第76回:来年はワールド・カップ、そのために… 更新日2006/06/08
私が愛するラグビーの方ではない、もうひとつのフットボール、即ちサッカーの方は、まもなくワールド・カップが開幕するということで、ファンにとっては待望の瞬間を迎えるのだろう。ただ、やはり4年前の日韓共同開催の時に比べれば、その反応はずいぶん静かではないかと思う。
とにかく、2002年5月、6月の熱狂ぶりは凄まじかった。日本戦はもとより、ブラジル、イタリアなどの人気のあるチームの試合の時は、店にほとんどお客さんが来てくださらない。もう片側のフットボール・ファンとしてエールを送らなくてはならないところだが、正直日本が決勝トーナメントに進んだときは、商売的に困ってしまったものだ。
反対に、テレビを流している店はずいぶんと繁盛したようだ。私のところも、その翌年の2003年のラグビー・ワールド・カップでは満を持してテレビを置いたが、繁盛するというわけにはいかなかった。
さて、そういうわけで来年は第6回ワールド・カップの年になる。9月から10月にかけてフランスで行なわれる。会場は1998年のサッカー・ワールド・カップの決勝戦で有名になったスタッド・ド・フランスをはじめ、同サッカーW杯で使用されたものとほぼ同じ場所になる。(個人的には、フランスの競技場と言えば、パルク・デ・プランスにかなりの思い入れがあるが)日本は今秋のアジア最終予選で、よほどのことがない限り1位となり、大会出場の切符を得ることになるだろう。
本大会の組合せもほぼ決まっていて(日本がアジア予選を1位で通過すると仮定しての話だが)、一次予選リーグは、予選B組にグループ入りし、オーストラリア、ウエールズ、フィジー、アメリカ地区2位チーム(まだ決定していないが、アメリカ合衆国かカナダ)と戦うことになる。
オーストラリア、ウエールズに対してはまったく勝ち目がないと、残念ながら断言できる。フィジー、米国ないしカナダも、間違いなく日本よりは格が上のチーム、かなり厳しい結果が予想される。しかも、アジア代表を軽んじている国際ラグビー機構(International
Rugby Board;以下、IRB)は、前回のオーストラリア大会に続き、信じられないような日程を組んできた。
9月8日のオーストラリア戦の後、わずか中3日で9月12日フィジー戦。その後は8日ほど間隔があるが、また9月20日のウエールズ戦の後、中4日で米国ないしカナダ戦を戦わなければならない。
前回のW杯も同じような日程で、少なくとも中6日以上は確保されていた強豪国とは大きすぎる違いがあった。どうして日本のラグビー協会がIRBに大真面目に抗議しないのか理解できない。国際的なスポーツの世界は強国の論理による不条理なもの、それも克服して勝利しないことには、結局は何も言えないということなのだろうか。
ところで、今までワールド・カップに向けての国際試合が少なく、経験値の違いから後れをとってきた日本にとって、今年から始まったパシフィック・ファイブ・ネーションズは、貴重な試合を体験できる実にありがたい大会になった。
伝統あるヨーロッパのシックス・ネーションズ(イングランド、スコットランド、アイルランド、ウエールズ、フランス、イタリアの6ヵ国対抗戦)、実質は世界一決定戦と言われる南半球のトライ・ネーションズ(ニュージーランド、オーストラリア、南アフリカの3ヵ国対抗戦)。この二大対抗戦の他にラグビーを広める世界戦略の一環として、IRBが日本円で換算して約55億円を投じて始めたものだ(先ほどはIRBに苦言を呈したけれど、今回の企画は大変に評価できる)。
サモア、フィジー、トンガの国代表チームに、ニュージーランドからはジュニア・オール・ブラックスが加わり、そして日本との「5ヵ国対抗戦」(ジュニア・オール・ブラックスとはニュージーランド代表オール・ブラックス、そして同国マオリ代表以外から選ばれるが、かつての国代表選手も多く、優勝が本命視されている)。
世界ランキングでは、先のシックス・ネーションズ、トライ・ネーションズの国々の次に位置する、いわゆる10位以下の国々が凌ぎを削ることになる。日本にとっては絶対に勝てないという国ではない(ジュニア・オール・ブラックスには無理かも知れないが)、研鑽を重ね、戦略を徹底して練ることによって勝利の可能性のある戦いなのだ。
すでに6月4日から試合が始まっていて、日本は北九州にトンガを迎え、初戦を戦ったが、16-57で大敗した。エリサルド日本代表ヘッドコーチ以下選手たちも、今の日本の実力を改めて知らされたことだろう。
しかし、6月11日のイタリア戦を含め、5週連続のテスト・マッチ(国代表同士の試合)が組まれている。5週連続というのは、今まで一度も経験のないものだ。かなりのタフな試合になることは間違いないが、日程的に言えば、移動の大変さを考えたにしても、それでも来年のワールド・カップよりは楽だと言える。選手には、代表になった矜持を持って思う存分戦ってもらいたい。
5試合が終わった後、逞しいチームになったという声が聞かれることを、心から期待している。ラグビーはスマートなボール・ゲームではあり得ない。個人として、そしてチームとしての激しい格闘技であるから楽しくもあり、私のような非力な人間があこがれるのだ。一人ひとりが、けっして痛さ、しんどさを厭わない試合を行なって欲しい。
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