大阪モノレールの大日駅のホームに立つ。隣の高速道路と同じ高さだけあって見晴らしがいい。西方向には白いアーチ型の鉄橋が見える。伊丹空港行きのモノレールはあの美しい橋を渡るのかと思うと気分が高ぶる。しかし、ひとまず逆方向の列車で起点の門真市駅に向かう。時間が気になるが、できるだけ起点から終点まできっちり乗ってけじめをつけておきたい。半端な区間を残したくない。
白いアーチ橋を渡って門真市行きの列車がやってきた。車体の腰から下はまさしくモノレールで、コンクリートの軌道を抱え込んでいる。しかし腰上は地下鉄の電車によく似ている。車内に入ると床が平らで驚いた。乗りなれた東京モノレールは車輪用の装置が車内に張り出して、床がデコボコだからである。大阪モノレールはそこを上手に処理して……というより、おそらく床全体の位置を高くしているらしい。あらためて大阪モノレールの車両を正面から見ると、なんとなく腰が高い。
門真市駅。左がモノレール。右奥が京阪電鉄。
大日から門真市までの車窓から、建築中の超高層マンションが見えた。この辺りはもともと工業地域で、近年になって急速に宅地化が進んでいる地域ではなかろうか。大都市の郊外で、「まさかこの辺りまでは宅地にならないだろう」という場所が工業地域になった。しかし、人口が増え続け、都市がどんどん膨れ上がり、衛星都市を巻き込んでいく。かつては大阪モノレール本線が北限だったけれど、現在は都市がふくらみ、モノレールをすっかり飲み込んで境界がさらに北に動いた。関東で例えれば新座、浦和、川口、越谷を結ぶ武蔵野線のような立地だろうか。
門真市駅を出て、ペテストリアンデッキから駅舎と駅前の写真を撮り、伊丹空港までの切符を買ってホームに戻る。とんぼ返りである。私にとって門真市は松下電器の企業城下町、という印象がある。会社員時代に一度、門真市の松下電器を訪れた。ビデオCDに関する企画の営業だった。マルチメディアという言葉に誰もが夢と野心を持っていた時代の話だ。時刻は17時ちょうど。懐かしいが感傷に浸る時間はない。45分後には伊丹空港の荷物検査場を通過しなくてはいけない。
淀川を渡るアーチ橋。
大日を通り過ぎ、憧れの白いアーチに近づいた。それは淀川を渡る鉄橋だった。渡った先の駅が南摂津。この辺りからモノレールは高速道路よりも高度を上げて、いちだんと眺望がよくなる。前方には妙味山らしき影が見えるが、空気が濁っているためハッキリしない。それよりも電車好きには嬉しい景色が近づいてきた。東海道新幹線の車両基地である。モノレールは車両基地の南端を進み、新幹線電車群を眺望するように横切っていく。これはなかなか愉快な眺めだ。新幹線の300系車両とN700系車両が5本ずつ。700系車両が1本。最新型のN700系の増備が進んでいる。1ヵ月後のJRダイヤ改正で、N700系が大量に走り始める予定になっている。新幹線の車両基地の隣は貨物駅。こちらは玩具のブロックを散らかしたように、色とりどりのコンテナが随所に積まれている。
南茨木駅は阪急京都線と接続する。大阪モノレールは大阪中心部から放射状に延びた鉄道群をヨコ糸状に結んでいる。東海道本線とは接続駅がないけれど、山田で阪急千里線、千里中央で北大阪急行電鉄、蛍池で阪急宝塚本線と交差する。それぞれの沿線の人々にとって、モノレールのおかげで伊丹空港の便が良くなった。伊丹空港の騒音問題を受けて関西空港が建設され、伊丹空港は廃止する方針だったけれど、いざ伊丹空港を廃止しようとしたところ、今度は廃止反対の声が上がったという。これだけ便利なら手放したくないだろう。伊丹周辺の住宅も建て替えが進み、防音技術を向上させた建物が増えたのではないだろうか。
新幹線の車両基地を眺める。
モノレールは中国自動車道に沿って西へ向かう。吹田ジャンクションの向こうに大きなクレーンが何本も見える。これだけ建物がギッシリと並んでいるのに、さらにその外側に建物を作っているらしい。たいしたものだなあ、と感心していると、クレーンの横にジェットコースターと観覧車が見えてきた。遊園地があるようだ。大阪モノレールの眺めは変化が多くて飽きない。遊園地が近づくと、テレビで何度か見たことのあるモニュメントが現れた。岡本太郎の太陽の塔である。ここは万博記念公園だった。初めて太陽の塔を見た。しかも公園に入場せずに。街中で有名人を見かけたような、なんだかとても得をした気分である。
太陽の塔を車窓右手に眺めて万博記念公園駅に着く。ここからはモノレールの支線『彩都線』が出ている。時間があれば乗りたかったけれど時間がない。もっとも『彩都線』にはさらに延伸する計画もあるので、全通まで待ってもいい。万博記念公園駅を出ると車窓左側に車両基地がある。一度に何でも見ようとするからなかなか忙しい。阪急千里線と接続する山田駅を出て、千里中央駅に着く。以前、北大阪急行電鉄に乗って訪れた街だ。高層マンションと雑居ビルが密集している。ここでお客さんの大半が入れ替わった。千里ニュータウンに帰る人と、千里ニュータウンの企業から帰宅する人だ。何かを急ぐ人々の気配。時計を見る。17時28分である。あと15分で伊丹空港に到着できるだろうか。
太陽の塔が出迎えてくれた。
列車はかなり高いところを走っている。低空飛行をする飛行機並みと言ったら少し大げさだけれど、わざわざこんなに高くすることはないだろうとツッコミを入れたくなるほどの高さになった。高速道路の照明が点灯し、街は黄昏に近づいている。この高さから夜景を見たらきれいだろうと思う。列車は高いところを走りすぎて反省したのか、ぐんぐん高度を下げつつ中国自動車道を超えた。ここで高速道路との併走は終わりだ。蛍池では眼下に阪急宝塚線が見える。ほとんどのお客さんはここで降りてしまった。次が伊丹空港だから、ここから先は空港に用がある人しか乗らないのだ。さて、どんな風に空港が姿を現すだろうか。
実は伊丹空港のアプローチはゲームソフト『ぼくは航空管制官2』の伊丹空港編で予習済みだ。モノレールは空港滑走路に対して南東から近づき、空港ターミナル道路に取り付いた後で右へ曲がり、ターミナルビルに正対する位置にある駅に到着する。運転台の後ろから前方を見ると、今まさにJALの赤い機体が着陸するところだった。モノレールの高度が下がったこと、建物に遮られたことで滑走路は見えない。しかし、ターミナルビルの手前の隙間からANAの整備場と駐機スポットが見えた。時刻は17時40分。終着駅の佇まいを楽しみ、写真を撮ろうと思っていたけれど、それはあきらめなくてはいけない。
標高の高いところを走る。
カメラを鞄に押し込み、扉が開くとターミナルビルへ走った。チケットレスサービスのおかげで出発カウンターにいく必要はない。マイレージクラブカードを荷物検査場に持っていけばチェックインが完了する。荷物検査場には17時43分に着いた。平日夕方のため混雑しており、検査終了が17時50分。幸いにも伊丹-羽田線は優遇されており、荷物検査場に一番近いゲートに目指す機体があった。搭乗客の列が動いており、どうやら"みっともない最後の客"にはならずに済んだ。
同行スタッフを心配させてしまったようで、編集長に「新幹線で帰ったのかと思いましたよ」と言われた。額の汗を拭いつつ、「せっかく御社がくださったチケットですから無駄にはしません」と笑って応えた。
伊丹空港到着直前。
モノレール駅からターミナルを望む。
第240回~の行程図
2008-240koutei.jpg
2008年2月20日の新規乗車線区
JR:00.0Km
私鉄:31.5Km
累計乗車線区(達成率)
JR(JNR):17,314.4Km (76.53%)
私鉄: 4,801.5Km (70.33%)
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