第260回:猛犬ラットワイラーとピットブルの悲劇
犬物語の続きです。またまた、地元のコロラド州でピットブルに子供が咬まれ重傷を負いました。少年の顔は何回、何年にも及ぶ整形手術をしても元通りにならないだろう…とお医者さんが言うほど咬み潰されてしまったのです。
この獰猛なピットブルは、ブルドックとテリアを混血させ、闘犬用の猛犬として種を固定した犬で、俗に"アメリカン・ピットブル"として勇名を馳せています。
猛犬のもう一方の雄は"ラットワイラー"で、こちらの方はドイツで警察犬として作られたといいますが、純血種の欠点でしょうか、気性が変りやすく、今までおとなしく誰にでもなついていたのが、一瞬にして飼い主や家族を襲ったりしますし、他の犬をかみ殺したりするので有名です。
この24年間に、アメリカで284人が犬に咬み殺されています。その80パーセント以上がこの2種の犬、アメリカン・ピットブルとラットワイラーによるものです。その数は、サメやワニに食べられた人、クマやマウンテンライオンの襲われ、死んだ人の総計の何倍にもなります。
咬み付かれただけなら、ということは咬まれて医者に行った人だけで年に470万件に達しています。チワワやダックスフンドのような小型犬、ゴールデンリトリバーやセッターのような狩猟犬が、何かの拍子にパクリとカジッタ程度ならわざわざ病院へ行かない人も多いでしょうから、この470万件という数字も控え目でしょう。
昨年だけで16人も犬にカジラレ、命を落としています。当然のことですが、カジッタ殺人犬は死刑になります。そこで、変質狂的動物愛護の団体が、犬に罪はない、飼い方、しつけの問題だけだ……お犬様を救えと運動を始めました。
ですが、先天的に天性の凶器(狂気でしょうか)を遺した、この2種の犬、アメリカン・ピットブルとラットワイラーを飼うことを禁止する州、地方自治体が出てきました。そして、それに猛反対している団体もあります。
私の両親が10年前に家を引っ越したのも、隣の人がラットワイラーを何匹も飼い始め、子犬を増やし、それを売る、結構なアルバイトを始めたからです。狭い金網に押し込められたラットワイラーは、よく金網を破って逃げ出し、両親の家の庭を徘徊し、母が隣人に、「お宅の犬が逃げている」と何度も何度も電話したそうですが、「今すぐ行く、うちの犬は咬まない」と繰り返すばかりでした。
幸い両親は咬まれませんでしたが、孫が遊びに来ている時、数頭のラットワイラーが侵入してきて、お母さんが孫を守ろうと小さな孫の上にかぶさるように芝生に倒れ、足を骨折してしまいましたし、おばあさんの小さなぺキニーズはガップリとかじられ、ほとんど殺されかけましたが、愚然居合わせた父がスコップを振り回し、ナントか救出しました。
犬族に近いはずのうちのダンナさんは、私の両親に、その隣人に最終通知をして、今後猛犬が両親の庭に入ってきたら、その場で撃ち殺すと伝えろ、同時に犬殺しの毒を仕込んだ肉をばら撒いてあると言いなさい……これは嘘でも構わないが、犬を放さない効果はあるだろうと言いました。でも、両親は引っ越す方を選びました。
ミシガン州に住むクリスティーさんは、自分の家の郵便受けに行き、そこで隣のラットワイラーに咬まれ、頭脳にダメージを受け、一生回復できない障害者になってしまいました。
テキサスのジョスティン・クリントン君は、犬に咬み殺されました。9歳でした。両親は民事裁判にも訴え、7,000万円相当の慰謝料を犬の飼い主から取得しましたが、そのお金を基金にして、猛犬、ラットワイラーとアメリカン・ピットブルを禁止する運動を展開し、『ジョスティンの法』として全米に広げようとしています。
何事にも目ざとい保険会社は、お宅の犬が人をカジリ裁判になった時、裁判費用と保証金を払いますよという飼い犬保険を売り出し、結構保険をかける飼い主が増えているそうです。
アメリカン・ピットブルやラットワイラーは、ピストルや自動小銃と同じように凶器になりうるモノです。それを野放しにしておいて、保険で決着をつけようというのは、なんともアメリカ的な発想だと思わずにはいられません。
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