反戦に傾き、曲がりなりにも議会政治を敷いているロシアはプーチン更迭に持っていくのではないかと、期待していました。
これだけ、インターネット、スマホ、サテライトの電話が発達しているのだから、ウクライナの悲惨な状態を誰でも、ロシア人も見ることができる時代なのです。今までの戦争と全く違うのは、スマホで撮った動画がどんどん流れ出て、実にリアルな映像を茶の間で観れることでしょうか。今までだと、取材記者、カメラマンがどちらかのサイドの軍、グループに従軍し、報道したものが大半でしたが、今回のロシアのウクライナ侵攻では、普通の市民が撮った生々しい映像がそのまま多くの国の家庭に直接持ち込まれています。
だから、ロシア人も自分の国の政府が何をやっているのか気づくはずだと、楽観視していましたが、これは西欧的民主主義に洗脳された極めて楽観的な甘い見方でした。
全く信用できない調査だという人が多いのですが、ロシア国内の世論調査では、ウクライナ侵略前40数%だったプーチンの支持率が、侵略後には83%まで上がっているのです。彼らロシア人は、一体どんな報道、ニューズを観ているのだと言いたくなります。
ロシア国内での反戦運動は、ヨーロッパ諸国では想像もできない激しさで弾圧されているようなのです。ロシア内の政変や世論の高まりで、ウクライナ侵攻がストップする可能性はとても小さいようなのです。
ベトナム戦争の時、無差別に北ベトナム爆撃を開始したジョンソン大統領の支持率は、1965年10月には70%に跳ね上がっています。ですが、1967年の10月にはアメリカの世論が、アメリカのベトナム“介入”(本当は侵略ですが)は間違いだとする方向に急変していきます。その変化が顕著になるのに2年もかかっています。その間、ベトナムで殺戮が繰り広げられていたのですが…。
それに、NATO(北大西洋条約機構)の国々の弱腰はどうなっているのでしょう。金と物は出すけど、ウクライナなんかどうなっても構わないと思っているかのようです。自分の国の若者、兵隊を送り、死なせる価値がウクライナにはないといわんばかりです。
UN(国際連合)もあの水色のヘルメットを被った軍隊を派遣(平和維持軍)する、派遣できる、はずですが、国連の軍隊は、アジア、アフリカ、ヨーロッパの弱小国向きに創られているのか、ロシアに対して発動もしていません。
もし、ウクライナに油田でもあれば、話は全く違ってくるのでしょうけど…。地下資源の乏しい小さな国が独立を保つのは国際的な協調しか道はありません。しかし、他の国が犠牲を払ってまでその国を守ってくれることなどあり得ないことを肝に銘じておくべきです。
今回のロシアのウクライナ侵攻に対し、アメリカは随分偉そうにロシアを非難し、ウクライナに相当な軍事物資の援助をしていますが、本来のアメリカはベトナム戦争を例に出すまでもなく、非常な好戦国です。戦争をどこかで常に引き起こしていた過去があります。第二次大戦以降、アメリカが引き起こすか、関わってきた戦争、内乱はすべて失敗しています。その国を壊しておいて、名誉ある撤退と称し、引き上げています。
軍人上がりのアイゼンハワー大統領が危惧した通り、軍事産業が外交、政治を牛耳るようになったのです。それを国益と故意に履き違えて世論を操作してきた過去があります。アメリカ人は自らの敗戦、ベトナムで見っともなく逃げ出したことを思い起こすべきです。
ロシアもソビエト時代から、ゴリ押しの大国主義でハンガリー動乱、チェコのプラハの春を戦車を大量に送り込み、潰してきた体質は変わっていないな~と思わずにはいられません。
ウクライナ侵攻は、ロシアが「もう止めた、失敗だった」と言い出さない限り終わらないでしょうね。ベトナム戦争のように、アメリカが最大時に53万人の兵力を投入しても負けた教訓をロシアにも思い起こして貰いたいと思うのです。
-…つづく
第754回:ベラルーシ、“白ロシア”のことなど
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