第34回: ああ、反抗期!
更新日2002/04/18
ああ、ついにそうなってきたか、とため息が出る。上の娘の反抗期が始まったらしい。幼稚園も卒園式を終えた。周りも、「もう、本当にお姉さんになったねえ」とおだてたのも、それを加速させたのかも知れない。
でも、一番の要因は幼稚園での生活だったのだろう。幼稚園という「社会」を、親と一緒ではない時間を経験することによって、彼女は彼女なりに新たな自我を確立しつつあるのだ。親の知らない娘の一面が、彼女の中で大きく育ってきている、という理論的なことは理解しているつもりだ。
しかし、である。反抗期攻防戦の内実は、日常生活においては些細なことの積み重ねであるだけに、実に大変なのだ。
脱いだ衣服を畳むこと、ゴミはちゃんとゴミ箱に捨てること、脱いだ靴をシューズラックに上げることなど、細々した身の回りのことは自分でするように言う。服を畳むことや、食事の後のお皿を台所に下げることなどは、一度きりのことなので、言う方もする方も「ちゃんとしなさ~い」「は~い」と、ごくスムーズにことは運ぶ。
遅まきながら3月の中旬にインフルエンザにかかった娘は、回復した後も鼻水はなかなか治まらず、始終ハナをかんでいた。その使用済みティッシュを、そこここに置いたままにするのだ。「ティッシュを使ったらゴミ箱に捨ててね~」「は~い」。3回までは何ごとも起こらない。4回、5回を数えてくると、言う方も「ちゃんと捨てなさいって言っているでしょ!」となる。捨てる方も、「わかったよお」となり、さらに「返事は『はい』でしょ」と追い討ちをかけられる。
そして、だ。6回目。台所のカウンターに丸まったティッシュが落ちている。「何度言ったら、わかるの? ちゃんと捨てなさい!」と摘まみ上げて、娘に差し出す。ゴミ箱は私の足下にある。そこで、娘は言った。
「ママが捨ててよ」。
そう来たか!! 私は丸まったティッシュを娘の目の前に差し出して、「もう一度言ってごらん」と言った。娘は内心「しまった」と思ったに違いない。以前ならそこで、さっさと私の手からティッシュを受け取って、ゴミ箱に捨てたに違いない。その代わり、娘はこう言った。「だって、ママの方がゴミ箱に近いじゃない」。
ああ、この後に及んでまだそう言うんだ。
「どうして、あなたの使ったティッシュをママがいちいち片付けないといけないの? 自分のことが自分でできない人はお姉さんとは言えないわね。赤ちゃんと一緒ね」。
「たまちゃんは赤ちゃんじゃない!!」。「じゃあ、自分で捨てなさい」と言うと、恐ろしい形相で私を睨んで、「ママが近いんだから、ママが捨てて!」と言い募る。
最終手段。ほっぺをパシン! とはたいた。途端に泣き出して、私の手からティッシュを受け取ってゴミ箱に捨てた。そして、「ママ、怒らないで」と言って大泣きする。そこで、ひざに座らせて話す。
「ママはすごく難しいことを言っているのかしら?」。「違う」。「自分の出したゴミを自分で捨てなさい、と言うことは間違っていること?」。「間違ってない」。「じゃあ、今度からできるよね?」。「うん」。「じゃあ、ちゃんとして下さい」。「はい。ママ、もう怒ってないの?」。「怒ってないよ」。
私の可愛い環が、あんな顔をして私を睨むなんて、、、と涙したりはしないが、ショックであることには変わりはない。環は私が怒るというのを一番嫌がる。そこは、まだまだ可愛いものだ。しかしティッシュごときで、どうしてここまでのやり取りをしなければならないのか、うんざりする。ティッシュくらい捨ててやることは、いとも簡単なことだ。
しかし、問題はそんな表層的なことではない。世間や友だちの家がどうあろうとも、我が家ではそれは許されないというルールを子供に教えなければならないのだ。
帰国直前に、トーリーが当時5歳のジョンに手を焼いていたのを思い出す。そして、その時彼女が自分を慰めるようにこう言っていた。
「5歳児ごときに負けていたら、この子がティーンエイジャーになった時にどうやって制御すればいいの? だから、今負けるわけにはいかないのよ」。
当分、これを座右の銘にしよう。
→ 第35回:日本のおじさんは子供に優しい??