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■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から

第259回:愛犬家と猛犬

更新日2012/05/10



私のダンナさんは動物的臭気を放っているのか、犬族に異常に好かれます。近所の犬や得体の知れない野良犬みたいな犬まで、彼が呼ぶとシッポを振って寄ってくるのです。たとえ呼ばなくても、ただノコノコ彼の足元にまとわり付くように付いてくるのです。

先日、近くの田舎道を長い散歩に出かけた時にも、猛犬として悪名高い恐ろしいラットワイラーが寄ってきたのです。一瞬、私は緊張しました。なにせラットワイラーと言えば、どう猛の極みのような犬で、アメリカで毎年何人かが噛み殺され、州や自治体には禁止しているところがあるくらいの犬なのです。

顎の力がものすごく、ガブリとやられると大抵の骨は砕けると言われています。おまけに非常に気分屋で、飼い主に噛み付いたり、飼い主の子供、赤ちゃんを噛み殺したりの事件を引き起こすことでも有名な犬なのです。そんな恐ろしい犬が、はじめは吠えながら近づいてきたのです。

ウチの仙人たるダンナさんは、ヒョイと屈み込み、なにやら犬に話しかけたのです。 「オオ、お前か。何も怖がることないぞ、お前はいい犬だからな、こっちに来い、ヨシヨシ」となんと日本語で言っているのです。犬の方もまさか日本語を理解したわけではないでしょうけど、彼の足元に擦り寄ってきて、しばらく匂いを嗅いだり、大きな口から垂れたヨダレを彼のズボンに擦り付けたりし始めました。

その時気が付いたのですが、半分は犬族みたいなうちのダンナさんは、決して自分から犬の方に行かず、じっと待つのです。そして、すぐには手を出して頭を撫でたりせずに犬に好きなようにさせて、ずいぶん時間が経ってから、頭や身体全体を優しく叩いてやっているのです。ここまでくるとたいていの犬はイチコロです。

その恐ろしいラットワイラーも、1時間半、距離にして6キロくらいの散歩にズーッと付いてきました。

うちのダンナさんのケースは犬好きということもあるでしょうけど、犬族の方が彼を好いているようなのです。私たちの山の家に定期的に挨拶にくる常連の犬は3匹、時々寄ってくる得体の知れない犬が他に4、5匹います。

恒例のドックショーがニューヨークのマジソンスクエアガーデンで開かれました。シャワーを浴び(浴びさせられ)シャンプーをし、美容院できれいに毛並みを整え、ヘアーカットされた犬がたくさん登場します。何の芸をするわけでもなく、ただ格好をつけてフロアを一周するだけです。犬のファションショーみたいなものかしら。そんなニュースをテレビで観ていたら、ダンナさんは、「可愛そうな犬だな」とつぶやいていました。ダンナ、本人は何十年も床屋に行ったことがなく、自分でバリカンでグルグルと丸坊主に刈っているヒガミかもしれませんが…。

犬好きにも色々なカテゴリーがあるようで、私の幼馴染の友達に動物愛護に打ち込んでいる人がいます。彼女の家に行くと、お犬様がいて、客である私たちに、犬が噛み付くからということで、手を椅子の下に垂らさないように注意されました。後でダンナさん、「あの馬鹿犬に噛み付いてやろかと思った」と言っていました。

数年後、その友達に会ったとき、あの犬はどうしたと訊ねたところ、人を咬んだので処分したと言っていました。ということは殺したということでしょう。それを聞いた時のダンナさんは見ものでした。きちんとしたトレーニングをせずに、人を咬んだから殺すとはなんと言うアホな動物愛護だ。犬も馬鹿犬だったが、飼い主はもっと馬鹿で無責任だと息巻いていました。 

犬は人間の最高の友達です。しかし、それも厳しいトレーニングで躾けがあればこそでしょう。何の躾けもない犬は、野生のたくましさも知恵もなく、ただ与えられた餌を食べるだけの飼い主の犠牲者(犬)だと言えば、言いすぎかしら。

 

 

第260回:猛犬ラットワイラーとピットブルの悲劇

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Grace Joy
(グレース・ジョイ)
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中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

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