■ダンス・ウィズ・キッズ~親として育つために私が考えたこと

井上 香
(いのうえ・かおり)


神戸生まれ。大阪のベッドタウン育ち。シンガポール、ニューヨーク、サンフランシスコ郊外シリコンバレーと流れて、湘南の地にやっと落ち着く。人間2女、犬1雄の母。モットーは「充実した楽しい人生をのうのうと生きよう」!


第23回:ニューヨークの惨事について私たちができること
第24回:相手の立場に…

第25回:「罪」から子供を守る

第26回:子供に伝える愛の言葉
第27回:子供の自立。親の工夫

第28回:ふりかかる危険と自らの責任

第29回:子供はいつ大人になるのか? ~その1

第30回:子供はいつ大人になるのか? ~その2

第31回:子供はいつ大人になるのか? ~その3

第32回:Point of No Return
第33回:かみさまは見えない
第34回:ああ、反抗期!

 
第35回: 日本人のおじさんは子供に優しい??

更新日2002/05/02 


ある日、イギリス人の友だちジルが言った。「日本人はほんとに子供に親切よね」彼女には2歳のケイティーという女の子がいる。街にでると、みんながケイティーに親切なのだ、と言う。ケイティーは白人でブロンド、という日本人が「外人」と言った時のイメージにぴったりあてはまる可愛い女の子だ。

アメリカから日本に帰って来て以来、とりたてて日本人が子供に親切だと思ったことは一度もない私だったので、「ええ? ほんと?」と正直に聞き返した。ジルは続けて言う。「イギリスだったら、子供を連れて街を歩いていて、邪魔っけにされることはよくあるけど、可愛いわね、なんて声をかけてもらうなんてことはまずないわね。特におじさんに」私の中では、日本人のおじさんはとてもとても評価が低いので、にわかには信じられなかった。

でも、そこでアメリカにいた時にベルギーから来ていた友だちが「アメリカ人はほんとに子供に親切よね。どんないいレストランに行っても子供用の椅子があるじゃない。ベルギーじゃ信じられないわ」と言っていたのを思い出す。ヨーロッパに暮らしたことがないので、私にはヨーロッパの現実はわからないが、どうやら子供には厳しい社会であるらしい。それとくらべて日本がどうかということはわからない。

でも、日本と比べてアメリカが子供に優しい社会であることは、まず間違いない。大人予備軍、未成熟な大人、という位置付けではなく、社会の中で子供という位置付けがちゃんとある、という印象だ。特に西海岸は東海岸とくらべると人の性向がのんびりしている、というのもまた事実である。

ベイエリアに住んでいた頃、ある街のカフェで子供を持っていない友だちとあったことがあった。ちょっとオシャレな大人向きのカフェで子供を連れていたのは私だけだった。当時環はTerrible Twoまっさかりで、大人しくじっと座っているということなど望むべくもない状態だった。私と友だちがおしゃべりに興じている間に、当然環は飽きて、持っていたウエットティッシュを次々に取り出して私達のテーブル、自分の座っていた椅子、さらには隣の開いているテーブル、椅子ところ構わず拭きはじめた。

「ちょっと、やめなさい」と私が言うのと、店のオーナーが通りかかるのが同時だった。私の言葉を聞いてオーナーの中年のおじさんは「汚れているから拭いてくれるんだよな」と環ににっこりとウインクしてカウンターの向こうへ消えて行った。

そして、すぐに戻って来た。手には小さなマドレーヌを持っている。それを環に差し出して、おじさんはこう言った。「店を綺麗にしてくれたお礼だよ」環はもらっていいものかどうか、私を振り返って見ている。私がうなずいてみせると、恥ずかしがり屋の環には珍しく、ちゃんと聞こえるくらいの声で「Thank you」と言った。おじさんは、にこにこして「You are very welcome!!」とおっきな声で言った。私も「Thank you very much!」とおじさんに言うと、今度は私の方を向いて、やっぱりニコニコしながらこう言った。「いつでも雇ってやるから、その気になったら娘をここによこしなさい!」そして、またウインクをしてカウンターの向こうに戻って行った。

あんな風な素敵な日本人のおじさんに、残念ながらまだあったことはない。それとも、日本のおじさんは外国人には親切なのかしらん。う~む。

 

→ 第36回:子供にわいろを贈る