第284回:“最近の若い者は…!”
「最近の若い者は……」というお決まりの老人の愚痴の後にくるのは、「どうしようもない」「何を考えているか分からん」「自分のことしか考えていない」と続くわけですが、こんな中年、老人の愚痴はソクラテスの時代からあったし、人類が始まったピテカントロップスや北京原人、ジャワ原人も同じようなことを言っていたことでしょう。
主に、18歳から22歳くらいの学生を相手する商売をしている身としては、"あの人たち、何を考えているんだろう……"と思いたくなることがママあります。しかし、私が彼らの年齢だった時、ベトナム戦争反対とか、徴兵拒否のデモに参加しているのを、両親は私がどうしてそんなことをするのか…全く理解できなかったのだろうな…と思います。
札幌に住む私のお姑さんが、今年の初めに腰の骨を折り、その後3ヶ月間リハビリ療養所に入院していました。夏休みの間、その療養所にお姑さんを元気付けるため、かなり頻繁に通いました。
そこで働いている人たち、療養師というのかしら、セラピストたちは皆が皆、まぶしいくらいに若い人たちでした。療養所のある円山の裏山の急な坂道を登る療養所に行くバスに、あたふたと乗り込んでくる現代的なファッションの娘さん、若者を最初見た時、この人たち、一体どこへ、何しに行くの? と思ったものです。
ところが、驚いたことに彼らはセラピストだったのです。彼らが一旦、白や薄いピンク、青のユニフォームを羽織って廊下を歩いたり、リハビリルームで仕事をしている姿は、変身と呼びたいくらいすがすがしいのです。
白いユニフォームを着て、お姑さんのところに来て、足を持ち上げ、腰をひねらせ、いくらお姑さんが枯れて小さくなってきたとはいえ、フィジカルセラピーは大変な重労働な上、なにせ相手は耳が遠いですから、耳元で大声でゆっくり噛み締めるように説明、説得しなければなりません。体力だけでなく、精神力というか、絶大な忍耐力を要する仕事なのです。
お姑さん、96歳ですが、「若い男の人に身体を触られるのが、最初ちょっと恥ずかしかったよ」と言いながらも、マッサージやセラピーの後は身体だけでなく、頭脳も活発に動くようになるのでしょうか、活き活きとしてきます。彼女の息子たるうちの仙人は、「なに言ってるの母さん、その年になって、あんな若いハンサムなお兄ちゃんに身体をさすってもらい、ついでに若さももらっているんだから、感謝しなきゃダメでしょう」などと言っています。
本来、楽天的なお姑さんの性格も大いに関係があるでしょうけど、なんと3ヶ月後にお姑さんが杖なしで歩けるようになったのは、若いセラピストさんたちのおかげです。
確かに最近の若い世代の人たちは、政治運動に奔走したり、人類平和のためにウンヌン…と大きな議論をしなくなりました。日本では、明治維新にあやかり、平成維新とうたっている団体もあるようですが、時代錯誤の感じが抜け切れません。ただキャッチフレーズとして"維新"を使っているだけなのでしょう。
ダンナさんに薦められて、30年後の日本の"未来国会"http://www.miraikokkai.comを覗いてみて驚きました。これはドットジェイビというNPO団体(代表:佐藤大吾さん)が主催し、様々な大学の学生が5、6人づつでグループを作り、合宿し彼らが50歳前後になる30年後の日本ありかた、そして10年後の予算案を具体的に製作するという、ユニークな競技?会(若者のための国家デザインコンテスト)です。
写真を見ると、リハビリセンターのセラピストたちと同じような若者ファッションで身を固めた、もしくはファッションなど関心外といったジーンズ、ティーシャツの学生たちが、実に具体的、創造的に予算案を組み、未来へのヴィジョンを書いているのです。
この人たちが社会人になっても、このようなしっかりした目を政治と未来に持っているなら、日本は安泰だと思わせます。これがアメリカなら、相手をやつけるための議論、デベイト論争で終わり、お互いの創造的な案の優れたところを理解するより、どのグループが議論に勝つかだけが問題になってしまうことでしょう。
札幌の郊外円山にある一療養所で働くセラピストを見て、"最近の若者は…"とやるのは、目の不自由な人が、象の鼻を触り、"象とは太い蛇のような生き物だ"と結論付けるのに似ていることは承知の上ですが、彼らのような若者の生き方に、まず身近なところで人を助け、奉仕する生き方に深い感銘を受けたのです。
療養所が運行している無料のシャトルバスに駆け込んでくる典型的な若者ファションに変身したセラピストのお兄ちゃん、お姉ちゃんたちを見て、いつも点数の辛いうちのダンナさん、「こいつらがいる限り、日本はまだまだ大丈夫だな」と、いきなりジャンプした結論をボソッとこぼしていました。
第285回:レイプされ続ける沖縄
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