■Have a Nice Trip! ~そしてまた、新たな旅が始まる…

安田 修
(やすだ・おさむ)


1958年、神戸生まれ。ルポライター、JTB 系広告代理店(マーケティング・制作)等を経て、現在はフリーとしてライターや出版企画などのプランナーとして活躍する。世界の辺境が大好きな現役バックパッカーで、ネットサークル「海外に住もう会」を主宰している。世界各国の移住情報や長期旅行の情報をまとめた「海外移住情報」をネットで公開中。
著書『日本脱出マニュアル』


第1回:ベトナム・ホーチミン
第2回:中国・大連
第3回:フィリピン・セブ島
第4回: ネパール・カトマンズ
第5回: メキシコ、オーストラリア
第6回: パキスタン・ギルギット
第7回: 戦争を知りたい女子大生
第8回:悪夢のハンガリー・スロヴェニア徒歩越境





■更新予定日:毎週木曜日

第9回: 今時の卒業旅行者たち

更新日2002/05/16


3月に海外に出ると、どこもかしこも大学生の卒業旅行者たちでいっぱい。新たな人生の門出を前にした"世界を旅する儀式"は完全に定着したようだ。もちろんどこの国に行くか、どういう滞在方法をするかは千差万別。

2002年3月に東欧へ旅した時も、安宿は卒業旅行者たちで占拠されていた。
「無難に勤めて、そこそこの給料もらって。社内で正論を言う気もないし、ひたすら長いものに巻かれろ主義ですよ」。

一流大学を卒業し、一流企業に就職が決まっいるエリートたちからは、同じような答えが返ってくる。今、日本は良くも悪くも変わろうとしているものの、彼らたちと話していると日本の将来は暗い……。

一方、ひたすら客観的な学生もいた。
「就職なんかしたくないけど、食べていくにはしょうがないから一応就職しただけ。社会経験がないので、とにかく2、3年勤めてみて、白紙でもう一度見つめ直すつもり。旅に出たのも、その時にいろんな判断ができるように、世界の様々な価値観や社会観を知っていた方がいいのではと思ったから。ただヨーロッパは正直言って退屈。美術館や名所に興味はないし、生活も日本と大差ないような気もしますね……。アジアや中南米に行けばよかったと少し後悔しているんですよね」。

こう話す彼は、西欧中心だった予定を急遽変更して、卒業旅行者があまり行かないボスニアやユーゴスラビアなどに旅発った。

アジアを回ってやってきた女の子の卒業旅行者は、「旅に出ると考える時間が山ほどあるのが何より」と言い、色々と自分を見つめ直すこともできたようだ。

「日本にいると欧米志向が強いでしょ。でも旅に出て、アメリカ人の傲慢さも嫌というほど分ったし、ヨーロッパにくると自分が日本人であること、アジア人であることを痛切に感じました。就職も親の言うがままにしたので猛反省。日本に帰ったら、就職を止めてアジアを本格的に旅してみようかと考えているところです」。

また、卒業旅行者たちの共通の思いは、おかしいまでに一致している。話をした学生たちからは一様に同じ質問が飛んでくる。

「今度、自由な長い旅をしようと思ったら、会社を辞めたり、自由業に転身するしかないですよね。聞いている話だと、休職制度があっても白い目で見られるらしいし、会社を辞めて旅に出て、次に就職する時の面接では嫌味を言われるとか。何かいい方法ありますか?」。

こんな質問をする彼らの目は意外なまでに真剣そのもの。社会人の多くも、同じような悩みを持っている人が多い。旅に出たくても、会社を辞める勇気がない。帰国した後のことを考えると二の足を踏んでしまうといった感じだ。

しかし考えてみると、会社を辞めて旅に出るということは"自分の生き方"を証明することでもあり、旅をきっかけに新たな自分を創造することという見方もできる。もちろん破壊がなければ創造もない。ある雑誌のアンケートでは、会社を辞めて旅に出た90%の人たちは後悔していないといい、帰国後の障壁にも立ち向かっている。そんな話をすると卒業旅行者たちの目が輝いてくる。

今度彼らはいつ長い旅にでるのだろうか? 
いずれにしても、人生の節目になることだけは間違いないようだ。

「海外移住情報」東欧写真集
http://www.interq.or.jp/tokyo/ystation/eep.html

 

→ 第10回:冬の欧州、貧乏旅行者は辛いよ