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■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から

第498回:スマートフォンを使う人がスマートに見えない件

更新日2017/02/02



従弟の娘さんが初めての赤ちゃんを産み、その誕生祝パーティーがありました。最高に幸せそうな若いカップルも美男、美女を絵に描いたような若者ですが、赤ちゃんも日本語で言う"玉のような"女の子でした。

パーティーといってもアメリカ式に台所に3、4種類のバーベキュー、マカロニ、イモ、サワークラウトなどのサラダやつけ合わせ、こちらが主食と言わんばかりのデザート類、ブラウニー、ゼリーで固めた果物、パンプキンパイ、クリームケーキ、チーズケーキなどが盛大に並び、それを各自勝手にプラスティックの皿に好きなだけ取り、プラスティックのフォーク、ナイフ、スプーンで食べます。

そして、席も空いているソファーやテーブル、カウンターに陣取り食べるという…スタイルです。ホストがもう少しいかがですか、お代わりはどうですか、などと気遣いをしないし、ゲストも食べたい分だけ自分で決めて満腹にすれば良いし、腹八分でも、腹半分でもお好きなようにと、至って気が張りません。こんなところで遠慮する人はいません。

言ってみればテンデバラバラの組があちらこちらにでき、最近どうしているの式の短い会話に花が咲きます。ですから、そこに集まった人、およそ三十数人になりましたが、一つの話題をみんなで聞き、会話することはありません。それはそれで良いのですが、食べ終わり、皿やナイフ、フォークから手が離れると同時に、皆が皆、スマートフォンを見て、何やらやり始めたのです。

それはもう唖然とするような光景でした。互いにスマートフォンの写真を見せ合って近況報告をしていることもあるでしょうし、最近見つけた面白いFacebookを見せ合っていたり、その日このパーティーに来られなかった親類、子供たちの写真を見せているのかもしれません。

ですが、それにしても、"ナマの人間"が集っているところで、直接会話をせず、スマートフォンでピコピコやっているのは、何か異常な情景でした。数えてみたところ、その時点で三十数人中18人がスマートフォンを見ていました。

人間の関係は直接面と向って話をすることから始まり、互いに理解を深めるのも顔を見ながら話をするのが唯一の方法だという概念はもう過去のモノになってしまったかのようなのです。アメリカ人の67パーセントは携帯、スマートフォンの受信音が鳴っていないのに、習慣的に携帯、スマートフォンを取り出して見るそうです。あれは一種の中毒ですね。

このパーティーに集まった人たちで、携帯、スマートフォンを持っていないのは、生まれたばかりの赤ちゃんと、私たち夫婦だけなのは間違いありません。

インターネットですべて知ることができる…というのは幻想もいいところで、肝心の人間との触れ合い、ある物事を探し求める過程の大切さが忘れられているのです。さる高名なヴァイオリニストが若く優れた弟子に、曲を仕上げる時、できるだけ作曲家直筆の楽譜を一度でも良いから見るようにと教授していました。

直接手で書いた楽譜には、読み易く綺麗に清書され出版された楽譜にない何かがあるのでしょう。ある特定のことを求め、それに近づいていくというのはきっとそういうことなのでしょう。簡略化され、安易に得られる知識は、体内で熟成しないのです。

Twitterが世に出たとき、その社会的影響力に驚きました。有名人、企業家、政治家も大いにTwitterを利用し、自分の意見を述べ、立場を主張し、それに対し、即応するように膨大な数の人たちが、自分の"つぶやき"を書き込みました。これでサイレント・マジョリティーという大集団がなくなるのでは…と思わせました。韓国の大統領、朴さんバッシングもTwitterあってのことでしょう。

ですが、Twitterというソーシャルネットワークは、匿名でも書き込めるので、無責任になりがちなのです。"お前の顔なんか見たくもない、死んでしまえ"式の罵詈雑言を名指しで書き込めるのです。Twitterはマイナス面、負の広がりを持った両刃の刀なのです。あくまで"つぶやき"ですから、最初から斬新的なアイディアや創造性が生まれることを期待してはいませんでしたが、あまりに負の作用が強く大きくなりすぎているように思えるのです。

ソーシャルメディア関係の人も、Twitterは人を支える言葉より、コキ降ろす言葉の方が何百倍も強くなる、事実無根のスキャンダルを匿名でばら撒くことができるからだ、と警告しています。

大昔になりますが、寺山修二さんが、「書を捨てて、町に出よう!」と呼びかけたことがありますが、今では本を読む人は極めて少なく、書はとっくに捨てられています。ところが、今では書を捨てた手にスマートフォンを握り締め、町に出て、ポケモンを始めたのです。彼らが街灯にぶつかろうが、車に轢かれようが私の関与するところではありませんが…。

私自身持ったことも、触ったこともないのですが、スマートフォン自体きっととても便利なものなのでしょう。日本のコトワザにあるように、"馬鹿と鋏は使いよう"、それにスマートフォンも加えると現代的な格言になるでしょうね。

ウチの仙人は、「あれをピコピコやっている奴、あんまりカッコ良くみえないな~"とつぶやいていました。そんなことを言ったら、アメリカ人、日本人の80パーセント以上がカッコよくないバカ、アホに分類されてしまいますが…。

 

 

第499回:通行権と既得権

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Grace Joy
(グレース・ジョイ)
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中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

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