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■店主の分け前~バーマンの心にうつりゆくよしなしごと

第357回:流行り歌に寄せて No.162 「夜霧よ今夜も有難う」~昭和42年(1967年)

更新日2018/08/23


ハマクラ先生、登場である。私は、いつもこの人のことを書くとき、ウキウキした気分になる。彼の持つ底抜けの明るさから来るのだろうか。何か、人を楽しくさせる力を持っている方である。

裕次郎の依頼があって、ハマクラ先生が初めて彼のために書いた曲だそうである。その後『粋な別れ』『港町 涙町 別れ町』『恋の町札幌』と、二人のコンビでヒット曲を量産していくのだが、『夜霧よ今夜も有難う』はその先駆けとなった。

先生は、今までの裕次郎映画のヒーロー像を集約したイメージでこの曲を書いたという。
襟を立てたトレンチコートのポケットに手を突っ込んだ裕次郎が、悲しげに浅丘ルリ子の顔をじっと見つめている。最初のむせぶようなテナーサックスで、そんな光景が浮かんでしまう。

立ち込めた、濃い夜霧を彷彿させるあのテナーのイントロは、裕次郎の曲の常連編曲家である山倉たかしの発案によるものか、あるいはハマクラ先生の依頼によるものなのか、かなり興味深いところである。


「夜霧よ今夜も有難う」  浜口庫之助:作詞・作曲  山倉たかし:編曲  石原裕次郎:歌

1.
しのび会う恋を つつむ夜霧よ

知っているのか ふたりの仲を

晴れて会える その日まで

かくしておくれ 夜霧 夜霧

僕等はいつも そっ言うのさ

夜霧よ 今夜も 有難う

2.
夜更けの街に うるむ夜霧よ

知っているのか 別れのつらさ

いつか二人で つかむ幸せ

祈っておくれ 夜霧 夜霧

僕等はいつも そっと言うのさ

夜霧よ 今夜も 有難う


昭和30年代から40年代の初頭、石原裕次郎だけでも『狂った果実』『俺は待ってるぜ』『嵐を呼ぶ男』『錆びたナイフ』『銀座の恋の物語』『夜霧のブルース』『赤いハンカチ』『夕陽の丘』『二人の世界』『夜霧の慕情』と曲名をタイトルとして作った映画は数多く作られ、ことに日活映画は大の得意としていた。

ところが、この『夜霧よ今夜も有難う』は、裕次郎作品としては、同名映画シリーズの最後の曲となった。テレビの台頭で、映画業界が少しずつ翳りを見せていた時期である。

映画『夜霧よ今夜も有難う』は、ハマクラ先生のイメージするところに呼応するように、昭和17年のアメリカ映画『カサブランカ』を翻案して作られた映画である。原作から四半世紀後に作られたことになる。

酒場の店主リックを演じるハンフリー・ボガート、そのかつての恋人イルザ役のイングリッド・バーグマン、そしてその夫ラズロ役はポール・ヘンリードが演じていた。それが、それぞれ石原裕次郎(役名・相良徹)、浅丘ルリ子(北沢秋子)、二谷英明(クエン)となるのである。

監督は、日活生え抜きの江崎実生。彼はアクション、青春もの、喜劇と多方面の映画を作っていくが、会社がロマンポルノ路線に切り替わるとともに退社し、テレビ業界に入っていく。

石原裕次郎との縁から石原プロの作品も多く手掛け『大江戸捜査網』『プレイガール』『噂の刑事トミーとマツ』『スチュワーデス物語』『スクール☆ウォーズ』など、ヒット作を量産した。早撮りの監督としても有名な人である。

さて『夜霧よ今夜も有難う』は何人かにカヴァーされている。フランク永井、ちあきなおみは、本当に上手い方々で、もう完全に自分の曲になっている。よしだたくろうは、この曲が大好きなんだなあという感じで歌っているし、勝新太郎はその濃い人間性が滲み出ていて、なかなかに聴きごたえがある。

加山雄三は「はい、加山雄三です」としか聞こえないところが、この人らしい。最近の金児憲史、石原プロの人、シングルでこの曲を、またアルバム全体で裕次郎のカヴァーをしている。実に渋い二枚目であるが、歌の良し悪しは私にはよくわからない。

最近はカラオケでこの曲を聴くこともあまりないが、やはりかなり難しい曲なのだと思う。私にはチャレンジしてみたいという勇気はまったくない。

-…つづく

 

 

第358回:流行り歌に寄せて No.163 「花はおそかった」~昭和42年(1967年)


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金井 和宏
(かない・かずひろ)
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1956年、長野県生まれ。74年愛知県の高校卒業後、上京。
99年4月のスコットランド旅行がきっかけとなり、同 年11月から、自由が丘でスコッチ・モルト・ウイスキーが中心の店「BAR Lismore
」を営んでいる。
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