のらり 大好評連載中   
 
■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から

第674回:トラック輸送とコンテナ盗難事件

更新日2020/09/10


私の従姉妹二人が相次いで癌で亡くなりました。その上の方の従姉妹の息子も、母親の後を追うようにして心臓病で亡くなり、彼女のダンナさん、カークは一年を経ずして、奥さんと息子を失ってしまったのです。それからのカークは、傍で観るのも辛いくらい落ち込んでいました。ともかく、体を動かし、何かやっていた方が良いというので、従兄ジェリーがマウンテンバイクに誘い、あちらこちらにマウンテンバイクの遠出をし、私たちのところにも二度来ました。

ここは隣のユタ州と並び、マウンテンバイクのメッカとも言われています。カークは友達がやっている飛行場からのリムジンサービスのピンチヒッター的運転手をやったり、ともかく何もすることがなく、家でテレビを観たり、無為に過ごす時間を作らないようにしているようでした。

元々車の運転が好きだったのでしょう、カークは65歳を過ぎてから長距離トレーラートラックの運転手になったのです。相当な財産もあるし、年金も入ってくるので、何も危険なトラックの運転手にならなくてもよさそうなものですが、カーク自身、仕事というのか、ハイウェイを長時間運転するのを楽しんでいるようなのです。

アメリカの貨物輸送は、大々的にトラックに頼っています。ですから、運転手の仕事はいつでもあるのです。単にトラックの運転手と言っても、トレーラーで54フィート(16.5m)もの貨車を牽引するのですから、特別な運転技術が要求されます。これは超大型専門ドライビング教習所に行かなければなりません。

大手のトラック輸送会社は独自の訓練所を設け、さらに厳しいトレーニングを施しています。カークは前より余程元気になり、ミネソタやテキサスから電話してきて、トレーラーのキャビン(長距離トラックには運転席の後ろにかなり本格的なベッドを備えた部屋があります)に積み込んでいでいるマウンテンバイクで、行く先々で3、4時間のサイクリングを楽しんでいるようすを明るく報告してくるようになりました。

私たちが実家のあるカンサスシティーに帰る時や、弟、妹が住む西海岸に行く時、アメリカ大陸を東西に横断しているインターステイト70号とか北寄りの80号、そして斜めに走っている84号などのハイウェイを利用します。州によってスピード制限は異なりますが、およそ85マイル(140km/h)です。東の州では、大型牽引トラックに乗用車より10マイルほど低いスピード制限を設けていますが、いずれにしろ、あんなに重く、大きいトレーラーを引っ張っているトラックが物凄いスピードでぶっ飛ばしているのです。しかも、2両連結や3両連結のトラックもあり、あんなものをブレーキを掛けて、真っ直ぐに停車させるのは至難のワザでしょう。冬場の山越えでは、トレーラーがよくジャックナイフ(直角に折れて、動きが取れなくなり、ハイウェイを塞ぐ事態)がしばしば起こります。

私もダンナさんも、どちらかといえば年寄り運転で、制限速度で清く正しく走るタイプです。妹のダンナさんは元シェリフで、駆け出しの時は交通警官もやらされていました。彼はハイウェイで7マイルオーバーなら、追いかけて捕まえることにしていたと言っていました。

見晴らしの良いハイウェイで長距離ドライブする時、まず普通のドライバーは制限速度5~10マイルオーバーで走らせます。恐ろしい超大型でシックスティーン・ウイーラー(車が16個付いている)でも、ガンガン私たちを追い抜いて行きます。彼ら超大型トレーラー・トラックの運転手たちは、それで生活しているプロですから、おまけに運転台がえらく高いので、下の方をチョロチョロ、ノタノタ小さな車(彼らから見れば、どんな乗用車でも小さく見下す立場にあるのですが…)を爺さん、婆さん(これ、私たちのことです)が運転している車が、余程邪魔な存在であろうことは想像がつきますが、道路は皆で共有するものなのです、とここまで書いてきて、「のらり」をトラッカーが読むわけでなし、意味がない…ですね…。

ハイウェイ沿いに特別超大型牽引トラックでも乗り入れることができるガソリンスタンドやレストラン、そして、休憩パーキング場があります。アメリカではトラッカーが行くレストランはボリュームがあって味もサービスもそこそこだという定評があります。なんせ彼らは週に何度も利用するのですから、不味く、量の少ないところには二度と行きません。もっとも、ミシュランの星を獲得しているようなドライブインやレストランは存在しませんが…。

このところ、そんな大型トラックやトレーラーが盗まれる事件が相次いでいます。最初、そんな貨物スイートコーンの缶詰4万個や15トンものリングりー(Wrigley)チュウインガムを盗んでどうするのだろう…と思っていたところ、チャンと売り先のルートがあり、激安で何でも売り飛ばすことができるのだそうです。何よりも、トレーラごと盗むのはいとも簡単なことで、トレーラー・コンテナ置き場で運転手がトレーラーを切り離し、家に帰るとか、どこかに出かけ一晩置き去りにされているのを、自分で持ち込んだトラックに繋ぎ、ブレーキやテールランプのケーブルを繋ぐだけなので、持ち去るのに1分間もかからないと言うのです。自転車の鍵を外して盗むよりも簡単だと言われています。 

近年狙われているのは、ナッツ類、アーモンド、カシュー、ビスタシオなどを満載したトラックで、スイートコーンの缶詰は一台4万個でも7,500ドルから14万5,000ドル程度にしかサバケないのが、ナッツ類は300万ドルにもなると、SCAR(Southwest Commercial Auto Recovery)の報告にあります。タバコ、お酒、衣料品、靴、何でも来いとばかり、被害に遭っています。積荷を抜かれ、空になったコンテナ・トレーラーは乗り捨てられ、大半が回収されるとあります。 
2019年のデータですが、2,600台のコンテナ・トレーラーが盗難に遭っています。中には泥棒さんにとってビンゴと叫びたくなるような積荷、携帯電話のiPhone 2万5,000台も報告されています。手口は大型コンテナの置き場に切り離されているコンテナに、泥棒自前の牽引トラックを乗りつけ、繋ぎ持ち去るという児戯に等しいやり方です。

問題は玉手箱のように開けてビックリ、中から何が出てくるか分からないことです。元締めの親分のところに持ち込めば、建築資材、電線からトイレットペーパーまで、何でも売り捌いてくれますが、持ち込んだ貨物によって価格に絶大な差が出てきます。

そこで、ハイテックの情報網を生かして、値の張る積荷をどこで、どんなコンテナトラックに積み走らせているか、確かな情報を流すことをシゴトにする者が現れ、その情報をトラック泥棒協会?がお金を払って得ているのだそうです。

こうなると、狙われたトラックは手も足も出ません。なんせ、西部開拓時代の郵便馬車強盗、列車強盗の伝統があるアメリカですから、泥棒さん、自前の牽引トラックなど使わずに、ピストルを突き付け、トラックジャックをするようになってきたのです。

トラックジャック、積荷の荷抜きなど、あまり社会的な問題にならないのは、運送会社が積荷に保険を掛けている上、牽引トラックにも自動車保険を掛けているからです。たまらないのは保険会社ですが…。

カークによれば、トラックジャックに遭ったら、抵抗せずに素直に丸ごと渡せ、というのが運送会社の方針だと言っています。荷を抜かれ空になったコンテナと牽引車は、まず回収されるし、積荷は保険会社が保障してくれる、だから怪我だけはするなとう言うのです。

飛行機のハイジャックと違い、誰も死なない、傷つかない、その州の警察が万が一、すぐに手配したとしても、その時にはトラックジャッカーはすでに二つか三つくらい州を隔てたところに行っていて、捕まえられないそうです。FBIも忙しすぎるのか、本腰を入れているようには見えません。

こんなトラックジャックのことを調べているのを横で見ていたダンナさん、「西部劇の列車強盗に比べ、なんだか迫力もないし、絵にならないなぁ~」とか呟いていますが、そんな問題じゃないと思うのですが…。

-…つづく

 

 

第675回:生活スタイルと寿命の関係

このコラムの感想を書く

 


Grace Joy
(グレース・ジョイ)
著者にメールを送る

中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

■連載完了コラム■
■グレートプレーンズのそよ風■
~アメリカ中西部今昔物語
[全28回]


バックナンバー

第1回~第50回まで
第51回~第100回まで
第100回~第150回まで
第151回~第200回まで
第201回~第250回まで
第251回~第300回まで
第301回~第350回まで
第351回~第400回まで
第401回~第450回まで
第451回~第500回まで

第501回~第550回まで
第551回~第600回まで
第601回~第650回まで


第651回:国際的広がりをみせてきた映画界
第652回:笑う家には福がくる
第653回:スキーの悲劇~エリーズさんの死
第654回:アウトドア・スポーツの安全と責任
第655回:野生との戦い~アメリカのイノシシなど
第656回:偏見と暴力、アメリカのコロナ事情
第657回:飛行機の座席について思うこと
第658回:エルサルバドルの悲劇
第659回:予防注射は人体に害を及ぼすか?
第660回:もう止められない? 抗生物質の怪
第661回:地球は平らである……
第662回:新型コロナウイルスで異変が…
第663回:ついに山火事発生! そして緊急避難…要持ち出しリストは?
第664回:黒人奴隷聖書の話
第665回:空の青さとコロナ効果
第666回:映画『パラサイト』と寄生虫の話
第667回:コロラド川~帰らざる川
第668回:田舎暮らしとファッションセンス
第669回:“Black Lives Matter”(黒人の命も大切だ)運動
第670回:何でも世界一を目指す日本人
第671回:パイオニアたちの夢の大地、グレイド・パークのこと
第672回:大きいことは良いことなのか?
第673回:バギー族と今年の夏山散歩報告

■更新予定日:毎週木曜日