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第385回:緊急掲載 ラグビー・ワールド・カップ 2019閉幕 
     ~印象に残った選手、プレーぶりなど

更新日2019/11/21



ここに来て、国内のラグビー熱が少し鎮まった感じだが、来年1月12日(日)にスタートするトップリーグのチケットがなかなか手に入らないなど、まだまだブームは続いている様子で、古くからのラグビーファンとしては大変にうれしいけれど、未だに何か信じられないような心持ちである。

さて、今回のW杯で私にとって印象深かった選手を何人か挙げていきたい。やはりジャパンの選手が中心になるが、海外の選手も考えてみた。みなさんの思いとは異なるだろうか。

まずはFW第1列。(ポジション名などは英語の略称を使いますが、最近目にすることが多いと思いますので、一つひとつ解釈をしないことをご了承ください。また選手の敬称は略させていただきます)
※下図のポジション解説図参照

「笑わない男」稲垣のトライ、「金髪男」イシレリ、「ドレッド」堀江のいぶし銀のプレーと、どれも観る者を魅了したが、私にはPR具智元がアイルランドのスクラムを、文字通り破ってしまった、引き裂いてしまった光景が圧巻だった。今までラグビーを観てきた中でも、最もインパクトを受けた瞬間と言える。

イングランドのPRカイル・シンクラーはオール・ブラックス戦での活躍が素晴らしかっただけに、南アフリカ戦の前半3分途中退場は痛かった。スクラムでの劣勢がそのまま勝敗に影響したと言える。それ程強いタイト・ヘッドだった。

フランスと大接戦を繰り広げながら、残念ながら予選敗退したアルゼンチンの顔、アグスティン・クレービーは、世界一のHOとしての矜持を見せてくれた。この人の顔がW杯から消えることは寂しい限りだ。

FW第2列。トンプソン ルークは、見事に4大会連続出場、しかも自分たちよりも実力が上の、アイルランド、スコットランド、南アフリカ戦で、すべてスターティング・メンバーに名を連ねた。まさに、日本が誇るミスター・ラグビーである。人懐っこい関西弁、先日から始まったトップチャレンジ・リーグにおいても近鉄で先発出場、永遠に勇姿を見ていたいプレーヤーである。

元消防官で強面ブロディー・レタリックと髭面のサム・ホワイトロックのLOコンビは、オール・ブラックスの強さの象徴として、すべてのチームに脅威を与えていた。南アフリカの喧嘩屋エベン・エツベスも恐るべきLOだったと思う。

FW第3列。キャプテンの最も多いポジション。FLリーチ マイケルは、ジャパン歴代の主将の中でも、類稀なるキャプテンシーを持った最高のスキッパーだということは、俄(にわ)かを含めたすべてのファンが認めるところだろう。

No.8の姫野和樹は、ラグビー史上、日本人のNo.8としては最強であった。まったく疲れを知らない選手である。

スコットランドのジェイミー・リッチー。喧嘩っ早いやんちゃボーイだが、この国としては、久しぶりに生きのいいFLが登場してきた。まだ23歳、次回のW杯の主力選手になって欲しい。

オーストラリアのキャプテン・マイケル・フーパーと、デイヴィット・ポーコックは、この国のFLの系譜を正当に受ける、決して大柄ではないが、抜群のスキルとセンスを持った選手たちだった。次のW杯に彼らが出て来ないとなると、少し途方にくれるくらいの喪失感がある。

イタリアのNo.8、なんと5回目のW杯、キャプテンとしてチームを引っ張るセルジョ・パリッセ。世界中のラグビー選手にリスペクトされている存在だが、台風の影響でオール・ブラックスとの対戦が中止になったことは、本当に残念である。彼のW杯における有終の美を飾ることのできるゲームをして欲しかったものである。

そのオール・ブラックスのキャプテン、キアラン・リード。前回、前々回と連続優勝したリッチー・マコウ*1にはキアラン・リードという選手の存在があったが、今回のキアラン・リードにはそれに代わる存在が見当たらなかった。実は、それが今回優勝を逃した大きな原因だと、私は考えている。

そして、南アフリカのキャプテン、FLシヤ・コリシ。エリス・カップを高々と上げたその姿は、私たちの心にずっと残るに違いない美しい光景だった。

SH。あまりメジャーにはなれないロックンローラーのような風貌のファフ・デ・クラーク。この大会では名物男となった。172㎝の小兵ながら、物怖じせずにどんな大型選手にもタックルを決め、どこにでも顔を出す、抜群の移動能力、素晴らしいプレーヤーだ。

田中史朗、流大の、ジャパンの二人のSHの活躍も大いに目立っていた。田中はあんなに幼い顔つきだが、すでに3回目のW杯だった。彼らの堅実なプレーが、史上初の決勝トーナメント進出の快挙を産んだことは間違いない。

グレイグ・レイドローは、本気で、どんなことをしてでもジャパンに勝ちたかった。その心意気は痛いほど伝わってきた。最後のインタビューで、彼の目に滲むものを見たとき、この男のことを改めて尊敬する気持ちになった。

いつも狂気を胸に隠し持っていたアーロン・スミスも、W杯史上に名前を刻んだ選手だと思う。オール・ブラックスのFWをリードし、BKを牽引する働きを見せる男は、この世に数えるしかいないが、それを2大会続けてしまった。

予選プールのオーストラリア戦、後半猛追してきた相手の、大きく陣地を奪いに蹴り出そうとしたPKを、ジャンプ一番タップして、マイボールにしてしまった、ウェールズのSHトモス・ウィリアムズ。その直前に途中出場したのだが、このプレーがなければ、ウェールズの1位通過はかなり難しかっただろう、ゲームの流れを変えてしまった超ファインプレーだった。

SO。(FH)。個人的には、ウェールズのダン・ビガーが最も好きなプレーヤーだ。前大会披露された落ち着きのないルーティン。今大会では通常は影を潜めたが、最もプレッシャーがかかったキックの時には、その片鱗が垣間見られて微笑ましかった。彼を決勝の舞台に立たせたかった。

南アフリカのハンドレ・ポラード、イングランドのオーウェン・ファレル、オール・ブラックスのボーデン・バレットは大会を代表する顔だった。さすがに、3人とも華のあるプレーヤーだと思う。

田村優。緊張のあまり、開幕戦までは「眠れない男」であったが、ゲームを重ねるごとに本領を発揮してきた。本当に上手なプレーヤーになった。ここまで伸びた選手は、ほかにあまり見たことがない。

もう一人、スコットランドのアダム・ヘイスティングズ。父は、私が最も尊敬しているプレーヤーの一人、この国の英雄であるギャビン・ヘイスティングズ。父譲りの卓越したプレーで、トライを量産した。今回は名手フィン・ラッセルの控えだったが、次回大会では決勝トーナメント進出の原動力となる選手に大きく成長していることだろう。

CTB。中村亮土。堀江、坂手、ヘンドリック、姫野、流、松田とともに、今回のW杯に出場した帝京大学出身7人!!のうちの一人。(因みに、早稲田、明治大学出身は各一人ずつ。いかに岩出監督の指導が素晴らしいかを物語っている)
中村は今大会で、日本人のCTBがここまでW杯で堂々と渡り合えたのか、と最も感動を与えてくれたプレーヤーの一人だった。

ジャパンのラファエレ ティモシーは、ラグビーの楽しさを多くのファンに教えてくれた、魅力的な選手だ。彼のところにボールが回ると、次にどんな展開が待っているのか、ワクワクするのである。

今回、私の観戦したゲーム数が少ないこともあるので、断言するのは憚られるが、ジャパンの二人の他は、CTBには、前回までの大会よりも、少し目立った選手が少なかった気がする。私見だがFLとCTBというポジションは「ラグビーの華」だと思っているので、際立つ選手が出てきて欲しいと願っている。

WTB。福岡堅樹のスコットランド戦での、相手ボールに働きかけ、そのボールが浮かんだところを抱え込み、そのまま走ってトライをあげたのは、今大会一のファンタスティックなシーンだ。まさに、俄の心、鷲掴みのプレーだった。

南アフリカ、剛のマカゾレ・マビンビ、柔のチェズリン・コルビの左右のWTBコンビは観ていて美しさを感じた。決勝のイングランド戦、後半二人が続けてトライを決め、南アフリカが今まで言われてきた「退屈な決勝戦の勝者」というありがたくない言葉を吹き飛ばしてくれた。

アダム・アシュリー・クーパー。WTBに限らないユーティリティー・プレーヤーであり、いつになっても、彼の名前はオーストラリアのラグビー史からは消えないだろう。FOREVERな存在である。

最後にFB。松島幸太朗はワールドクラスの選手。タックル→起き上がる→タックル→起き上がるをいつまでも続けられるタフさと、スピード、柔軟性、すべてを持ってしまった稀有なプレーヤーである。これからまだまだ伸び代がありそうで、末恐ろしい。

個人的には、南アフリカのフランソワ・ステインの復帰がうれしかった。昔の美少年の面影は払拭され、ゴツイおっさん面に変容していたが。

オーストラリアのカートリー・ビール。あの攻撃的なランもこの大会で見納めなのだろうか。

そして、最後に紹介したいのがウェールズのリー・ハーフペニー。「50銭銅貨」を表すような軽そうな名前で178㎝の小柄な選手だが、そのプレーはじっくりと重い。ハイボールの反応の良さは光一(ピカイチ)で、自分より20㎝以上高い選手と競い合っても、ボール奪取してしまう。ディフェンス、アタックともに堅実かつ大胆。前出のギャビン・ヘイスティングズとともに、私の最も敬愛するFBである。

以上、本当につれづれなるままに選手名と、そのプレーぶりを挙げてみた。ブームとしてどこまで続くかは分からないが、多くの方々にラグビーの関心を持っていただけたことは、今回のW杯の最も成功した業績だと思っている。

ここに挙げた選手はごく一部で、この後幾つかのゲームを観ていただくことによって、ご自分のお気に入りの選手を増やしていっていただければ、ファンの一人としてたいへん喜ばしい限りである。

 

 

 

*1:リッチー・マコウ(Richard Hugh McCaw):ニュージーランド出身の元ラグビー選手。ポジションはフランカー・ナンバー8。ワールドラグビー年間最優秀選手賞3回。キャップ数148はラグビーユニオン史上最多。(参照:Wikipedia)

 

※ラグビーのポジション解説図
rugby-01

-…つづく

 

 

第386回:流行り歌に寄せて No.186 「海は恋してる」~昭和43年(1968年)


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金井 和宏
(かない・かずひろ)
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1956年、長野県生まれ。74年愛知県の高校卒業後、上京。
99年4月のスコットランド旅行がきっかけとなり、同 年11月から、自由が丘でスコッチ・モルト・ウイスキーが中心の店「BAR Lismore
」を営んでいる。
Lis. master's voice


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