第136回:楕円球の季節-2009年睦月如月版
更新日2009/01/22
今年も、国内ラグビー・シーンの山場を迎えた。昨年のこの時期も同じタイトルで高校、大学の覇権争いを振り返り、トップリーグ、日本選手権の展望につれて触れてみたが、同じことをしてみたい。今回はまず高校、大学の日本一について。
第88回全国高等学校ラグビーフットボール選手権の決勝戦は、1月7日に大阪の近鉄花園ラグビー場第1グラウンドで行なわれた。そして、大阪府第1代表の常翔啓光学園高等学校(以下、啓光)が、奈良県代表の奈良県立御所工業・実業高等学校(以下、御所工実)を24:15で下し、4年ぶり7回目の高校日本一に輝いた。
啓光は平成13年度から16年度にかけて、実に4年連続高校日本一という快挙を成し遂げたが、平成17年度に準々決勝で大阪工大高に敗れて以来、一昨年度、昨年度と2年続けて地区予選敗退をし、花園のグラウンドに立つことができなかった。だから、今回の3年生以下の全員のメンバーが花園には初出場ということになる。
伝統校の生徒が持つ、その歴史を継承して行かなくてはならないという使命感は大変なものだろうと思う。まして、つい最近4回も日本一になったチームの後輩たちにとって、花園にさえ行けなかったというプレッシャーは想像しがたいものだろう。
大阪府からは、毎年東京都の2校より多い3校が代表選出されるが、その予選は、日本一厳しい予選だ。ほぼ間違いなく、毎年その3校のうち2校はシード校指定を受けることになる。その予選を力強く勝ち進み、今年の啓光はAシード校の指定を得た。
ただし、今年の花園における啓光には、やはりあのV4時代の盤石さはなかった。監督自らが評価するように、個々の力では図抜けたものを持ちながらも、組織としての力は今ひとつなのである。ほれぼれするような、お家芸のターンオーバー(相手の保持しているボールを奪い取ってしまうプレー)も影を潜めていた。
殊に3回戦のノー・シード校である東京高等学校(以下、東京)戦、後半30分まで(高校生は前後半30分ハーフ)0:3とリードされ、最後のロスタイムでトライ&ゴールで7:3とようやく勝つという、冷や汗で風邪を引きそうな試合を演じてしまった(東京の監督が時々私の店に顔を見せてくださるので、個人的には熱く応援していたが、東京にとって本当に、本当に口惜しい試合だった!)。
ただ、そこからが啓光の凄いところである。このチームは花園で強くなっていくのだ。3回戦の反省を踏まえ、「ディフェンスの啓光」を基調にしながらも、徐々に攻撃力をつけていく。準々決勝では県立大分舞鶴高等学校を34:19で下し、準決勝では、昨年の覇者東福岡高等学校と対戦し22:15と接戦を制して決勝に進んだ。
そして、小柄でひたむきさが身上という、同じタイプの御所工実との決勝では24:15と、ほぼ準決勝に近いスコアで勝利する。この試合ではディフェンス力はまさに互角、勝敗を分けたのは啓光の攻撃力が御所工実を凌駕したことによる。
森田、三原の両CTBの突破力、そして驚異のWTB国定の走りが、御所工実の防御網を切り裂いていった。殊に、国定周央については久しぶりにボールを持っただけで、こちらがワクワクするようなWTBが出てきた感じがする。
あの梅木監督の孫、名WTB国定精豪氏の子というサラブレッドで、今年から明治大学に入る。大学ラグビー界にとって、大きな話題を呼ぶ予感を感じさせる選手なのだ。
さて、今度はその大学。第45回全国大学ラグビーフットボール選手権大会は、1月10日に東京の国立霞ヶ丘競技場で行なわれた。昨年の覇者早稲田大学(以下、早稲田)が、大学選手権では初めての決勝進出を果たした帝京大学(以下、帝京)の挑戦を20:10で退け、2大会連続15度目の大学日本一に輝いた。
昨年まで、早稲田8年連続関東大学対抗戦全勝優勝、2000年の早明戦以来、その対抗戦の連勝記録を53まで伸ばしたが、それをストップさせたのが、今回の大学選手権決勝の相手帝京だった。
帝京は、今年の関東大学対抗戦、慶應には引き分けたものの、前述の早稲田を含む他の大学には全勝し、初優勝を飾っていた。とにかく、フォワードが圧倒的に強いチームだった。
一方の早稲田は対抗戦で帝京に負けた後、圧倒的に有利と言われていた早明戦も落とし、今世紀に入って長く続いていた「強い早稲田」に翳りが見え始めていた。大学選手権決勝も、若干帝京の方に分があるのではという評価が高かったようだ。
これを覆したのが、早稲田のキャプテン豊田将万だった。やはり早稲田にはよいキャプテンがいる。今回は豊田だから勝った。豊田でなければ勝てなかった。
ただし、それは豊田が今年作った早稲田のラグビーだからとも言える。彼は「決まり事」に縛られないラグビーを目指した。それは、創部以来「決まり事」を最も大切にしていた早稲田の系譜に反する行為なのだ。
大学選手権で帝京に勝ったことも、早明戦で10年ぶりに明治に負けたことも、私には同一線上にあることのような気がする。今年の早稲田は、ちょうど分岐点に立っているのではないか。これから面白いチームになっていく可能性も、方向性を失い低迷に陥る可能性も、半々だと思う。
早稲田の来年のキャプテン、ここ10年来で最も重責を担うことになるだろう。
-…つづく
第137回:楕円球の季節-2009年睦月如月版(2)