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■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から

第670回:何でも世界一を目指す日本人

更新日2020/08/13


日本の外に出て、世界的スケールで活躍する日本人が珍しくない時代になりました。一昔前なら、ノーベル賞を受賞した科学者と世界のクロサワ、それにヨーコ・オノだけだったのが夢のような時代になりました。

世界中で行われている競技会、ヴァオリン、ピアノなどのクラッシク音楽、バレーはもちろんのこと、ありとあらゆるコンテストで、日本人が出場していない競技、しかも常に上位を占めるのですが…はないと極言してもいいくらいです。

正統的?なコンクール、“バーン・クライバーン・ピアノコンペティション”で盲目の辻井伸行さんが優勝し、世界的な注目を集めましたし、“チャイコフスキー・コンペティション”のヴァオリン部門では前代未聞の審査員全員一致で諏訪内晶子さんが優勝し、日本人が参加し、上位を占めないコンクールはない…と言われるほどです。

クラシックギター、フラメンコギター、そしてバレー、フラメンコダンサーなどなど、ありとあらゆる分野で日本人が入賞、優勝しているのは呆れるほどです。

世界選手権と銘打ったお遊び、冗談の競技会、“エアーギター世界選手権”(実際にギターを弾くのではなく、弾く真似のパフォーマンスをする)はフィンランドの田舎町オウル(Oulu)で開かれます。優勝者は歴代日本人オンパレードで、金剛武志さん、大地洋輔さん、2014年からは女性の名倉七海さんがチャンピオンになっています。このドキュメンタリー映画『Air Guitar World Championship』は笑えて、楽しめます。

ロンドンで開かれたディスクジョッキー競技会でも、日本人の松永さんが優勝しています。スポーツでオリンピック競技に入っていない、ロッククライミング、ボルダリングの分野で装備を使わず登るフリークライムでも、日本人の活躍は目覚ましいものがあります。

私のような外人の目から見ると、やはり国民性と呼んでいいのでしょうか、日本人には趣味的なこと、習い事で、何でも一生懸命物事に向かう姿勢があるように見えます。その結果、ミシュランの星を貰ったレストランは日本が世界一だと聞いても、さもありなんと当然のことのように思えてきます。 

別に他の国と競争しているわけではないのでしょうが、平均寿命の長さでも長年世界一を誇っています。これは健康オタクがたくさんいるからと言うより、医療システムが充実しているからでしょうけど…。それにしても、その影には日本人が持つ凝り性で、かつエネルギッシュな性格があるように思えます。

スーパーコンピューター世界一も富士通と理化学研究所が作った”富岳“です。素人目には何百万分の一秒早かろうが、遅かろうがどちらでもいいようなものですが、そこは蛇の道で、より早く、正確にを追求しているのでしょうね。

事故死が出ているので、おまけに最近の健康志向に反するので、早食い競争は次第に影を潜めていますが、アメリカの田舎の収穫祭ではスイカの種をプイと口から飛ばす競技と(こちらの方は世界選手権はありません)ホットドッグの早食い競争はどこでも行われています。

アメリカ建国記念日のホットドッグ早食い競争は大イベントで、全米選手権と呼んでいいほどのスケールです。これに日本女性、須藤美貴さんが優勝してしまったのです。須藤さん10分間の制限時間に45本半を平らげての見事な優勝でした。見ると須藤さん、アメリカ人の大デブの間では小さく、やせっぽちに見える体格なのです。

あと、日本人が優勝していないのは“奥様、運び競争”ぐらいではないかしら。これは、奥さんを担ぎ、または抱き、泥川を渡り、平地を運ぶ徒競走です。運ばれるのは必ずしも正規に結婚している妻でなくても、恋人、愛人でも良いのです。体重の軽い日本人女性を運ぶなら、すぐにも優勝者が出そうな気配ですが、競技委員会では体重制限を設け、確か145ポンド以下で(はっきりと制限体重を覚えていません、もし参加するつもりなら、委員会に尋ねてください)、競馬のハンディキャップのように“オモリ”を付けなければなりません。

こちらの方、モヤシ型の日本男児、疲れ果てたサラリーマンの多い日本組の優勝は、当分見込めないでしょうね。でも、もし逆に奥さんの方が旦那さんを運ぶ競技があれば、これは絶対確実に日本人組が上位を独占すること間違いなしです。日本に行くたびに圧倒されるのはオバサンパワーです。何事に対しても好奇心旺盛、暇と体力を持て余しているかのように見える奥様たちなら、痩せて疲れ果てた旦那さんを軽々と背負い力走できる…と思えてきます。

私は日本で散々聞かされた“我々日本人は……特殊、特別だ”という意見、見解にウンザリさせられ、また全く同調していませんが、やはり身近なことでも一生懸命、打ち込んでやり遂げる傾向が、日本人にはあるように思えます。

私の父親、叔父、叔母、定年退職した従兄弟たちや友達、皆これといって何かに打ち込んでいる様子はありません。一方、趣味に走り回り、打ち込んでいる日本の退職組と比べ、その差は唖然とするほどです。

オバタリアン・パワーなどと言わずに、おそらくそれを文化程度の差と呼ぶのでしょうね。

-…つづく

 

 

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Grace Joy
(グレース・ジョイ)
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中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

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