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■店主の分け前~バーマンの心にうつりゆくよしなしごと

第364回:流行り歌に寄せて No.169「好きさ好きさ好きさ」~昭和42年(1967年)

更新日2018/12/13


以前にも書いたが、グループサウンズ(以下:BS)が流行した時に、そのファンである中心世代は、私よりも3、4歳ほど年上のお兄さん、お姉さん方であった。だから、私はザ・タイガースなどの超人気グループの他は、曲は何度か聴いていて口ずさめても、あるいは歌っている人のことは知っていても、そのグループ名を特定できなかったりすることが時々ある。

このコラムでは、そこのところのおさらいも含めて、人気のあったグループは1曲だけでも(ランダムにではあるが)ご紹介していきたいと思う。GSファンだった方には、何も知らないヤツだなと思われたり、逆にGSをまったく知らない方には、何を今さら拘っているのと思われたりするだろうが、戦後の昭和の歌謡史の一旦を間違えなく担ったGSの存在を振り返りたい。

カーナビー・ストリートは、ロンドンのソーホー地区の真ん中に位置し、1960年代には、キングズ・ロードとともに、最新のファッションと音楽の発信地として爆発的な人気の通りであった。現在でも、歩行専用の道路であり、のんびりと歩きやすく、ショッピングなどを楽しめる通りとして多くの人々に親しまれている。

“カーナビーツ(Carnabeats)”は、当時流行の発信地であったカーナビー(Carnaby)に、音楽における拍子、リズム感などを表すビート(Beat)を掛け合わせた造語で、月刊誌『ミュージック・ライフ』の編集長だった星加ルミ子によって名付けられた。カブト虫(Beetle)とビート(Beat)を掛け合わせた“ビートルズ”(Beatles)に倣ったものだろうと想像できる。

さて、まだ“ロビンフッド”というバンド名だった彼らが、フィリップス・レコードのオーデションを日本ビクターのスタジオで受けた時に歌った曲が、英国のバンド“ゾンビーズ(The Zombies)”の “I Love You”だった。そのアレンジが良かったために、訳詞の名手、漣健児によって日本語訳され、『好きさ好きさ好きさ』というタイトルで、そのままデビュー曲として売り出された。


「好きさ好きさ好きさ」  漣健児:作詞  Christopher Taylor White:作詞・作曲 
             ザ・カーナビーツ:歌
 

好きさ 好きさ 好きさ

忘れられないんだ お前のすべてを


*お前が好きだよ お前を好きなんだ

 だけどもお前は 誰かに恋してる

 こんなにお前を 好き 好き 好きなのに

 つれなくしないで もう逃がさない

 I love you oh ! I love you

 I love you yes, I do *


好きさ 好きさ 好きさ

忘れられないんだ お前のすべてを


(*くり返し)


お前のすべてを

こんなにお前を 好き 好き 好きなのに

つれなくしないで もう逃がさない

I love you oh !   I love you

I love you yes, I do

好きさ 好きさ 好きさ

忘れられないんだ お前のすべてを

Wow... Wow... Ah Ah...

I love you I love you I love you

Ah…


ザ・カーナビーツ、このデビュー曲の際のオリジナルメンバーは―
アイ高野(Vo. Dr.) 愛称(以下同):もっちん、チョンチョ 本名 高野元就
臼井啓吉(Vo. Per.)ポンタ
越川弘志(Gt.リーダー)ヒロちゃん、カエル
岡忠夫(Bs.)テンデ、金魚
喜多村次郎(Gt.)ジロー、黄金バット

若い女性ファンを多く持つGSの曲の中には、アクションとともに決める聴かせどころがあった。この曲で言えば、ドラマーのアイ高野がスティックを前に突き出して絶叫する「お前のすべてを!」の部分で、これが女子学生たちを虜にしてしまったという。2曲目の『恋をしようよジェニー』もアイ高野の「ジェニー!!」という叫び声から始まっている。

3曲目の『オーケイ!』は、私も何度となく聴いていて、「たとえ世界中が 僕に冷たくても OK 君がいれば OK」の詞は耳慣れており、時々口ずさむこともあったが、今回「これもカーナビーツの曲だったんだ」と改めて認識した次第である。

この『オーケイ!』も英国のバンド“デイヴ・ディー・グループ(Dave Dee, Dozy, Beaky, Mick & Tich)”の “Okay!”のカヴァー・ヴァージョンであり、訳詞は前出の星加ルミ子が手がけている。この曲などはファズを多く使用し、当時の英国のサウンドに近い世界を作り上げており、それは時代の先端を行くものだったと言えるだろう。原曲の醸し出す何かアラビア的な演奏の雰囲気に少し手を加え、一味違うアラビア風にアレンジしたあたりが楽しい。

しかし、GSブームというのは意外なほど短く、昭和43年の夏頃から勢いを失ってしまって、ザ・カーナビーツもいろいろと曲調を変たり。メンバーを入れ替えたりしながら生き残りを図るが、その甲斐なく昭和44年の9月に解散を余儀なくされた。デビューから2年余りの活動期間だった。

-…つづく

 

 

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金井 和宏
(かない・かずひろ)
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1956年、長野県生まれ。74年愛知県の高校卒業後、上京。
99年4月のスコットランド旅行がきっかけとなり、同 年11月から、自由が丘でスコッチ・モルト・ウイスキーが中心の店「BAR Lismore
」を営んでいる。
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