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■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から

第536回:核兵器撲滅運動の怪

更新日2017/11/02




今年のノーベル平和賞は“核兵器廃絶国際キャンペーン”委員会(ICAN)に贈られました。被爆国である日本が中心になって、核兵器を地球上からなくしようという市民運動がやっと稔ったのかと思っていましたが、これこそ私の認識不足もいいところで、日本は国としてICANの核兵器廃絶国際条約に加わっていないことを知り、大変ショックを受けました。

北朝鮮が核兵器搭載のミサイルを打ち上げる、ということは、落とす可能性が日増しに強くなる中で、日本が率先してこの核兵器撲滅キャンペーンをリードしていると思い込んでいたのです。ですが、この運動を国際的に組織し、核拡散から、減少、そして廃絶に持っていこうという人道主義以前の当たり前すぎるキャンペーンを始めたのはオーストラリア人のグループで、それに共感した主にヨーロッパの人たちがジュネーブに本部を置き、全世界に働きかけ、成果を挙げてきたのが認められたことのようです。

この核兵器廃絶キャンペーン条約に国として参加し、サインをしている国は122ヵ国になります。もちろん核兵器を持っている9ヵ国は(アメリカ、ロシア、中国、イギリス、フランスいずれも第二次世界大戦の戦勝国、そしてインド、パキスタン、イスラエル、北朝鮮)、原子爆弾を持ち、いつでも使えるこれらの国は、そんな平和団体の条約など無視してサインしていません。

核兵器を所有していないのに、この条約に加わっていない大国?は日本だけなのです。一体どういう理由があって、これをどう説明するのでしょうか。いつでも、核兵器を作れる国、プルトニュウムの蓄積があり、すぐにも原子爆弾に転用できる国ということになりますが、トップ3はイラン、シリア、ミャンマーです。過去に原子爆弾を持っていたけど、それを破棄した国は南アフリカ共和国だけです。

ノーベル平和賞受賞が決まった時、ICAN委員会は名指しで核兵器を持つ国と日本を非難しているのに驚いてしまいました。アレッ? 日本は何をやっているの、どうしたのと呆れ果ててしまいました。市民運動と政治の格差が大きく開いているのでしょうか。国連で核兵器撲滅のスピーチをした被爆者であるソーロー節子さんは、そんな日本の政治をナサケナイ国だと、コメントしていました。

たしかに、ICANのような平和的な運動に“力”、強制力がないとはいえます。そんな弱いモノが集まってワイワイ騒ぐだけの国際キャンペーンはマスコミを賑わすだけで、実際に戦争の危機になった時、核兵器保有国がそんな平和運動はあっさりと無視するでしょう。

北朝鮮の金正恩は、日本などは俺がボタンを押せば瞬時に地球上から消し去ることができると豪語しており、それに対し、トランプ大統領はより具体的に彼が支持を出してから4秒で北朝鮮へ発射できるミサイルをすでに配置してある、戦艦や基地から発射できると、まるでヤクザが張ったり、脅し合いをしているようなのです。

核兵器の恐ろしさは、このようなあまり正気だとは思えない国のトップが感情的に判断し、ボタンを押すことができることです。

人は誰でも自分の信じたいことを信ずるものです。
建前と本音の差が両極端に違っていても、建前が健全ならそれでヨシと思いたがり、思い込んでしまうのです。日本が唱える非核三原則“作らず、持たず、持ち込ませず”が絵に描いた餅で、そんな念仏を唱えている間も、核兵器をフンダンに搭載したアメリカの戦艦が数限りなく日本に立ち寄っていますし、日本にある米軍基地内にも核を積んだ爆撃機が離着陸を繰り返しています。

日本の米軍基地内には、核兵器が恐らくあるでしょう。そんな現実に目をつぶり、非核三原則をオマジナイのように唱えていても意味がないどころか、とても危険なことです。いつかは現実が表に出て建前を乗り越えてしまうからです。北朝鮮にそんな基地、港の施設を攻撃する口実を与えているようなものです。北朝鮮でなくても、どこの国でも、自国に向けた核兵器施設を真っ先に攻撃するのは当然のことでしょう。

日本の沖縄の米軍基地、核兵器を搭載した軍艦が立ち寄る横須賀、佐世保が北朝鮮の標的にするのは当然のことで、金正恩とトランプの喧嘩でトバッチリを食うのは韓国と日本なのは明らかです。それにアメリカは伝統的に他の国に何が起ころうが、何をしようが全く気にしませんから、韓国人や日本人が半分くらい死んでも、自国の利益が得られるなら仕方がない、ご不幸でしたで済ませるのことは目に見えています。軍事施設ではなく、広島、長崎に原子爆弾を落とし大量の市民を殺したのは、アメリカ兵の犠牲を少なくし、戦争を早く終わらせるために必要だったといまだに信じているのがアメリカ人なのです。

なんせ、アメリカから遠く離れたアジアの一角で、しかも石油の出ない資源の乏しい国のことなど、どうなろうと所詮、アメリカにとって対岸の火事なのです。

国の独立と安全を守るなら、自国だけで、もしくは対等の立場で他国と協調しなければなりません。日本にある米軍基地や日本に寄航する戦艦への調査権もなしで、ただアメリカサイドの言っていることだけでヨシとする、そんな間の抜けた条約を信用するお人良しの国、政治は世界広しといえども、日本以外にまずありませんよ。

 

  

第537回:人間狩り~ラスベガス大量虐殺事件

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Grace Joy
(グレース・ジョイ)
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中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

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