第490回:アメリカ “監獄ロック”
この題をみて、エルビス・プレスリーの『監獄ロック』 を思い出す人は相当古い人です。
アメリカの監獄はとても人気があるのか、現在、220万人以上の囚人が繋がれています。オー・ヘンリーの短編小説に、毎年冬になると寒さを逃れるために小さな罪を犯し、牢屋で越冬する(しようとする)話があるくらいですから(The
Cop and the Anthem by O. Henry)、シバレル街頭で越冬するより、三食付で囚人になる方が楽なのかもしれませんね。
一口に220万人と言いますが(2013年の統計です。青少年犯は含まない、成人の囚人は222万300人います)、一つの大都市丸抱えの人口で、それを税金で養っているのですから、刑務所が多少混雑し込み合っていても囚人の皆さんには我慢してもらわなければなりません。でも、たくさんのネズミを狭い空間に閉じ込めておくと、次第に残虐性が増し、すぐに互いに噛み付き合うようになるように、囚人も詰め込み過ぎると、刑務所内での暴力事件が多くなり、暴動に走る傾向が急激に高くなるそうです。結果、アメリカの刑務所はとても荒れ、すさんでいます。
アメリカ人108人に一人が刑務所暮らしをしており、保釈中、執行猶予を加えると51人に一人になります。また、28人に一人の子供の両親、もしくはどちらかの親が現在刑務所に入っている状態です。アメリカの総人口は全世界、地球上の人口の5%にも及びませんが、全世界の囚人数の25%はアメリカで牢屋に繋がれている囚人が占めているのです。
現在捕捉されているか前科のあるアメリカ人は6,500万人にもなり、全人口の4分の1にもなりますから、4人に一人は前科持ちか刑務所にいるという恐ろしいことになります。どこからどう観ても、アメリカは軍事大国ですが、犯罪大国でもあるのです。
刑務所関係だけで、警察や裁判費用を加えないで、年に80ビリヨンドル(8兆円以上に相当)も使っています。東京オリンピックの予算が1兆8,000億円から3兆円になりそうだと問題になっていますが、可愛いものです。
そこで、各州では刑務所を下請けに出しています。現在、37の州に私立の刑務所があり、囚人全体の11%がそこに収容されています。
とかく、公営でやるとすべてに無駄が多く、費用がかかり過ぎる。それなら、一応の基準を設けて民間に依託してしまえということになったのでしょう。民営刑務所の方が繁盛しているのです。なんと、刑務所会社の株価は安定した成長を示し、ウォールストリートの評価も高いのです。しかも1.31ビリヨンドル(1,310億円相当)の利益を上げています。
二つの大手の刑務所会社、CCA( Correctional Corporation of America)とワッケンハルト(Wackenhult)で監獄業界の75%を牛耳っていますから、独占に近い業界で、投資している会社はAT&Tをはじめ通信、ハイテック会社が軒並み名を連ねています。さすがに、ヒルトンやシェラトン、そしてホリデイ・インは関係していないようですが…。
民間刑務所が利益を上げることができるのは、もちろん一人頭幾らの政府援助が出ることもありますが、囚人を時給25セントから40セントで働かせることができるからで、普通の企業は最低賃金法で8ドルから12ドル(州によって異なります)を払わなければならないのに対し、その20分の1以下の賃金で囚人を使うことができるメリットがあるのです。
それなら、なぜ合衆国政府、州政府の刑務所もそのようにしないのか…と思うのですが、民間刑務所に回される囚人は模範囚だけで、暴力犯罪歴のある人は厳しい公営の刑務所に留め置かれますから、州の監獄に居残る囚人は、目の離せない凶悪犯が多いのです。それだけ費用もかかるのだそうです。
なんだか、奇妙な監獄事情コラムになってしまいましたが、このような数字を見るたびに、私のような薄給でも月給の3分の1近く徴収される税金が監獄に使われ、さらに膨大なお金が軍事費に使われているのを嘆かないわけにはいきません。そんなお金を教育と福祉に少しでも余計に回して欲しいのですが……。
第491回:お金と時間がかかるアメリカ民主主義
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