■Have a Nice Trip! ~そしてまた、新たな旅が始まる…

安田 修
(やすだ・おさむ)


1958年、神戸生まれ。ルポライター、JTB 系広告代理店(マーケティング・制作)等を経て、現在はフリーとしてライターや出版企画などのプランナーとして活躍する。世界の辺境が大好きな現役バックパッカーで、ネットサークル「海外に住もう会」を主宰している。世界各国の移住情報や長期旅行の情報をまとめた「海外移住情報」をネットで公開中。
著書『日本脱出マニュアル』


第1回:ベトナム・ホーチミン
第2回:中国・大連
第3回:フィリピン・セブ島
第4回: ネパール・カトマンズ
第5回: メキシコ、オーストラリア
第6回: パキスタン・ギルギット
第7回: 戦争を知りたい女子大生
第8回:悪夢のハンガリー・スロヴェニア徒歩越境
第9回:今時の卒業旅行者たち
第10回:冬の欧州、貧乏旅行者は辛いよ
第11回:天国に一番近い島
第12回:ベトナム、シクロ物語
第13回:バリ島のジゴロたち
第14回:ベトナム、路地裏カフェ物語
第15回:ネパール、チベット難民キャンプの女性たち
第16回:バリ島、労働査証のない日本人店主たち
第17回:ミャンマーは日本の田舎?





■更新予定日:毎週木曜日

第18回:イタリア、トリエステ駅のカナダ人

更新日2002/07/18


イタリア北部、スロヴェニア国境にも近いトリエステはアドリア海沿岸の街。バスターミナルに降り立ち、隣にある鉄道駅で時刻表を見ると、次の深夜列車まで約4時間待ち。夜の9時を回っているために駅構内のカフェはすでにクローズしていた。

外は小雨が降り、3月だというのにかなり寒い。暖を取ろうと駅の待合室に入ると、中はホームレスで占拠されていた。といっても、雰囲気はそれほど悪くなかったので、片隅に座って時間待ちしていると、純朴そうな白人パッカーが入ってきた。目と目が合うと一目散に駆け寄ってくる。

「ここはデンジャラスだから、隣に座っていいか? 何でホームレスばかりなんだ、信じられないよ」

カナダから来たというこの青年、ウクライナの英語学校教師の職を得て、これから東欧を鉄道で横断しながらウクライナへ。海外旅行は初めてだけに、赴任する旅のついでにあちこちを廻っているらしい。ウクライナの就労査証シールが貼られたパスポートを見せながら、「共産圏はエキサイティングだから、とても楽しみなんだ」とうれしそうな笑みを浮かべる。

しかし不安なのか、トイレやタバコを吸いに席を立つ度にピッタリついてきて離れようとしない。そのうちに大柄なイタリア人女性がやってきて、ハンサムなカナダ人青年に話しかけてきた。周りのホームレスたちは、「相手にするな」といった合図を送っているものの、生真面目な性格なのか、一生懸命に話しに応じている。

すると突然、スカートを捲り上げて積極的アプローチ。びっくりしたカナダ人は泣きそうになっている。助け舟を出して待合室を出ると、寒いプラットホームのベンチへ。

クロアチアに寄るというので、駅前の安宿やスーパーマーケットの地図を書いたりして時間を潰すものの、寒さには耐えられず待合室に戻ることに。

中を覗くと、イタリア人女性がいなかったので一安心。その代わりに大勢のボランティアで待合室は満員になっていた。ボランティアはそろいのユニホームを着て、飲み物やお菓子、パンなどをホームレスに配ったり、個別に生活や悩みの相談に応じている。

こんな光景にカナダ人青年はいたって感激。「イタリアって凄いんだ。進歩しているよね…」と言うと、カバンの中をごそごそ。中から10ユーロ札を10枚取り出して寄付を申し出たものの、ボランティアたちはその中から3枚だけ受け取った。

「多額の寄付はありがたいけど、少しでいいよ。旅にお金は必要だよ。よかったら君たちもパンとスープを食べないか」。
それから約1時間、ボランティアたちやホームレスたちとも会話が弾み、発車までの時間があっという間に過ぎ去った。

列車に乗ると、カナダ人はすぐに熟睡。国境で係官がやってきてもなかなか目を覚まさない。イタリア側の国境では日本のパスポートよりもカナダのパスポートの方が信頼があるようで、カナダ人のフリーパスに対して、こちらにはしつこい質問が飛んできた。

やがて列車はスロヴェニアのリュブリャーナに到着。再び揺り動かして起こして、「ザグレブまでの5時間、無用心だから熟睡しない方がいいよ」と言って列車を降りたものの、多分効き目はないだろう……。

 

→ 第19回:カンボジア、身請けした日本人ツーリストたち