■Have a Nice Trip! ~そしてまた、新たな旅が始まる…

安田 修
(やすだ・おさむ)


1958年、神戸生まれ。ルポライター、JTB 系広告代理店(マーケティング・制作)等を経て、現在はフリーとしてライターや出版企画などのプランナーとして活躍する。世界の辺境が大好きな現役バックパッカーで、ネットサークル「海外に住もう会」を主宰している。世界各国の移住情報や長期旅行の情報をまとめた「海外移住情報」をネットで公開中。
著書『日本脱出マニュアル』


第1回:ベトナム・ホーチミン
第2回:中国・大連
第3回:フィリピン・セブ島
第4回: ネパール・カトマンズ
第5回: メキシコ、オーストラリア
第6回: パキスタン・ギルギット
第7回: 戦争を知りたい女子大生
第8回:悪夢のハンガリー・スロヴェニア徒歩越境
第9回:今時の卒業旅行者たち
第10回:冬の欧州、貧乏旅行者は辛いよ
第11回:天国に一番近い島
第12回:ベトナム、シクロ物語
第13回:バリ島のジゴロたち





■更新予定日:毎週木曜日

第14回:ベトナム、路地裏カフェ物語

更新日2002/06/20


ベトナムは世界第2位のコーヒー生産国。最近では日本にベトナムカフェのチェーン店が進出し、ベトナムコーヒーファンを喜ばせている。

どこの街にもいたるところにカフェはあるものの、近代的なカフェというのはまだまだ少ない。ほとんどは路地にイスを並べただけの露天カフェのようなもので、通称"路地裏カフェ"と呼ばれている。旧フランス統治の影響がみられる簡易オープンカフェといったところだ。コーヒーファンにとっては、一杯3,000ドン(約40円)前後で楽しめる環境は天国状態だ。

安宿が集まるホーチミン市のフォングーラオ地区。メインストリートのデータム通りのはずれには、道の両側に10軒程度の路地裏カフェが並び、それぞれが競い合っている。観光客エリアと隣接しているのに、何故か観光客の利用はほとんど皆無。

「ここに集まっているカフェは他のカフェとちょっと違うでしょ。それぞれのお店が看板娘をアピールしているから、お客さんのほとんどは20代の男の子。一杯4,000ドンと少し高いけど、お客さんはいつもいっぱい。一番嫌われるのは、あちこちのお店に出入りする人。だから皆、この店と決めたら同じ店しか入らないの」。

とはいうものの、フォングーラオに長く居ると、一日に何回もカフェに足を運んで暇を潰すことも多いので、ついあちこちのお店に入ってしまう。「浮気もの」と言われても、違うお店に入ると、それだけ多くの出来事と遭遇したりする楽しみもあるからしょうがない。

一番の驚きは、時折やってくる警察官の見回りチエック。道にイスを並べるのは違法なために、警察官を見つけると店とお客が一緒になってイスとテーブルを店内に積み上げる。そのドタバタ劇はまるで漫画やドラマのよう。めったに資材没収とはならないものの、街の露天カフェが摘発されて、トラックにすべてを積み込まれる姿を時々目撃した。

また看板娘たちと顔なじみになると、必ず「両親を紹介するから」と家に招かれる。暇なので家へ行ってみると、「結婚しないか」といった両親からのアプローチ。理由は「日本人だから・・・」といった、これまた決まり文句なのだ。

いろいろ聞いてみると、難民として海外生活する親戚からの仕送り収入が家計を支え、海外に住む親戚が多いほど豊かな生活が保証されるという。外国人の顔がお金に見えるというのがベトナム人の平均的意識。こういったイージーな結婚をしてしまう日本人男性が多いというのも事実らしい。

一方、ベトナムのカフェ生活にはまってしまい、路地裏カフェを開店したいと考える旅行者も多い。現地の新聞にはカフェの売買コーナーがあり、全国各地のカフェ売買情報が載っている。ホーチミンの場合だと10万円前後で権利が売買されていて、権利を入手した後は、営業用の備品を揃え、毎月の家賃を払えばいいだけ。

「カフェの経営はベトナム人にとってはとってもポピュラーだから、やる気になれば誰でもできるわ。ただ数が多すぎるから大変だけれど……。そこそこお客さんが入って、経費を引くと、毎月の利益は100ドル位あればいいほうよ」。

こう話すカフェの雇われ看板娘も、自分のカフェを出すのが夢という。ホーチミンに長期滞在している日本人旅行者も、「利益は1万円でも、10軒持てば10万円の収入」と路地裏カフェ開設を真剣に計画していた……。

 

→ 第15回:ネパール、チベット難民キャンプの女性たち