■ダンス・ウィズ・キッズ~親として育つために私が考えたこと

井上 香
(いのうえ・かおり)


神戸生まれ。大阪のベッドタウン育ち。シンガポール、ニューヨーク、サンフランシスコ郊外シリコンバレーと流れて、湘南の地にやっと落ち着く。人間2女、犬1雄の母。モットーは「充実した楽しい人生をのうのうと生きよう」!


第25回:「罪」から子供を守る

更新日2001/10/08 

私たちのプレイグループでは、集まる場所を3カ月ごとのスケジュールを組んで、毎回違う公園で集まることにしていた。とはいえ、だいたいは4つくらいの公園を回っていた。ときには、ちょっと遠出して車で30分くらいの場所にある動物園のある大きな公園に出かけたり、雨が降ればショッピングモールや屋内にある児童遊戯施設(マクドナルドのプレイランドを大きくしたようなやつだ)にも行った。

ある日のプレイグループは、いつもの近くの公園で集まることになっていた。行ってみると、珍しく中学生から高校生くらいの子どもが20人くらい大騒ぎで走り回って遊んでいた。ほとんどの子どもはヒスパニック系(母国語がスペイン語の人々。カリフォルニアに限っていうと、その多くはメキシコからやってきた人々だ)で、そのなかに少しだけ白人もいた。こうした構成の集団は、その界隈では珍しかったので、その光景は私の目にはちょっと異様にすら見えた。その雰囲気に気圧された小さな子どもたちは、なんとなく母親の周りで遊ぶともなくうろうろしていた。

それから15分くらいでその大きな子供たちは引率らしき大人に連れられて帰っていった。こんなことは初めてだったので、私は「あの子たちは何をしに来ていたのかしらね」と言った。すると他のメンバーはちょっと顔を見合わせるようにした。小学校で非常勤の教師をしているスザンヌが言った。「あの子たちはね、なんというか、ちょっと問題のある子たちなの。多分、なにかの更正施設にいるんでしょうね」 好奇心が湧いたので、薄々はわかっていたけれど聞いてみた。「ちょっと問題って、どんな問題?」

さすがスザンヌは現役の教師らしく、心を痛めている様子で、でも淡々と教えてくれた。「たとえばね、深い考えもなく妊娠してしまったとか、あるいは窃盗とか軽い犯罪を犯した子よ」 ヒスパニックの人々は多くはカトリック信者なので、望まない妊娠をしたとしても堕胎は罪とされている。先ほどの子どもたちのような10代で妊娠したとしても、堕胎という選択はなかなかできない。 それで気がついたのだが、新聞でも10代の子どもが妊娠してしまい、親も知らないうちに出産し、嬰児を捨てたとか、殺したという記事をときどき目にすることがあった。鮮烈に覚えているのは、ある高校生の女の子が、卒業パーティの開かれたディスコのトイレで出産し、嬰児をゴミ箱に捨ててそのままパーティに戻って踊っていたという事件だ。

真偽のほどは定かではないが、親だけでなく友人たちもその女の子の妊娠には気づいておらず、あとからトイレに入った子が大量の血液を発見して事件が発覚したというのである。若いとはいえ、嬰児をゴミ箱に捨てるという精神構造。そして、いくらルースフィットの服が流行りだとはいえ、子どもの妊娠に親が気づかなかったという事実。普通の親子関係が成立していた家庭で、こういうことがはたして起こり得るのだろうかと深く考えさせられた。また、アメリカは州によって法律も異なっており、堕胎を違法とする州もある。年齢にかかわらず望まない妊娠をしてしまった女性が「産まない」という選択肢を法律上選べないということも珍しくはない。だから、こうした嬰児遺棄という悲しい事件も起こるわけだ。

最後にミッシーが言った。「ケイトがティーンエイジャーになったら、ああいう子どもたちがいる施設でボランティアをさせようと思うの。そうすれば、無分別な、早すぎる妊娠がいったいどういう結果をもたらすか、身をもって知ることができるでしょう」ケイトは我が家の環と同じくまだ3才だ。

私はそこまで深く現実的な目であの子どもたちを見ていなかった。妊娠は女性にとってはいつでも大問題だが、すべての女性が、すべての妊娠を望んでいるわけではないのもまた事実だ。自分の娘に対して、妊娠するということはどういうことなのか、自分の身体を守るということはどういうことなのか、また、それをどうやって教えるかを真剣に考えることに、早すぎることはないと思った。

 

→ 第26回:子供に伝える愛の言葉