■ダンス・ウィズ・キッズ~親として育つために私が考えたこと

井上 香
(いのうえ・かおり)


神戸生まれ。大阪のベッドタウン育ち。シンガポール、ニューヨーク、サンフランシスコ郊外シリコンバレーと流れて、湘南の地にやっと落ち着く。人間2女、犬1雄の母。モットーは「充実した楽しい人生をのうのうと生きよう」!


第27回:子供の自立。親の工夫

更新日2001/12/01 


アメリカで暮らす前、私のアメリカ人に対する先入観の1つに、「彼らの国では大人は子どもを自分たちと対等に扱う」というのがあった。映画を観ていても、大人が子どもに語りかけるとき、日本人であれば使わないような言い回しや態度で接するような気がしていたからだ。もちろん、英語と日本語という言語の性格の違いによる部分もあるが、それだけではないような気がしていた。実際にアメリカで生活してみて、その先入観は表面的には正しいかも知れないが、じつはまったくの誤認識だったことがわかった。

たしかに、アメリカ人の大人は、子どもを1人の人間として扱っているけれども、大人と対等に扱っているわけではない。私がアメリカにいたときに定期購読していた「Child」という雑誌の読者相談コーナーに載っていたコメントにこんなのがあった。「子どものよき理解者であれ。けれども、決して『仲間』になってはならない。『仲間』になってしまうと子どもはあなたの言うことは聞かなくなる」。子どもに対して、親として大人としての威厳を必ず保つようにということである。大人と子どもは違うのだ、という一線は明確に引いておかなければ子どもになめられるということでもある。実際に、ある意味ではアメリカ人は一般的に日本人が考えているよりも子どもに厳しい態度で接している。そして、日本人が考えているよりも早い段階で子どもが自立できるように準備している。

子どもは成長過程のかなり早い段階から「好み」を持つようになる。たとえば、我が家の新「Terrible Two」は、先月2才になったばかりだが、些細なことながら「自分のやりたいこと」をはっきりと持っている。たとえば、靴は何があっても自分が大好きな象の模様のついた黄色い長靴だ。よほどのことがない限りそれ以外の靴を履こうとしない。服は車か電車の付いたものが大好きだ。ちなみに、我が家の新「Terrible Two」は女の子である。彼女の好みはとてもはっきりとしている。でも、ときには私の思惑と一致しないためにいらだたしくなるときもある。たとえば、とても可愛いワンピースを着ているときも、彼女の選択は「象の長靴」なのだ。でも、この「自分の好み」とは子どもの自立の始まりなのだ。

前出の「Child」という雑誌によく特集されていたのは「子どもに自分で決めさせよう」というテーマだった。ちょっとしたことでも、子どもに選択肢を与えて自分で選ばせるのだ。方法としては、たとえば今日着る洋服を選ぶときに2種類用意して「どっちがいい?」と聞いてやる。食事のときの飲み物も「お水と牛乳のどっちがいい?」と聞く。これは「どれがいい? 何がいい?」と聞かないところがポイントである。母親がどちらでもよいと思うものなら、子どもがどちらを選ぼうともいらだたしい思いはしなくてよいわけで、子どもにしても「自分で選んだ」という満足感があるらしい。そうやって、自分のことは自分で決めるという習慣をつけてやることによって、子どもの自立を促そうというのだ。

私もためしに、娘にワンピースを着せたときに、黒のエナメルの靴と赤いスニーカーを出して「どっちがいい?」と聞いてみた。すると彼女はミッキーマウスにつられて赤いスニーカーを選んだ。

ま、仕方ないか。子どもは親の思い通りにはなかなかならないものだものね。

 

→ 第28回:ふりかかる危険と自らの責任