第127回:日本にもラグビーの季節がやって来た!
更新日2008/09/11
ここ半年以上、海外のラグビー・シーンの中に浸かっていたが、ようやく日本のラグビーのシーズンが訪れた。皮切りは、ジャパンラグビー・トップリーグ、「サントリー"サンゴリアス"」対「三洋電機"ワイルドナイツ"」の試合。9月5日(金)、秩父宮ラグビー場で、国内のラグビーとしては珍しく、午後7時30分キックオフのナイトゲームで行なわれた。
トップリーグでは、シーズンを盛り上げるために、昨年度トップリーグの優勝チームと準優勝チームを、いきなり開幕戦でマッチ・メイクしてくる。この2チーム、昨年のトップリーグのリーグ戦では「三洋」が、決勝トーナメントの決勝戦では「サントリー」が、そして日本選手権では「三洋」が勝利していて、実力が拮抗している、いわば現在のライバル同士である。
トップリーグ、その前身の社会人ラグビーの頃から、時代時代のライバル・チームというのは存在していて、常にファンの心を捉え続けてきた。
1950年代、60年代には、長い間、「八幡製鉄」対「近鉄」が宿敵として常に社会人の王者を目指してしのぎを削った。60年代の後半になり「八幡製鉄」の退潮のあと、後に同会社になる「富士製鉄釜石」、そして「トヨタ自動車」「リコー」「三菱自工京都」などが台頭してきて、古豪「近鉄」を交え、戦国時代の様相を呈するようになる。
それが、70年代半ばまで続くが、後半に入ると「新日鐵釜石」が圧倒的な強さを見せ、他を圧倒する。その時は「三洋電機」なども出てきて決勝に進むが、歯が立たない。前言を撤回する形になるが、この時代の「新日鐵釜石」にはライバルと呼べるチームはいなかったのだろう。
なにせ、V7の中の、後半の4年間は、「トヨタ自動車」(2年連続)「東芝府中」「神戸製鋼」を相手に、すべて完封試合をしているのである。
その後は、面白いことに「新日鐵釜石」に完封負けを喫した3チームが、「トヨタ自動車」「東芝府中」「神戸製鋼」と、敗れた順番通りに優勝をしていく。そして、再び戦国時代になるかと思われたが、「神戸製鋼」が完全に頭一つ抜きん出るのである。
「神戸製鋼」V7時代のライバルと言えば、「三洋電機」を挙げることに異議を唱える人は少ないと思う。神戸の壁に何回も何回も挑んでも、最後まで勝てない、あの時の宮地克実監督の無念そうな表情を、少し古くからのラグビー・ファンであれば誰でも知っている。
実は「神戸製鋼」のV7のうち、決勝戦の相手は「三洋電機」と「東芝府中」がともに3回(あと「サントリー」が1回)で、2チームは変わらないのだが、圧倒的に「三洋電機」の印象の方が強い。
その後は、1995年度のシーズン、「サントリー」が引き分けではあってもトライ数の多さでトーナメントの上に進み、「神戸製鋼」のV8を阻止してから、この2チームがライバルとして、激しいゲームを繰り広げてきた。
2002年にトップリーグが始まり初年度こそは「神戸製鋼」が気を吐き優勝するものの、その後は勢いが衰えて、それからは「東芝」対「サントリー」が、一番のライバル・カードになり、殊に互いの事業所の所在地から「府中ダービー」として人気を博している。
さて、今年のトップリーグ開幕戦の話に戻そう。ステレオタイプの言葉の羅列で恐縮だが、あっという間の80分、本当にスリリングなゲーム展開で、しっかりと堪能できた。どうして私が店を開けている、しかも書き入れ時の金曜日のナイトゲームなのかと恨み言も言いたくなるような、魅力的なゲームだった(本当に観に行きたかったな)。
冒頭に書いたが、最近までは海外のラグビー・シーンを追っていて、私がとても関心を持ったのは、フランスのクラブチームのトップ14の戦いである。決勝の「トゥールーズ」対「クレルモン」のゲームは、そのスピード、スキル、スリルの三拍子揃った、うっとりするような好ゲームだった。
これはジャパンラグビーも見習うべきところが多いに違いない、それでも、さてここまで行くには何年かかるだろう、とやや諦め気味の気持ちになったが、トップリーグ開幕戦を観て、思うところが変わった。
何より楽しみにしていた、T・ブラウンとG・グレーガンの対決は「さすが」と思わせるシーンがあったが、それだけでなく、暑さによる汗でボールのコントロールに苦労していたものの、間違いなく、両チームの個人と組織の力量は上がってきていたのだ。
スクラム、ラインアウトなどのセットプレーは「サントリー」が圧倒し、そこを起点に攻め込もうとするが、「三洋」のディフェンスはとても堅固でなかなか崩せない。結局、トライの数は、前半3分にもならない時間帯、「三洋」の童顔のスクラム・ハーフ(以下、SH)、田中史朗(髭なんか生やしていたが)が、スクラムが崩れて亀裂となった部分をくぐり、走り抜けたものが、両チーム合わせて一つだけだった。
それでも随所に見せ場のある、激しいタックルの繰り返される試合となった。グレーガンがまだ来日したばかりであまりフィットしていなかったのは残念だったが、彼がトップリーグに加入したことにより、大きな刺激を与えることは間違いないだろう。
現に、「サントリー」の先発のグレーガン、菅藤のハーフ・バック陣から、後半20分に入れ替えがあった成田、曽我部の社会人2年生コンビのスピードとパスワークはとても魅力的だった。フランスのトップ14の覇者「トゥールーズ」のケラハー、エリサルドのコンビを一瞬彷彿するものがあったのだ。
殊に成田は、世界最高のキャッパーにして世界一のSH、G・グレーガンに挑戦状を叩きつけたことになる。「サントリーの正SHは、この俺だ」という気概を感じた。こうして、みんなが凌ぎを削ってゆけば、ジャパンラグビーは確実に強くなっていくだろう。
素敵なゲームをたくさん観たい。これからは、毎週、土日になるのが待ち遠しくなる。
※社会人ラグビー時代のチーム名には、例えばトヨタ自工→トヨタ自動車、東京三洋→三洋電機のように変遷があるが、文中では最後に名乗っていたチーム名に統一した。
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