■ダンス・ウィズ・キッズ~親として育つために私が考えたこと

井上 香
(いのうえ・かおり)


神戸生まれ。大阪のベッドタウン育ち。シンガポール、ニューヨーク、サンフランシスコ郊外シリコンバレーと流れて、湘南の地にやっと落ち着く。人間2女、犬1雄の母。モットーは「充実した楽しい人生をのうのうと生きよう」!


第23回:ニューヨークの惨事について私たちができること
第24回:相手の立場に…

第25回:「罪」から子供を守る

第26回:子供に伝える愛の言葉
第27回:子供の自立。親の工夫

第28回:ふりかかる危険と自らの責任

第29回:子供はいつ大人になるのか? ~その1

第30回:子供はいつ大人になるのか? ~その2

第31回:子供はいつ大人になるのか? ~その3

第32回:Point of No Return
第33回:かみさまは見えない
第34回:ああ、反抗期!
第35回:日本のおじさんは子供に優しい??
第36回:子供にわいろを贈る
第37回:面罵された時の対処法
第38回:子供を叱るのは難しい!
第39回:トイレへの長き道のり
第40回:私はアメリカの病院が好きだ! ~その1
第41回:私はアメリカの病院が好きだ! ~その2
第42回:私はアメリカの病院が好きだ! ~その3
第43回:私はアメリカの病院が好きだ
! ~その4
第44回:駐車することさえ考えるな!
第45回:しつけとけんかの微妙なちがい

 
第46回:本当のアメリカの個人主義

更新日2002/10/17


今までにも、何度かコラムに書いたことではあるが、私を含めた多くの日本人の持つ、アメリカに対する先入観の中に、「アメリカは個人主義の国である」という命題がある。これは、大雑把に言うと、「アメリカでは個人が尊重されていて、年齢に関係なく自由に発言でき、また個人がしたいことを我慢せずにできる」ということではないだろうか。

しかし、本当にそうだろうか。私の印象では、答えは否である。もし、本当にこのような「個人主義」が徹底しているとすれば、それはかなり殺伐とした社会ではないだろうか。本当の「個人主義」とは、「個人を尊重する」という意味ではないだろうか。そして、その意味においてはアメリカは個人主義の社会であると言える。

一方現在の日本では、「アメリカの個人主義」をただの「傍若無人」とを勘違いしているように思えるのだ。

例えば、アメリカ人の母親が友だちとけんかをした自分の子供を諌める時によく使う言葉は、そして私自身も自分の子供によく言う言葉は、「もし、あなたがしたのと同じことを(あるいは言ったことと同じことを)、お友達にあなたがされたらどんな気持ちがするの?」と言うことだ。小さな子供でさえ、自分の言動に責任を持つことは当たり前だ、ということが、あるいはそれが当たり前のことであるということを大人が教えることが当たり前だ、という認識があるのだ。

ある日、公園でケイトが友だちを突き飛ばしたことがあった。母親のミッシーは、ケイトに「お友達を突き飛ばしてはいけない!」ときつく叱ったら、ケイトは「だって、他の子もするじゃない」と口答えした。そうすると、ミッシーは毅然と「他の子の話をしているのではないわ。今ママはあなたとお話をしているの。あなたはお友達に突き飛ばされたらどんな気持ちがするの?」と言った。そして、ケイトはしぶしぶながらも友だちに謝りに行ったのだ。

また、ある日トーリーが憤然と「ちょっと聞いてくれる?」と切り出した。彼女の長男のジョンが教会の日曜学校で友だちと一緒にふざけて、その日のクラフトに使う予定だった素材を床にまき散らして、先生に友だちと共にこっぴどく叱られたそうだ。その友だちの母親はそれを知らなかったので、電話でこういうことがあったので気をつけた方がいいよ、ということをその母親に言うと、「うちの息子を非難するの!!」と激高されたという。

「彼のしたことは、明らかに他のみんなに迷惑をかけることでしょ。そのために先生もよけいな時間を取られたわけだし。私は電話をしたことを感謝されても良いと思ったのよ。別に彼とかその母親を非難したわけじゃないわ。だって、ジョンも同じことをしたんだから。あの人は自分の息子がみんなに迷惑をかけたというのに、平気なのね!!」と激怒していた。

個人を尊重する、ということは自分ではない他の「個人」も尊重する、ということだ。個人が好き勝手をしても良い、ということでは断じてない。あるいは、他のみんなはどうであれ、自分の行いが恥ずかしくないように言動を慎め、という「個人」主義だ。

私達はそういう意味で本当に個人主義を理解しているだろうか。ひとくくりに、「日本は全体主義。アメリカは個人主義」というが、その中で、個人に求められていることは実は同じことではないか。そう私は思うのだ。

 

→ 第47回:人の目を気にしよう