第666回:映画『パラサイト』と寄生虫の話
若かりし頃、今では信じられませんが、私にも20代の時があったのです。大阪郊外の吹田市に住んでいたことがあります。梅田の英語学校でアルバイトの仕事をしていたのです。私の人生であんなにモテたことはありません。私も若かったし、腰まで届くような金髪でしたから、生徒さんの中でゲテモノの好きな男性が盛んにデートを申し込んでくるのです。2回くらいデートというか、数人で喫茶店、スナックなどに行っただけで、プロポーズしてくるのには、全く驚かされました。
今考えると、私は人間ではなくパンダだった、珍しい動物として分類されていたんだ、とよく分かります。集団デートの時、私に結婚を申し込んだ彼氏、電話に立ち上がり(当時は携帯などありませんでした)、親に電話してくる、遅くなるから先に夕飯を食べていてくれ、と伝えてくると言うのです。呆れたことに、20代後半になっても、まだ親と一緒に住んでいるのもショックでしたし、いちいち家に報告するのにも驚きました。
イギリスでは、大学生が街に出て部屋を借りる時、親が付いてくるような若者、学生には部屋を貸さない…と聞いたことがあります。私もアイオア州、ミシガン州、カンサス州の大学を転々とし、いま数えてみると十数回アパートや部屋を借りましたが、そんな時、親が出てくることなど全く想像外のことです。
日本の大学受験でも、親がくっついてくるような受験生は、頭からスッパリと落とすべきだと思います。「〇〇チャーン、がんばって~ 気楽にいつもの通りにやるのよ~」と、母親が息子、娘に付き添うのは異常な現象だと知るべきです。ハタで見るのも気持ちが悪いとはこのことです。
それが当時、結婚するまで、多くは結婚してからも、親の家に一緒に住むことが多いのを知り、一体全体、自己の覚醒、独立なんて日本では有り得ないことなのか…、日本人の男とは絶対に結婚できない、しないと思ったものです。ところが、日本を出てスペインで無国籍風の元日本人らしき風来坊と出会い、もう40年近く一緒に暮らしているのですから、人生、どこでどう転ぶか全く分からないものです。
私には甥っ子が三人います。 三人とも30歳前後です。彼らは揃いも揃ってまだ両親と一緒に暮らしているのです。なんだか、アメリカが50年前の大阪に戻ったようなのです。日本ではフリーターと言うのでしょうか、三人とも定職に就かず、アルバイト的な小遣い稼ぎをしていますが、おそらく家には一銭も入れていないでしょう。それを許している親も親(私の弟、妹ですが)だと…、子供のいない私たちだから勝手なことが言えるのかもしれませんが…。結果、甥っ子の一人は立派なアル中になり、もう一人はガールフレンドを妊娠させてしまいました。
韓国映画『パラサイト』がアメリカの2020年(第92回)アカデミー作品賞(オスカー)をとりました。全く英語以外の言語で、しかも外国、韓国で製作された映画なのに外国語映画賞ではなく、史上初めてメインの作品賞受賞ですから、普段、ハリウッド映画、アカデミー賞などに全く興味を示さないダンナさんまで、「おい。いっちょう観るか…」と、DVDを借りてきたのです。
『パラサイト』(Parasite;寄生虫)は実に傑作な映画です。是非ご覧ください。
こちらは親に寄生するのではなく、大金持ちの家庭にうまく入り込んで寄生する貧乏家族の話です。
さて、その“寄生虫”です。ウチのダンナさん、言うことなすことすべて前世紀の遺物的なのですが、寄生虫の検査のための“検便”というのがあり、子供の頃、全校生徒全員がマッチ箱にウンコを入れて、学校に持っていき、回虫、サナダムシなど、腸に誰か他所者が住み込んでいないかチェックした…と言うのです。
いつものことですが、「それ一体何百年前の話?」と驚かされていますが、学校がそのように検便なるものを行ったと聞いて、ド肝を抜かれるほどびっくり仰天でした。それだけ徹底すれば、寄生虫の居場所もなくなるでしょうし、日本が長寿国として世界に冠しているのも分かるような気がしてきます。
「アレッ? アメリカで検便やらないの?」と、ダンナさんの方が逆に呆れていますが、アメリカで全生徒がウンコを学校に持っていき、学校から保健所へと回し、何千、何万のウンコを検査するなんて想像もできません。第一、学校や職場での集団検診という概念が欠けているのです。健康は個人個人の身体のことだから、自分で守れという発想なんでしょうね。
もちろん、私は検便なるものをしたことはありませんし、周りでもそんな人はいません。聞いたこともありません。でも、今回のコロナウイルスのように強い感染力を持つ病気に対処するには、集団検診しかないと思うのですが…。またまた、話題がコロナに移ってしまいました。話は寄生虫でしたね。
一体、寄生虫が人から人へと感染するものなのでしょうか。今でも日本の学校では、検便をやっているのかしら?
シャーガス(Chagas)病というのがあります。元々シャーガスはタンザニアの北の方の民族の名前でしたが、どういうわけか、寄生虫病の名前として固定してしまいました。テキサスのA&M大学の獣医学部がアニマルシェルター(捨て犬、猫保護するところ)で調べたところ、7%の犬がこのシャーガス寄生虫を持っていたと報告しています。このシャーガス寄生虫は人に棲み付かないとされていましたが、心臓病の引き金になり、突然理由なく心不全で死んだ人の20~30%、約1万人はこのシャーガス寄生虫が心臓にいたことが判りました。
CDC(The Centers for Disease Control and Prevention;政府の感染病予防局)の見積もりでは、アメリカに30万人のシャーガス寄生虫保持者がいるとみています。この目に見えないくらい小さな寄生虫は、トリパノソーマ・クルージ(Trypanosoma cruzi)という長ったらしい名前を付けられています。キッシング・バッグ(Kissing bug)とロマンチックな名前で呼ばれている、蚊のように刺す虫が仲介し、広がります。
私はクリーク(小川)が流れる田舎で育ちましたが、そこにヒルやダニなど皮膚に付いてくる虫のほかに、リンク・ワーム(輪状虫)という寄生虫がいて、裸足で泥んこや小川を歩くと足の指の間、柔らかいところから体内に入り込み、体に直径5cmほどの赤ピンクの輪を幾つも作るのです。妹二人はこのリンク・ワームに取り付かれ、治療を受けました。
ニワカ知識で調べたところ、私たちは自覚症状なしに様々な種類の寄生虫を体内に飼っているようなのです。中には良い寄生虫もいて、体のバランスを保ってくれるというのですから話はややこしくなってきます。強力な抗生物質で、すべての寄生虫を殺してしまうのは体に良くない、うまく寄生虫と共存すべきだと主張する学者さんもいて、寄生虫イコール悪者とも言えないようなのです。
私の甥っ子たちが、いつまでたっても自立しないパラサイト的生活も、案外親の方が、精神的に子離れができず、わが子に寄生し、共生しているのかもしれず、良い寄生虫の変種なのかもしれませんね。
-…つづく
第667回:コロラド川~帰らざる川
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