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■店主の分け前~バーマンの心にうつりゆくよしなしごと
 

第442回:流行り歌に寄せて No.242 「X+Y=LOVE」~昭和45年(1970年)8月10日リリース

更新日2022/09/01


以前にも書いたが、私が初めて買ってもらったのはシングル(EP盤・ドーナツ盤)レコードである。
中学3年生の2学期のことだった。父親に、ステレオセットを買ってもらったのはその翌年のことだったので、当時はレコード・プレーヤーで聴いていた。そのプレーヤーは、私の生まれた昭和31年(1956年)に父親が購入した、ビクター製のものだった。
そんなことをなぜ憶えているかというと、プレーヤー脇に、父親がいつも取扱説明書を置いていたからだ。

その取扱説明書の後半は、当時売り出し中のエルビス・プレスリーのレコードの広告ページになっていた。全体に青みがかった印刷で、今でも『ラブ・ミー・テンダー』のジャケット写真は、かすかに記憶している。

プレーヤーの回転数のつまみには、16、33、45、78の四つのチャンネルがあった。33回転(正確には33 1/3)はLP、45回転はEP、78回転はSPの、それぞれのレコードを聴くための回転数である。

16回転、正確には16 2/3回転ということだが、そのタイプのレコードは家には置いてなかった。その後も、一度もお目にかかったことはないが、今度店のお客さんの中でご存知の方がいらっしゃるか、訊ねてみようと思う。

最初から、話が大きく逸れてしまったが、『X+Y=LOVE』に話題を戻す。
今でもジャケットはよく憶えているし、最近ではひとたび端末を開けば、何枚でもその画像を見ることができるので、記憶の確認をするのは実に簡単である。

何色というのだろうか、自分が思いつくのは浅葱色なのだが。その浅葱色のカバーのかかったベッド、後ろに見えるカーテンも同じ系統の色である。そのベッドに置かれたモコモコのショールのような毛布?(犬のようにも見える)の上に、ベージュ色の受話器を左手で軽く持ったちあきが顔だけ覗かして、どこか楽しげに右上に視線を向けている。

その指を見ると、意外にも短く切り揃えられていて、マニキュアも施していない。そして下方に、白い文字で「ちあきなおみ」、その下にその5倍ほど大きなオレンジ色の文字で「X+Y=LOVE」と書かれている。そんなジャケットである。


「X+Y=LOVE」  白鳥朝詠:作詞  鈴木淳:作曲  森岡賢一郎:編曲  ちあきなおみ:歌
 

X それはあなた Y それは私

プラス イコール ラブ

ラブ ラブ アイラブユー

愛しあっていれば 二人はいつもプラス

お別れなんていやよ マイナスはいらないわ

XプラスY XプラスY

イコール ラブ イコール ラブ

ラブ ラブ アイラブユー

 

X それはあなた Y それは私

プラス イコール ラブ

ラブ ラブ アイラブユー

信じあっていれば 二人はいつもプラス

嘘をついたらいやよ さみしくて 泣いちゃうわ

XプラスY XプラスY

イコール ラブ イコール ラブ

ラブ ラブ アイラブユー

 

恋の夢があれば 二人はいつもプラス

キッスを忘れちゃいやよ いつまでも甘えたい

XプラスY XプラスY

イコール ラブ イコール ラブ

ラブ ラブ アイラブユー

 

作詞、作曲は、その前のシングル『四つのお願い』と同じ、白鳥朝詠、鈴木淳コンビである。(編曲は、小谷充から森岡賢一郎に変わっている)

シングル『四つのお願い』の発売後、彼女が最初に出したアルバムが『四つのお願い あなたに呼びかける ちあきなおみ』。『X+Y=LOVE』は、そのLPに収録された曲の中からのシングル・カットだった。

このLP、A面には彼女がそれまで出した3枚のシングルのA、B面の全6曲が収録されており、B面6曲は新曲という構成になっている。

そのB面の1曲目が『X+Y=LOVE』であり、6曲目が『想い出なんかほしくない』で、これはシングルカットした『X+Y=LOVE』のB面曲である。(ややこしい書き方で、申し訳ございません)

どうして、この曲が“マイ・ファースト・シングルレコード”だったのだろうか。
前にも書いたが、当時私はちあきなおみの二の腕にある疱瘡の後が、とても艶かしく思え、それを見るたびにドキドキしていた。そういう思春期の性的な憧れの部分は、確かにあったのだと思う。けれども、それだけではなく、今思い返してみると、この曲の全体の雰囲気が本当に好きだったのである。

テレビやラジオで聴くだけでは物足りず、テープレコーダーに録音しても雑音が入り、音質が悪くなることに満足できず、ただ何度も繰り返し聴きたくて、親に頼み込んで購入してもらったのだ。当時、一枚400円也。

確かに、文字通り盤面が擦り減るほど聴いた。家族からは「中途半端な方程式みたいな、おかしな歌ね」と揶揄されながらも、聴き続けた。

それだけ聴いたと豪語している割に、私は長い間、大きな勘違いをしていたことに、最近になって気が付いた。このEP盤のB面曲は、先ほど書いたように『想い出なんかほしくない』(悠木圭子:作詞 鈴木淳:作曲 小谷充:編曲)という曲である。

ところが、私は、つい最近まで『別れたあとで』( 白鳥朝詠:作詞 鈴木淳:作曲 森岡賢一郎:編曲)だと思い込んでいたのだ。この曲は、実はちあきの次のシングルのA面の曲。どうしたことか。

今、つらつらと思い出してみるに、当時、毎週日曜日の午前中に聴いていたラジオ番組、ロイ・ジェームス司会の『不二家歌謡ベストテン』(ネット局はニッポン放送、私が聴いていたのは東海ラジオ放送)で何回か流れていた『別れたあとで』を、誤って自分の買ったレコードの収録曲と思い込んでいたようだ。

その約2年後の彼女の大ヒット曲『喝采』を初めて聴いたのも、この『不二家歌謡ベストテン』だった。こちらの記憶は、間違いない。弁舌爽やかなロイ・ジェームスによるこのラジオ番組、みなさん憶えていらっしゃるだろうか。

 


第443回:流行り歌に寄せて No.243 「今日でお別れ」~昭和42年(1967年)リリース  昭和44年(1969年)12月25日再リリース


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金井 和宏
(かない・かずひろ)
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1956年、長野県生まれ。74年愛知県の高校卒業後、上京。
99年4月のスコットランド旅行がきっかけとなり、同 年11月から、自由が丘でスコッチ・モルト・ウイスキーが中心の店「BAR Lismore
」を営んでいる。
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