■Have a Nice Trip! ~もうひとつの生き方。日本を離れて……

安田 修
(やすだ・おさむ)


1958年、神戸生まれ。ルポライター、JTB 系広告代理店(マーケティング・制作)等を経て、現在はフリーとしてライターや出版企画などのプランナーとして活躍する。世界の辺境が大好きな現役バックパッカーで、ネットサークル「海外に住もう会」を主宰している。世界各国の移住情報や長期旅行の情報をまとめた「海外移住情報」をネットで公開中。
著書『日本脱出マニュアル』


第1回:ベトナム・ホーチミン
第2回:中国・大連
第3回:フィリピン・セブ島
第4回: ネパール・カトマンズ
第5回: メキシコ、オーストラリア






第6回: パキスタン・ギルギット

更新日2002/04/25 


人気アニメ映画『風の谷のナウシカ』のモデル舞台として、一躍有名になったパキスタン北部の桃源郷「フンザ」。イスラム教国パキスタンの中で、中央アジア系の民族が生活する平和な村。女性も顔を出して歩き、バックパッカーには特に人気が高い。北に行くほど金髪で、青い目の住人の姿に変わっていく。

このフンザに行くための基点の街「ギルギット(Gilgit)」には、日本人ミドル女性Kさんが運営するゲストハウスがあった。もともと山が好きで、旅人としてこの地を何度も訪れていたKさんは、いつしかパキスタン人の前オーナーから経営を引き継いだとか。

「日本の山とは全く違うでしょう。ごつごつした殺風景な岩山ばかりだけど、季節によっても表情が変わるのよ。フンザに行ったら中心のカリマバードだけじゃなく、もっと北のグルミットやパスーにも足をのばすのがいいわ。パスーには手軽に楽しめるトレッキングコースもあって本当の山の素晴らしさがわかるから…」
こう話している間にも、時折Kさんの元に地元の観光業者やトレッキング・ガイドが訪ねてきては何やら相談事。すっかりこの街に根付いている様子である。

また、ここに泊っていると山小屋にいるような感覚になったりもする。停電の多い場所柄、夜はほとんどランプを囲んでの夕食。宿泊者が一堂に会し、大皿に盛られた料理を取り分けて食べる。宿で飲食したものは自己申告制でノートに書き込み、帰る時に精算。ホットシャワーは停電時には使えないので、近所の理髪店に行ってお湯をバケツに入れてのバケツ風呂となる。

「最近はフンザに行く日本人が多くてびっくり。パッカーだけでなく、サラリーマンやOLの人が1週間ほど休暇を取ってくる場合も多いのよ」
フンザに行くとすれ違う人がみんな笑顔で挨拶するので、挨拶疲れするほど。フンザの住人は言った。
「日本人が何故この村に大勢やって来るのかよく分からない。私たちはお金や便利な文明社会には関心がないし、ただ普通に助け合って暮らしているだけ。私たちにとっては、それが一番の幸せ。日本人の幸せは違うのか?」

日本では味わえない純粋な人と人との触れ合いを求めて、日本人はやって来るのだろうか?
パキスタン西部の異教徒の村"カラッシュバレー"に話がおよぶと、Kさんの目がさらに輝いた。カラッシュバレーは、伝統的な宗教や風習を重んじているために、パキスタン政府から特定地域に指定されている。村に入るには入域許可証が必要で、金髪で青い目の民たちが自給自足している。

「カラッシュバレーまで足をのばす日本人が、まだまだ少ないのがとても残念。フンザと同じでやさしい人々ばかり。フンザとはまた異なる別の世界が見られるわよ。山の風景も独特なものがあるし…」

山と少数民族にこだわる、日本人のひとつの生き方がここにあった。

 

→ 第7回:戦争を知りたい女子大生