第270回:デービー・クロケットは3歳でクマを退治できた!?
神話、伝説の類いには、現実にあり得ない大げさな事件が数多く語られています。建国の神話が成立し得ないアメリカでは、ワシントンが桜の木を切り倒し、それを"正直"に両親に告げたという、"ワシントン=正直者"という神話を後でお坊さんが創作し、広めたりしていますが、ギリシャや日本、アメリカインディアン神話ような天真爛漫で豊かな精神性がありません。
アメリカ開拓史は沢山の英雄を生み、伝説、神話が作られました。しかし、それらはいずれにしろ17、18世紀のことで、神話というより、アメリカ人が好む荒唐無稽な"ホラ話(Tall
tale)"の部類でしょう。
デービー・クロケットが、たった三つの時にクマを退治した……という言い伝えも、"金太郎がクマに跨り、お馬の稽古をした"のと同じように、そのまま信じる人は誰もいませんが、ホノボノとした大らかさがあり、デービー・クロケットが3歳の時には、まだ元込めのライフルもピストルもなく、マスケット銃のように銃身の先から火薬と弾を詰め込む、種子島の旧式の銃みたいなもので、鉄の塊のような重さだった。だから3歳の幼児が扱えるシロモノでない……などと正論じみた理屈は所詮神話には無用なのです。
デービー・クロケットの時代から、銃などの兵器は飛躍的な進歩を遂げ、たいした訓練もせず、ひ弱な人でも軽く引き金を引くだけで簡単にピストル、銃を撃てるようになりました。
インディアナ州の田舎町セイレム(Salem, Ind.)で、たった3歳の子が本物の(アメリカでは当たり前のことですが)ピストルをぶっ放し、クマならぬ自分の父親を撃ち殺してしまったのです。
3人の子の父親、マイケル・ペイレスさんがテレビを観ていたところ、まだ赤ちゃんのような我が子がズドンと一発、ピストルを撃ち、即死してしまいました。救急車が来た時にはすでにマイケルさんは死んでいたと言いますから、余程当たり所が悪かったのか、ピストルの威力が大きかったのか、今のピストル、弾はすべてそのように破壊的な力を秘めているのか、ピストル業界に詳しくない私は分かりませんが、見事な即死だったようです。
子供がいる家の中に、弾を込めたピストルを安全装置もかけずに、しかも3歳の赤ちゃんの手の届くところに、どうして放置してあったのか、死んだお父さんの落ち度なのははっきりしています。
今回の事件が偶発的な事件だと言えるでしょうか。野放しの銃火器が、アメリカ人の家庭、アメリカ人のポケットにある限り、こんな事件は続くことでしょう。
3歳の赤ちゃんを過失致死で逮捕、取り調べるわけにもいかないでしょうけど、その子は父親殺しの重い十字架を一生背負って生きていかなければならないことに変りはありません。
そして、3歳の子供でも銃火器があれば、いとも容易に人を殺すことができるという現代アメリカの神話が現実味を帯びてきます。デービー・クロケットの神話を悲惨な形で実現したアメリカがあるように思います。
第271回:虐殺、乱射事件の伝統!?
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