第675回:生活スタイルと寿命の関係
ヨットで水上生活をしていた時、気持ちの良い潮風が、あらゆるものに破壊的な威力を発揮することを知りました。少しでも鉄分のある金属は、陸(おか)では錆びないはずのステンレスもアルミ合金もブロンズも電食(腐食)を起こしたり、緑青の速度を速めたりで、形あるものはすべて壊れる、すべてのモノに寿命があることを学ばされます。
それに、強烈な太陽光線がファイバーグラス、木部などを侵食していくのです。人間の作り出したものですから、いつかは壊れる、消滅するのは理屈としては解ります。それにしても、海の上では風化の速度が恒常でなく、「アレッ? もう真っ赤に錆びが出てきたの…」と、呆れるほどです。
“丈夫で長持ち”の基準は、私たちの生命スパンを基準にしているのでしょう。義理のお母さんがお嫁に来た時に持ってきたお鍋は頑丈一点張りで、いまだに義理のお姉さんが使っています。それにしても、寿命があり、いつか壊れるのでしょうね。
平均寿命とか世界で一番長生きしている人の話題になると、いつも沖縄が登場します。最近、栄養科学、長寿学というのかしら、そんな研究をしている人が増え、何でも沖縄特産のニガウリ、ゴーヤが長寿の秘訣だ!と言い出しています。食べ物だけで寿命が決まるなら、そんな簡単な解決策はありません。寿命は食物を含めた生活全体と、持って生まれた体質が大きく左右するのは分かり切ったことです。
長生き最長記録と言われていたフランスのジャンヌ・カルメン(Jeanne Calment)さんは122歳で亡くなりましたが、タバコを止めたのは117歳の時で、死ぬまで一杯のワインを夕食時にたしなんでいたといいます。でも、彼女の年齢はどうもウソ臭いと、科学者たちが言い始めていますが…。
16から17世紀までの平均寿命は40~50歳くらいでした。いま世界に名だたる長寿国、日本にしてから“人生50年”と言われていしまたから、ウチのダンナさんのように超高齢者で、まるでくたばる気配など微塵も見せていないのは、まさに隔絶の時代です。世界の平均寿命でも70歳を越すようにさえなってきました。でも、アフリカの混沌とした国々では40歳ほどの平均寿命なのです。
極端な例ですが、モナコ王国では平均寿命は90歳に迫っています。これはお金の力だとはっきり言い切れます。かの国では移民を厳しく制限し、市民権を得ることができるのは、天文学的な大金持ちだけです。多くの外人季節労務者はモナコ国民として数えていないからです。
旧約聖書に登場するアダムは960歳まで生きたとあります。最長不倒は969歳で死んだメトセラ(Methuselah)でしょうか。聖書に書かれていることは、一言一句正しい、間違いなんてあるはずがない、ウソやホラなどが混じり、入り込む隙などない、という聖書学者でも、この数字には首をかしげています。
そこで、これも聖書臭プンプンとする17世紀の何でも来い科学者、ロバート・フック(Robert Hook)は、人類が始まった当時、神がアダムそして連れ合いのイヴを地上に遣わした時、地球は今の数倍の速さで回っていた、それが摩擦で次第に回転スピードが落ちてきて、現在のように365日で太陽の周りを一回りするようになった…と言うのです。そんなこと、その当時でも、誰も本人も含めて信じなかったでしょうけど…。
近年、盛んになっている長寿学?によれば、100歳を超えた人の98%は、何かしらの形でボケるのだそうです。そうなるとアダムさん、最長不倒のメトセラさん、800年以上もボケ老人として生きた…ということなのでしょうか。人生、長ければそれで良いというものではなさそうです。
不老不死の秘密を求め、太古の昔から人間は様々にあがいてきました。生命の秘密を明かそうとしてきました。日本の言い伝えのように、鶴千年、亀万年にあやかろうとしてきました。一般に動きのゆったりした動物(人間も含めてかもしれません)が長生きし、チョコマカ動き回るタイプは早く死ぬというルールが当てはまるように見えます。
どんなことがあっても、決して焦ったり、走ったりしないガラパゴスのゾウガメは、170年は生きるそうですし、グリーンランド鯨(ボウヘッド鯨、北極鯨)は、200年以上生きると言いますから、動物の寿命はそのくらいが限度かなと見ることもできます。
我々、人間族としては、長生きしたいなら、ストレスなしにゆったりとスローに動き、生きるのだけがコツといえばコツのようです。フランスの超お婆さんのように、タバコを吸い、ワインを飲み、食べたいものを食べ(これは私の想像ですが…)、もし本当に122歳まで生きたなら、それ以上何も望むことなどないのではないでしょうか。ボケて周りに盛大に迷惑をかけ、面倒を看て貰わなければならなくても、長生きをしたいという人はいないはずです。
全く月並みで結論にもなっていない感慨ですが、今、現時点での日々の暮らしを充足させ、夜、布団に入る時、“アア、今日も良い一日だった…”と安眠につけるような生き方が、結果として、我々の寿命につながるように思います。
こんなことを書くようになったのは、私も老境に入った証拠なんでしょうね。
-…つづく
第676回:地下鉄道(Underground Railroad)と不法密入国
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