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■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から

第475回:飛行場と特権階級?

更新日2016/08/11



いつから飛行機の旅が、こんなに重く感じられるようになったのでしょう。長旅をするには、私が歳を取り過ぎているのは確かですが、以前、昔と言った方が当たっているかしら、飛行機に乗るのはとってもスムーズで、しかもクリスマスやイースター、学生さんたちの夏休み、冬休みのピークシーズン以外は、それほど混雑していなかったように記憶しています。

まず、飛行場での安全検査ですが、アメリカでは例のワールドトレードセンター爆破事件以降、とても厳しくなりました。テロ対策として乗客の安全を図っているのは分かるのですが、そのセキュリティーチェックで働いている人たちの態度たるや、まるで牛馬を追い込むカウボーイの方がもっと動物に優しいのではないかと思うくらい酷いのです。

延々と続く長い行列で待たされた挙句、牛馬以下の乱暴な扱いを受けるのですから、空の旅の出鼻をくじかれることになります。日本やドイツ、イギリスでは、あんなに丁寧でスムーズな安全チェックが行われているのに、どうしてアメリカでそうのようにできないのかとても不思議です。

安全チェックのために、余りに待たされるという苦情が多かったのでしょう、今アメリカではお金を払い(80ドルでしたが最近100ドルに値上げされたと聞いています)、交通安全局へ面接に出向き、"テロリストにあらざる善良な市民である"という特別なIDカードをもらうと、特急安全チェックを通ることができるパスを発行してくれます。ディズニーランドで長時間並ばなくてもよいエクスプレスガードを大枚払って購入するようなものです。

このやり方ほど嫌な臭いのするものはありません。飛行場、飛行機を我がモノ顔に常時使うのは、ビジネスマン、ビジネスウーマンかお金持ち階層で、航空会社にとって大切なのもこれらの階層です。そして、一番色々苦情を言い、クレームを付けるのも彼らです。ですから、彼らだけに特権を与えてしまえば、その他大勢は牛馬か大人しい羊のように並ばせておけ…という考えが見え見えです。特権階級の人たちを優遇すれば、それだけ普通の旅行者にしわ寄せが来ることは明確なのですが。

ですから、現在、アメリカの大きな飛行場の安全手荷物身体検査は、ファースト、ビジネスクラス用、グローバル安全チェック"テロリストにあらざる善良な市民である"証書を持っている人用、航空会社の社員用、そして下々のそんな役得、特権をなにも持っていない旅行者用と分かれているのです。

そして、大混雑しているゲートからやっと飛行機に乗り込むのにも順番があるのはご承知とおりです。これもとても奇妙なやり方で、着席の際の混雑を避けるのなら、昔のように一番奥のほうから、機内に案内すべきなのですが、逆に前の方のファースト、ビジネスクラスの方を優先し、それから、ダイヤモンド、サファイア、エメラルド、プラチナ、ゴールド会員とかが乗り込み、普通の旅行者は一番最後になります。

おまけに飛行機に乗り込む時、特権階級の人たちのところには2、3メートルだけの赤い絨毯などを敷き階級意識をくすぐっています。そこを抜ければ、すぐにあの蛇状のタラップなのですが。インターネットで飛行機の切符を購入する時に気が付いたのですが、優先搭乗の権利を15ドルから20ドルで売っているのです。あきれ果ててしまいました。

私は飛行機に乗り込むのはいつも、最後の最後、ドアが閉まる前と決めています。狭い座席にベルトで縛りつけられる時間は短かければ短いほど楽だと思うのですが。それに、先に優先搭乗とやらで乗り込んだエリート面をした人たちを待たせてやれ…という気持ちもなきにしもあらず…ですが…。

飛行場の騒々しさでは、アメリカと日本はよい勝負でしょう。ただ、大きな違いはアメリカのアナウンスはウチのダンナさんから、「オイ、今何って言ったんだ?」と言わせるほど、話し方、マイクロフォンの使い方のイロハのトレーニングを全く受けず、お客さんに情報を伝えるという基本を全く無視し、酷い訛り、早口で怒鳴るだけです。まさにガナリたてているのです。 私でも聞き取れないことが再三あります。どうしてもっとハッキリとゆっくりと誰にでも分かるようにアナウンスできないのでしょうか。

日本はそれとは逆にとても丁寧なアナウンスで、それは良いのですが、まるで幼稚園児を引率している保母さんのように、何度も、何度も、繰り返すのです。飛行場を静かな心地よい場所にしようというより、一人でも積み残し? が出ないようにと言う気遣いなのでしょうね。そんなアナウンスが乗客にとって、必要以上にしつこく、煩わしいとは想像もしていないのでしょうか…。

これがドイツ(フランクフルトですが)ではアナウンスなど全くないことが多く、この前の旅行でも、ゲイトが変更になった放送は全くなく、ゲイトに行ってから、アレッ誰もいないな~~と思ったら、ゲイトの上の電光掲示板にゲイト変更の表示が出ていました。ゲイト前の待合室も恐ろしく静かで、時間が来たら、乗客はなんとなくといった感じでゾロゾロ搭乗口に向かいました。

一つの待合所に2、3の搭乗口があったりで、オット、こっちでなかったと引き返してくる人もいるくらいでした。飛行機の出発が1時間以上遅れても言い訳、謝罪、理由の説明の一言もないあたり、どうなっているの…と言いたいところです。 

飛行機の遅れで、私たちの乗り継ぎがかなり難しくなったことがありましたが、乗務員が真っ先に飛行機から私たちを降ろしてくれ、しかも特別のバスを飛行機の横に手配し、税関に横付けしてくれ、出国手続きを圧倒的にスムーズに運んでくれました。おまけに担当の女性は、税関からゲイトまでの長い距離を走って私たちを案内するため、ヒールの付いた靴を脱ぎ、裸足になって力走してくれました。

ですから、旅客一人ひとりに対する配慮、必要なサービスは行き届いているのでしょう。それにしても、ラウドスピーカーなどを一切使わず、すべて静かに、個人的に対処してくれたのには感心しました。私もダンナさんも少しは走れますが、彼女は見事なフットワークで私たちを引き離して力走したことです。

アメリカに帰り、FJKニューヨーク飛行場での騒音の渦巻く混沌に迎えられ、憂鬱な気分になったのは、何も長い夏休みが終わったことだけではなさそうです。

 

 

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Grace Joy
(グレース・ジョイ)
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中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

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